株式会社ピーオーリアルエステートは、2024年3月に竣工したポーラ青山ビルディング敷地内に、復元・移築した東京都指定有形文化財(建造物)である土浦亀城邸の一般公開予約を、2024年9月2日(月)10:00から開始いたします。9月の見学日は9月25日(水)と9月28日(土)の2日間、1日2~3回のガイドツアー形式にて公開いたします。
2024年10月~12月の一般公開予約は、当月1日の10:00に予約開始、日程と予約方法は当社HPからお知らせいたします。
土浦邸は、木造乾式工法によって建てられた戦前の住宅の中でも、当時の姿を今に残す希少なモダニズム住宅です。建築家の故槇文彦氏も幼い頃この住宅を目にし「非常に新鮮だった」と回想を残しています。文化財の継承には、文化財を構成する材料にあたる物理的な「もの」の継承と、文化財を創り出す技術、「わざ」の継承との両面が必要です。今回の6年に亘る復原・移築までの一連の取り組みのなかで、部材や材料等「もの」に関する資料と、ものづくりを実現する技術、「わざ」に関する資料を丹念に整理し、今後も文化財の保存手法として再現しうる形の記録に残すことができました。1935年の竣工から90年もの長い間、戦禍や地震、災害に奇跡的に耐えてきた幸運な土浦邸を、後世に永く繋いでまいります。
一般公開について
月に2日・水曜、土曜を予定。一般社団法人住宅遺産トラストおよび土浦亀城アーカイブズの学識経験者のご協力を得て、1日2~3回のガイドツアーを実施します。
・定員: 15名/回
・観覧料:1,500円/人
・予約開始日:2024年9月2日(月)10:00より予約開始。
・一般公開日時
いずれも各回1時間を予定しております。
《2024年9月公開日程》
・2024年9月25日(水)14:00~/16:00~
・2024年9月28日(土)11:00~/14:00~/16:00~
《2024年10月公開日程》
・2024年10月23日(水)14:00~/16:00~
・2024年10月26日(土)11:00~/14:00~/16:00~
・URL : https://www.po-realestate.co.jp/business/aoyama-tsuchiurakameki.html
※9月2日(月)10:00に上記サイトにpeatixからの予約フォームを開設予定。
戦前日本のモダニズム住宅の傑作 – 土浦亀城邸
建築家・土浦亀城・信子夫妻の自邸として1935年に建てられた、昭和初期の住宅建築を代表するインターナショナルスタイルの都市型小住宅です。1995年に東京都指定有形文化財に、1999年に近代建築の保存活動を行う世界的な組織であるDOCOMOMO JAPANによる最初の20選に選ばれました。
白い箱型の外観に加え、リビングの吹き抜けとスキップフロアによる立体的な空間構成、天井パネルヒーティングを用いた実験的な暖房設備、機能的なシステムキッチンや水洗トイレ等、現代に繋がる住宅の特徴を有しています。畳敷きが中心で台所にはかまどを備えていたような昭和初期の一般的な住宅と比して先駆的な土浦邸は、健康的に楽しく暮らせる理想的な住まいの機能を既に備え、土浦が未来の日本に向けて表現した住宅の理想形であり、建築家の夢が感じられます。
□ 土浦亀城(つちうら・かめき)1897-1996
1897年水戸生まれ。20世紀前半に日本で数多くのモダニズム建築を設計した建築家。 東京帝国大学工学部建築学科に在学中に帝国ホテルの現場の図面作成に携わり、卒業後に妻信子と共にアメリカに渡りフランク・ロイド・ライトの事務所で修行しました。ライトの事務所での同僚であったリチャード・ノイトラや、ライトの事務所の元所員であったルドルフ・シンドラーから欧州のモダニズムについても多く学びました。
みどころ
1. 文化財としての価値の保持と現代の建築設備へのアップデート
オリジナルの意匠を最大限に保持しながら、安全、快適にご覧いただける復原を実現しました。外内装共に、1935年の当初部材を選定、流通していない当初部材については、可能な限り近い質感のものを採用、工法、ディティールも可能な限り維持しています。更に長期的な使用に耐えうる建築性能を確保すべく、耐震・防水などの建築性能や空調等の設備性能には、現代の技術を採用、オリジナルの意匠性を損なわずに織り込みました。
“白い箱”に代表されるモダニズム建築は、防水や雨仕舞の面で当時から多くの懸念がありました。雨と湿気の多い日本の気候風土で木造*乾式工法による陸屋根の採用は困難なため、屋根の防水には当時採用したモルタル防水ではなく、信頼性の高いFRP防水を施し、建物の長寿命化を図りました。
*乾式工法:工業材料のパネルを柱に貼り付けていく工法で、工期の短縮や増改築のしやすさを利点に、1930年代に土浦亀城や市浦健を中心に近代住宅で用いられた。
2. 色彩の再現とオリジナル家具の復刻
1935年竣工当時を復原するにあたり、近代建築においての特徴は「白」ですが、印象を大きく左右する色彩を綿密な調査により再現しました。戦前当時のモノクロ写真では色彩は読み取れないため、今回の復原では竣工時から現在までに、塗り替えを重ねた内外装や建具に施された塗装色を削る「こすり出し」調査によって過去の塗装履歴を判別し、文献での記述を参照しながら竣工時の色彩を再現しています。同時に家具やカーテン、カーペットまで復原した試みも見どころです。家具においても当時の写真から図面を起こし、当時の制作技術を理解できる工房や職人を探して復原に成功しました。
3. 今も残る土浦夫妻の生活のおもかげ
今回の復原・移築では、建具や建築金物に至るまで、可能な限りオリジナルの部材を再使用していますが、破損したり紛失している箇所には外観からはわからないように新たな部材を付け足したり、金物については分解して錆を落とし、なかには金属の塊から削り出し再製作したものもあります。
更に土浦夫妻が使用していたさまざまな生活用品を、生前使用していた位置に戻し、長く大切に住まわれていた温かな生活感を感じさせるよう配慮しました。これは夫妻から土浦邸を相続した秘書の中村常子氏が、約20年に亘り夫妻の居住空間に全く触れずに生活したためできたことです。
現代にも新鮮な息吹を感じさせるモダンな住宅でありながら、随所に残る生活の痕跡が、90年の時の重みを感じさせる復原を実現しました。
□ 復原・移築のプロセス
1996年に土浦亀城が、1998年に土浦信子が逝去した後、同居していた元秘書の中村常子氏が相続し居住していましたが、その後保存を目的に、2018年に建物調査を開始、2020年に東京都より青山への移築が許可され、2021年に解体調査開始、2023年に解体完了、2024年4月に移築工事が完了しました。
建築家の自邸ということで、ほぼオリジナルの意匠が維持された状態でしたが、住み続けることは困難な状況でした。 *陸屋根や木製建具の窓枠から、長年の漏水とシロアリによる被害が激しく、特に基礎周りの躯体の腐敗がかなり進行していました。
「土浦亀城邸」の復原と移築は、詳細な建物調査と緻密な歴史考証により実現が叶いました。
*陸屋根:傾斜の無い平面上の屋根
移築について
1. 上大崎長者丸地区の周辺環境の変化
土浦邸が建てられた上大崎長者丸の敷地は、入り組んだ住宅街となっており、東京都の指定文化財として一般公開が難しい環境になっていました。
2. 復原・移築のプロセスの観点から
復原にあたり、柱梁や極力一体化した状態(大ばらし)で解体された階段や建具の修繕は、敷地内では実施できず、工場への持ち込みが必要でした。
例えば、幅約2.7m・高さ約3.6mに及ぶ鋼製サッシは、錆を落とし腐食部を新材で埋め、歪みを補修する必要がありました。部材を一旦工場に運び出すプロセスを踏む必要があったことから、新たな土地に移設することも大きな支障にはなりませんでした。
3. 港区南青山の敷地の類似性
ポーラ青山ビルディングの敷地の西側道路は、青山通りから南へ下っており、道路からの敷地高低差が上大崎長者丸の敷地とほぼ一致し、より安定したビル地下躯体に乗せることが可能であり耐震性能についても有利でした。文化財の適切な管理・運営を実施することを東京都へ詳細にご説明し、指定文化財の移築許可をいただきました。
原設計(1935年 品川区上大崎にて竣工)
土浦亀城・土浦信子
復原・移築設計(2024年 港区南青山へ移築)
・建築 安田アトリエ
・歴史考証 東工大山﨑鯛介研究室 居住技術研究所
東工大安田幸一研究室(長沼徹他)
・軸組解体記録(3D測量) 東工大藤田康仁研究室
・木軸組調査・軸組図・伏図製図 後藤工務店
・歴史考証協力 田中厚子 前田鉄工所
・実測・図面・模型制作協力 東工大安田幸一研究室
・構造 金箱構造設計事務所
・設備 ZO設計室
・ランドスケープ ランドスケープ・プラス
・監理 安田アトリエ 東工大山﨑鯛介研究室
居住技術研究所 東工大安田幸一研究室(長沼徹)
・施工 鹿島建設
・所在地 東京都港区南青山2‐5‐13(ポーラ青山ビルディング・敷地南面)