思いもよらず、職人の道へ
温かみのある、柔らかな風合い。どこか懐かしさを感じる色味。手に取るとふっと心が緩むような穏やかな佇まいは、お茶から生まれた所以なのかもしれない。日本人の暮らしと共に歩み、静岡の産業として発展してきたお茶。そして、この地に脈々と継がれてきた、駿河和染めの技術が掛け合わさり、お茶染めは誕生した。
穏やかな笑みが印象的な鷲巣恭一郎さんは、お茶染めの第一人者だ。鷲巣染め物店5代目であり、匠宿 竹と染、染色の工房長でもある。鷲巣さんは、静岡北部の羽鳥、自然豊かな山間の地で育った。染家の息子と呼ばれ、染めものの世界は暮らしの中にあった。幼い頃から職人である父の背中を見て育ち、いつか自分も職人になるのだろうと思っていた。けれど、そのいつかは想像以上に早く訪れることとなる。
「21歳の頃、職人だった父が亡くなり、すぐに継ぐことになったんです」
想像していたのは、大学を卒業し会社員を経て、家業へ入る自分の姿だった。21歳。まだ社会経験もないこの頃、急に訪れた選択肢に戸惑った。本当に自分がやっていくことができるのだろうか。今、家業を継ぐべきか、継ぐことを諦めるか、自分自身に問いかけた。そして、家業を継ぐ決意をする。
「まずは実際にやってみて、厳しければ就職をしようと思いました。継がずに廃業するのは、納得がいかないと思ったんです」
決意したその時から、染めもの職人の道がひらかれていった。一年間、デザイン専門学校へ通い、デザインの基礎を学んだ。この時に得た人脈に、以後も助けられることになる。鷲巣さんは、一般的な修行経験が少ない。継いでから初めて、仕事に触れる日々だった。現実は想像以上に過酷だった。受注依頼を必死でこなし、どうにか納品する日々を続けた。
「あの時、どうやって生活が成り立っていたのか、思い返すと不思議なんです。初めての仕事だから、当然失敗もする。染めて失敗してやり直して、徹夜で働くことも多い時期でした」
【泉ヶ谷 工芸ノ宿 和楽】
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築100年を超える古民家を改築したお宿。木の梁や柱の造りなど当初の意匠を残しつつ、調度品は匠の手仕事によって作られた工芸品を取り揃えております。また、別邸の各客室にはプライベートサウナ、檜の水風呂も完備しており、日常の喧騒を忘れ、ゆったりとした贅沢な時間をお過ごしいただけます。