本展では、国立国際美術館の所蔵品の中から、女性の登場する作品に焦点をあて、章ごとに異なるテーマで紹介します。記号化された女性像ではなく、個性や歴史を持った個人としての「彼女」の肖像に、現代の作家たちが何を託し、どのような社会や歴史、関係性が表象されているかに着目します。
本展の見どころ
「女性像」を切り口に国立国際美術館のコレクションを見つめ直す
本展は、国立国際美術館のコレクション展としては初めて、女性像を切り口とした企画です。当館の所蔵作品約8000点のうち、女性の登場する作品は約500点を数えます。今回はその中から、理想化された架空の女性像やいわゆる「裸婦像」や「美人画」のカテゴリに属する作品ではなく、多様な主題と表現による約100点の作品をご紹介します。
作品に登場する女性の存在に注目することにより、作家や女性たちの個人史はもちろんのこと、女性たちを取り巻くさまざまな社会的背景や困難もまた浮かびあがってくることでしょう。ジェンダーの観点を念頭におきつつ、メディア、家族、労働、国家などのキーワードを通して、所蔵作品を新たな角度から見つめ直すことを試みます。
レオノール・アントゥネスら女性作家による新収蔵品を初展示
当館では昨年度、ポルトガル出身で、現在国際的に活躍するレオノール・アントゥネス(1972-)の作品を収蔵しました。アントゥネスの作品は、20世紀半ばに活躍し、日欧を往来した2人の女性デザイナー、山脇道子(1910-2000)とシャルロット・ぺリアン(1903-1999)の活動に触発された彫刻インスタレーション作品です。作品の一部は国際芸術祭「あいち2022」にも出品されました。
本展ではアントゥネスの新作を含む新収蔵作品のほか、関西で活躍する若手画家、谷原菜摘子(1989-)の初期の代表作や、今年のVOCA展(上野の森美術館)に選出され、奨励賞を受賞した片山真理(1987-)による写真など、昨年度新たに収蔵された女性作家による作品をご紹介します。
今年生誕100年を迎える芥川(間所)紗織の大作を展示
芥川(間所)紗織(1924-1966)は、1950年代、型破りな「女」の肖像の連作で注目を集めました。芥川の生誕100周年にあたる今年は、プロジェクト「Museum to Museums」(主催:芥川(間所)紗織アーカイブ実行委員会)として、国内の10か所の美術館にて、各館所蔵の芥川(間所)の作品が展示されています。当館もこのプロジェクトに参加しており、本展では、芥川(間所)のローケツ染めによる大作《「神々の誕生」神話より》を展示予定です。
章構成
第1章 女性像の解体と逸脱
慣習的な女性像を鮮やかに解体し、逸脱するような作品を紹介します。福田美蘭(1963-)による12の断片に解体された実験的な絵画や、名画の登場人物が不在の情景を描く小川信治(1959-)による絵画、カリン・ザンダー(1957-)による3Dスキャンを使用した彫刻など、表現の可能性を広げる作品を展示します。
出品作家:福田美蘭、ミヒャエル・ボレマンス、小川信治、カリン・ザンダー、芥川(間所)紗織
第2章 増殖する女優たち
20世紀半ばに登場した2人の映画スター、マリリン・モンロー(1926-1962)とブリジット・バルドー(1934-)は、セックス・シンボルとして国を超えて人気を博し、多くのメディアに取り上げられました。彼女らはたびたび芸術作品のモチーフともなっています。
モンローの死後に制作されたアンディ・ウォーホル(1928-1987)のシルクスクリーン作品や、ソフィ・カル(1953-)による現実と虚構を攪乱するような作品、アストリッド・クライン(1951-)による、女性の姿態を濫用するメディアに対する批評性を感じさせるコラージュ作品など、2人の女優が登場する多様な作品を紹介します。
出品作家:アンディ・ウォーホル、岡本信治郎、安齊重男/柏原えつとむ、ソフィ・カル、ダーン・ファン・ゴールデン、アストリッド・クライン
第3章 家族の肖像
家族像や、母・妻・娘といった家族の一員を描いた作品を通して、異なる家族のありかたや、個々人の唯一の関係性を想像させる作品を紹介します。
母の古い写真を用いて、あり得たかもしれない個人史としての制服姿の女子学生たちの肖像を描くサニー・キム(1969-)の絵画、親子の葛藤を乗り越え、年老いた母の姿を細部まで緻密に描いた木下晋(1947-)の鉛筆画などを紹介します。
出品作家:野田哲也、小西紀行、サニー・キム、久保田成子、マルレーネ・デュマス、ダーン・ファン・ゴールデン、デイヴィッド・ホックニー、木下晋、荒川修作
第4章 労働と移動
家庭の内外で働く女性や、移動する女性たちの姿がとらえられた作品を紹介します。かつて香港に存在し、スラムと違法な商売の巣窟として名の知られた九龍城砦と、その中で地道な暮らしを営む女性たちの姿を写した宮本隆司(1947-)の写真や、台湾で主にケア労働者として働く移民の人々が自身の見た夢を語る饒加恩(ジャオ・チアエン、1976-)の映像作品などを展示します。
出品作家:ルイス・W.・ハイン、小沢剛、宮本隆司、ジャオ・チアエン
第5章 個人と国家
国家によって引かれた境界線の隣で生きる、女性たちの姿や痕跡をとらえた作品を紹介します。戦後の横須賀で育った作家自身の記憶と、基地の街で働いた女性たちの集合的記憶が重なるような石内都(1947-)の写真、戦後の沖縄に生まれ育ち活動する石川真生(1953-)や山城知佳子(1976-)の作品、国家的スペクタクルとそれを構成する個人を同時にとらえたアンドレアス・グルスキー(1955-)による巨大な写真を展示します。
出品作家:石内都、アンドレアス・グルスキー、石川真生、山城知佳子
第6章 近年の収蔵品から:作家の肖像
20世紀半ばに活躍した女性のデザイナー(山脇道子とシャルロット・ぺリアン)の活動に触発されたレオノール・アントゥネス(1972-)のインスタレーションや、谷原菜摘子(1989-)や片山真理(1987-)ら若手作家による、自身の姿を登場させた作品など、女性作家による近年の新収蔵作品を紹介します。
出品作家:谷原菜摘子、片山真理、テリーサ・ハバード/アレクサンダー・ビルヒラ―、レオノール・アントゥネス
出品作家(※変更となる場合があります)
福田美蘭、ミヒャエル・ボレマンス、小川信治、カリン・ザンダー、芥川(間所)紗織、アンディ・ウォーホル、スタジオ65、岡本信治郎、安齊重男、柏原えつとむ、ソフィ・カル、ダーン・ファン・ゴールデン、アストリッド・クライン、野田哲也、小西紀行、マルレーネ・デュマス、サニー・キム、久保田成子、デイヴィッド・ホックニー、木下晋、荒川修作、ルイス・W.・ハイン、宮本隆司、小沢剛、饒加恩(ジャオ・チアエン)、石内都、アンドレアス・グルスキー、石川真生、山城知佳子、テリーサ・ハバード/アレクサンダー・ビルヒラー、片山真理、谷原菜摘子、レオノール・アントゥネス、高松次郎、須田悦弘、アレクサンダー・コールダー、ジョアン・ミロ、マリノ・マリーニ、マーク・マンダース、ヘンリー・ムア
関連イベント
ギャラリー・トーク
開催日|2024 年11 月24 日(日)
開催時間|14:00-
参加費|参加無料(要観覧券)、先着60名 (開始30分前から、B2会場入口にて聴講用ワイヤレス受信機を貸し出します)
開催概要
展覧会名|コレクション1 彼女の肖像
会期|2024年11月2日(土)– 2025年1月26日(日)
会場|国立国際美術館 地下2階展示室(〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55)
開館時間|10:00 – 17:00、金曜・土曜は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日|月曜日(11月4日、1月13日は開館し、11月5日、1月14日は休館)、年末年始(12月28日~1月4日)
主催|国立国際美術館
協賛|ダイキン工業現代美術振興財団
企画|武本彩子(当館任期付研究員)
観覧料|一般 430円(220円)、大学生130円(70円)
( )内は20名以上の団体料金
高校生以下・18歳未満・65歳以上無料(要証明)
心身に障がいのある方とその付添者1名は無料(要証明)
夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00 – 20:00)一般:250円 大学生:70円
本展は同時開催の特別展「線表現の可能性」の観覧券でご観覧いただけます
無料観覧日| 11月2日(土)、11月3日(日・祝)、11月16日(土)、11月17日(日)、12月7日(土)、1月11日(土)