昨年2023年6月にコロンビア大学の研究チームが発表した研究結果によると、タウリンにアンチエイジング効果があることがわかりました。タウリンを与えたマウスの寿命が最大12%も伸び、更年期の雌マウスの骨粗しょう症を大幅に改善し、免疫の低下を防ぎました。中年のアカゲザルにタウリンを与えたところ、体重増加を防ぎ、血糖値を下げて肝臓の状態を改善し、骨密度を上げたそうです。 (”Taurine deficiency as a driver of aging” Parminder Singh/9 Jun,2023)
タウリンの24時間尿中排泄量を世界60数地域の健診で分析したところ、50代前半の男女でタウリンの少ない第1分位の人々は、最も多い第5分位の方に比べ、肥満・高脂血症・高血圧は2.9、1.9、1.3倍多く、タウリン摂取の低下が生活習慣病のリスクであることが示されました。
(Sagara et al. Adv Exp Med Biol. 2015; 803:623-636.)
脳卒中は人間に特有の病気で、実験に使うラット(白ねずみ)では起きない病気です。そこで、岡本・青木(1963)によって血圧が高めのラットを交配し、高血圧を確実に発症するようになった高血圧自然発症ラット(SHR)を自然死するまで観察し、剖検で少しでも脳血管障害のあった親の子孫を交配し続けて、ついに遺伝的に確実に脳卒中を起こすラットを開発しました(1974)。この脳卒中ラットに1%(味噌汁程度の辛さ)の食塩水を与えると、生後3か月ほどで全例脳卒中を発症しました。塩分の摂取量が多い東北地方でも脳卒中は多く、塩分が脳卒中の引き金を引くのは間違いありません。 しかし同じ量の塩分を与えても、脳卒中ラットに魚粉を餌に混ぜて食べさせると脳卒中になりません。魚に含まれるタウリンが血圧を下げ、脳卒中を予防するのではと考えられます。 Yamori, Y., et al, Jpn. Circ. J. 38, 1095-1100, 1974./Okamoto, K., et al, Circ. Res. 34/35, 143-153, 1974./Yamori, Y., et al, In: Lovenberg, W., Yamori, Y., eds., Nut. Prev. Cardiovasc. Dis. Academic Press, Orland, 37-51, 1984./Yamori, Y., In: de Yong, W., Ed., Handbook of Hypertension Vol. 4: Experimental and Genetic Models of Hypertension, Elsevier, Amsterdam, 240-255, 1984.
「肥満と高脂血症」
タウリンは肥満・高脂血症・高血圧を抑制する効果があることがわかりましたが、同様に、大豆を食べる人と食べない人でも、24時間尿を集めて比較分析しました。大豆にはマグネシウムが含まれているので、血中のマグネシウム濃度が高いと大豆やマグネシウムの多いナッツ類などをたくさん食べていることになります。この結果でも、大豆をあまり食べていない人はよく食べる人に比べて肥満や高脂血症の割合が2.7倍、高血圧の割合が1.5倍と、大きな差がつきました。(“An inverse association between magnesium in 24-h urine and cardiovascular risk factors in middle-aged subjects in 50 CARDIAC Study populations” 30 October,2014)
「筋肉機能の維持」
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(愛知県・大府市)・老化疫学研究部の大塚礼部長を代表とする研究グループが、2023年7月、大正製薬株式会社および北翔大学との共同研究で、食事からのタウリン摂取量が多いと脚の筋力(膝伸展筋力)が維持される傾向にあることを発見しました。 愛知県大府市・東浦町の地域住民から性・年代別に層化無作為に選出された40歳以上の男女1,254名を対象に、2002年から約8年の間、 タウリン摂取量と体力指標=膝伸展筋力(足を動かした際に筋肉を伸ばす力)、長座位前屈(両膝を曲げずに座り、上半身を倒す)、閉眼片足立ち、最大歩行速度の変化量を観察。 その結果、食事からのタウリン摂取量が多いほど膝伸展筋力が増加していることがわかりました。 65歳以上では、タウリン摂取量の多少に関わらず膝伸展筋力は低下しますが、タウリンをたくさん摂取していた人のほうが、膝伸展筋力の減少幅が小さい、すなわち、タウリンの摂取量が多いと筋力が維持されるということが示されました。 (”Association of taurine intake with changes in physical fitness among community-dwelling middle-aged and older japanese adults: an 8-year longitudinal study”Frontiers in Nutrition/20 March, 2024)
その結果、高齢者が増えているにもかかわらず、高齢者が認知症にかかる割合が減っています。オックスフォード大学の研究で、葉酸を与えられた高齢者は、脳の萎縮、特に記憶に関係する海馬の萎縮が抑制されることがわかりました。(Douaud G, Refsum H, de Jager CA, et al. PNAS 110 (23) 9523-9528, 2013.)