現代では共働き世帯が増加しており、両親ともに仕事に追われる中で、家事にかける時間について悩む家庭が増えています。特に、食事の栄養バランスまでしっかり配慮することが難しいのが現状です。
株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲充)が12歳以下のお子さまを持つ子育て中の方を対象に行った調査※1によると、約7割の方が共働きで、約2割の方が親族などのサポートを受けていないことがわかりました。また、お子さまの健康で一番気になっていることとして「栄養バランス」を挙げる方が最も多くいることもわかりました。
※1 調査概要:全国の12歳以下のお子さまを持つ子育て中の男女633人を対象/インターネット調査/2024年7月実施
これらの結果から、栄養面の課題が子育て世帯にとって大きな関心事であることが伺えます。
そこでこのたび、現在2児の母でもあり、栄養の専門家である管理栄養士のShie先生に、子どもに必要な栄養素の過不足の実態や、特に成長に欠かせない栄養素である「鉄」の摂取ポイントを解説いただきます。
【監修】Shie先生
管理栄養士、菓子・料理研究家。
大学卒業後、大手食品メーカーに研究員として16年在籍。サラダ・惣菜・調味料等の商品開発、商品価値を活かしたレシピ開発、美味しさの数値化等に従事。手掛けたレシピは1000以上。ヘルスケアアプリ部門ダウンロード1位取得のヘルスケアベンチャーに出向中は、管理栄養士監修のレシピ動画立上げと事業責任者を経験。ル・コルドンブルーにてグランディプロム(料理・菓子)取得。ワインエキスパート、離乳食アドバイザー等、その他多くの資格を保持し、料理・菓子分野において専門知識や理論に裏づけされた技術を磨く。2021年9月に独立後、TVやラジオ出演、レシピや商品開発、開発コンサル、コラム執筆、セミナー講師、フードコーディネート等に加え、東京港区にて理論を伝える料理・菓子教室の主宰、オーダーメイドスイーツの受注販売等も行う。2021年8月に発売された書籍「オートミール健康レシピ」はAmazonにてベストセラーに。https://shielabo.com/
■栄養摂取状況に影響を及ぼしうる、幼児期の家庭の食事事情とは
全国の乳幼児の食事状況の実態を調べた乳幼児栄養調査結果*1における、「現在の子どもの食事で困っていること」(図1)を見ると、2~3歳では「むら食い」33.4%、「遊び食べをする」41.8%、4~5歳では「偏食する」32.9%、「食べるのに時間がかかる」37.3%と、幼児期は家庭が抱える食事の悩みとして、遊び食べ、偏食、食べる時間に悩みを抱えており、子どもの気分で食事の内容や時間が左右されやすい家庭が多いことがうかがえます。日々の食事作りだけでも大変な中で、こうした要因も栄養素摂取のハードルを高くしていることが予想されます。
■実際どの栄養素が足りていない?子どもにとって不足しがちな栄養素とは
幼児期に不足しがちな栄養素として以下が挙げられます。これらの栄養素は成長に不可欠ですが、子ども、特に幼児期等はまだ食べられる量や種類が限られていることもあり、必要量に届かないケースが見られます。また、上述したように好き嫌いや偏食も影響しているため、親が栄養バランスを考慮し、子どもが食べやすい形で栄養素を取り入れる工夫が求められます。
●鉄
鉄は赤血球を作るのに必要ですが、成長とともに血液量が増えるため、鉄の需要も高まります。食事内容が肉や魚などの鉄が豊富な食品が少なく、野菜中心だったり、偏食があると不足しがちです。鉄の不足は貧血の原因となり、集中力の低下にもつながります。
●カルシウム
幼少期は骨の発育が著しいため、カルシウムが特に重要です。しかし、牛乳や乳製品の摂取量が不足したり、食が細くて十分な量を摂取できないケースも多く、カルシウムが不足しやすくなります。
●ビタミンD
骨の発達に欠かせないビタミンDは、食事や日光浴によって得られますが、現代の生活環境では屋外活動の時間が少ないことや、食事内容の偏りにより、ビタミンDの不足が指摘されています。魚やきのこ類を積極的に食事に取り入れることで補うことが推奨されます。
●食塩相当量(過剰)
不足とは反対に、幼少期の食塩摂取量が多めなことが問題視されています。全世代で多い傾向ですが、子どものうちから濃い味になれてしまうことでその後の味覚も濃い味を好みやすく、高血圧や心血管疾患等、生活習慣病のリスクを高める要因となり得ます。未熟な腎臓への負担もかけるため、摂りすぎには注意が必要です。
■鉄の重要性が十分に認識されていない現状
ユーグレナ社が行った調査※2によると、鉄を意識した料理を毎日作っている人はわずか2割となり、鉄がお子さまの身体に具体的にどのような役割を果たすか知らない人は4割にものぼることが明らかになりました。この結果から、鉄の重要性が十分に認識されておらず、日々の食事で意識的に摂取されていない家庭が多いことが伺えます。
※2 調査概要:全国の12歳以下のお子さまを持つ子育て中の男女630人を対象/インターネット調査/2024年11月実施
■充足率が低い鉄。鉄の重要性と不足でおこる症状とは
また、国民健康・栄養調査*2*3*4における小児(1~5歳)の鉄摂取量を、鉄摂取の推奨量を示す食事摂取基準*5と比較すると、男児、女児共に鉄の推奨量を満たしていないことが見て取れます。
鉄の摂取は、成長期の子どもにとって非常に重要であり、鉄が十分に摂取できていないと、貧血だけではなく体や脳の機能に悪影響を及ぼす可能性があります。以下に鉄の主な役割と、不足した際の症状について記載します。
●酸素の運搬
鉄は血液中のヘモグロビンの主要な成分で、酸素を全身の細胞に運ぶ役割を果たしています。また、筋肉内のミオグロビンの成分として、筋肉に酸素を貯蔵し、必要に応じて供給します。肝臓や骨髄、脾臓などにも貯蔵鉄として蓄えられ、鉄が不足した時に利用されます。鉄が不足すると、酸素が全身に行き届かず、倦怠感や息切れ、疲れやすさが生じます。成長期の子どもは活発に動くため、鉄の需要が高く、適切な摂取が不可欠です。
●脳の発達と認知機能の維持
鉄は脳内の神経伝達に関わる重要な役割を担っています。鉄不足は集中力や記憶力の低下、学習能力の低下につながることが示唆されており、子どもの成長や学習に支障をきたす可能性があります。セロトニンやドーパミン等の神経伝達物質をつくる補因子として働くことから、認知のみならず精神面にも影響を及ぼしているとし研究がなされています。
●成長期の身体作り
骨や筋肉、皮膚の生成には繊維状のたんぱく質であるコラーゲンが必要であり、その生成には鉄が必要不可欠です。成長期に発達する骨は、コラーゲンとカルシウムから成り、骨の強さを保つためには鉄も重要です。また、コラーゲン合成が十分でなく皮膚や呼吸器系の組織の強度が低下することで感染症に対する抵抗力が弱まる可能性があります。
●エネルギー産生
鉄はエネルギー代謝のプロセスにも必要不可欠です。鉄が不足すると十分なエネルギー産生が出来ず、活力が出にくくなるため、子どもの成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
■鉄を多く含む食品と含有量
鉄は、動物性食品(肉、魚、レバーなど)や植物性食品(ほうれん草、小松菜、大豆など)に多く含まれています。幼児期には偏食や食べムラもある中ですが、不足しがちな分、含有量の高い食品を積極的に取り入れるなど、意識的に摂る工夫をする必要があると言えます。
■摂取していれば大丈夫? 鉄の吸収率と阻害要因
鉄が不足しているとお話しましたが、摂取した鉄がそのまま100%活用できている訳ではありません。また、鉄の「種類」によって 体内への吸収率も異なります。更には、一緒に摂ることで吸収を高めたり、阻害する要因もあります。
●「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」
鉄には、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄の吸収率は10〜20%である一方、非ヘム鉄は2~5%と更に低い値ですが、非ヘム鉄であってもビタミンCや動物性たんぱく質と一緒に摂ることで吸収率が高まります。
ヘム鉄の方が吸収率が高いからと言って、動物性食品ばかりを摂ればよいということではなく、非ヘム鉄を含む食品にはビタミンやミネラルが多かったり、飽和脂肪酸量が少なかったりと、動物性食品とは異なる栄養素をカバーできることも多いため、2種類の鉄をバランスよく摂るよう心がけましょう。
なお、あさりやしじみ等の貝類も鉄が多い食品ですが、ヘム鉄と非ヘム鉄の両方が含まれます。
植物由来の鉄を摂る場合は、ビタミンCを多く含むキウイや柑橘系フルーツ、パプリカ、ブロッコリー等の野菜だったり、肉・魚・大豆等のたんぱく質を料理に積極的に摂り入れると良いでしょう。加えて、ゆっくりよく噛んで食べることも、胃酸による消化吸収が促進され、吸収率が高まります。
●ユーグレナが鉄の吸収をサポート
また、藻類のひとつであるユーグレナには栄養素が幅広く含まれていることから、鉄の吸収をサポートするといわれていますので、日々のお料理にプラスしてあげるのもおすすめです。
●鉄の吸収を妨げる要因
穀物や豆類、ナッツに含まれる「フィチン酸」や、茶葉やコーヒー、ワインに含まれる「タンニン」は、鉄の吸収を妨げる作用があります。コーヒーやお茶は食事とは時間をずらして飲むのがよいようです。ほうれん草のアクである成分「シュウ酸」も鉄吸収を阻害するため、あく抜きをおすすめします。「カルシウム」、「非水溶性食物繊維」、加工食品等に含まれる「リン酸塩」も摂りすぎると鉄吸収を阻害する可能性がありますが、過剰に摂らなければ気にする必要はないでしょう。
■栄養素、バランスよくが重要のワケ
つい特定の栄養素にフォーカスしがちな現代ですが、実際には、栄養素は全部が歯車のようにつながって働いていることから、多くの栄養素をバランスよく摂取する必要があります。
下の図の「桶の理論」は、栄養素1つ1つが桶の板にたとえられ、中の水が体の機能を表します。板の高さが足りない箇所、すなわち何か不足している栄養素があると、そのレベルまでしか他の栄養素も作用できず、全体のパフォーマンスを制限することに。
例えば鉄が不足している場合、酸素運搬が十分に行えず、疲労感や集中力の低下など健康やパフォーマンスが制限されますし、逆に、貧血予防のためには、鉄だけではなく、赤血球の合成にかかわるビタミンB12や葉酸、鉄を運ぶ銅やその構成要素の亜鉛など、他の栄養素も不足ないよう摂る必要があります。単体の栄養素のみならず、複数の栄養素、特に不足しがちとされている栄養素を補うよう心がけましょう。
出典:
*1“平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要”.厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000134207.pdf
*2 “平成28年 国民健康・栄養調査”.表番号76-1 厚生労働省.2018-1-30
*3“平成28年 国民健康・栄養調査”.表番号76-2 厚生労働省.2018-1-30
*4“平成28年 国民健康・栄養調査”.表番号76-3 厚生労働省.2018-1-30
*5“「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書” 厚生労働省. 令和2-1-21
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
参考:
“令和4年 国民健康・栄養調査結果の概要”.厚生労働省.2024-8-28
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001296359.pdf(参照2024-11-15)
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書” 厚生労働省. 令和6-10-11
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
<株式会社ユーグレナについて>
2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をユーグレナ・フィロソフィーと定義し、微細藻類ユーグレナ、クロレラなどを活用した食品、化粧品等の開発・販売、バイオ燃料の製造開発、遺伝子解析サービスの提供、未利用資源等を活用したサステナブルアグリテック領域などの事業を展開。2014年より、バングラデシュの子どもたちに豊富な栄養素を持つユーグレナクッキーを届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を、継続的に実施している。https://euglena.jp