かこさとしさんは、じつは東大工学部卒で研究者だった!
「だるまちゃん」「からすのパンやさん」シリーズなどで知られるかこさとしさん。じつは東京大学工学部応用化学科卒業、47歳まで研究職という、理系の経歴をお持ちなのです。
かこさんは理系分野への知見と理解を生かし、物語絵本だけでなく数多くの科学絵本を世に送り出しました。かこさんの科学絵本の特徴は「子どもが読むものだからといって内容を省略しない」。独特の語り口と絵で親しみを感じるものの、内容はどれも高度です。最近よくある子ども向けの科学本、「読むだけでわかる」「○分でわかる」などの結論だけを簡潔にまとめた本とは真逆の、「しっかり読んで」「考えて」「わからないにぶつかって」「また考える」ことが必要です。そのかわり、ここで得た「知」は一生ものとなることでしょう。今はまだ全部を理解できなくても、触れておくことで、それらがいつか一本の線に繋がる時が来る。かこさんの科学絵本は子どもたちの本格的な理科学習の入門に最適と言えるでしょう。
今回発売となった化学絵本「かこ さとし 新・絵でみる化学のせかい」シリーズでも、一見、子どもが理解するには難易度が高いことも、いたるところにある楽しい入り口から入ることができます。たとえば、1巻の『原子と分子の楽しい実験』では、最も身近な化合物の一つである水分子を見つける実験から始まります。コップの水をどんどん半分にしていき、最後は分子に。「半分の半分、そのまた半分の半分。またまた半分の半分、またまたまたの半分の半分……」と、かこさんの語り口が楽しく、気がついたら分子という概念を理解することができる……というしくみです。かこさんワールドを楽しみながら、専門的な知見と理解に基づいた「深くて面白い化学」に触れることができるのです。
かこさんは、40年以上前からSDGsについて語っている
1981年に初版が刊行された「絵で見る化学のせかい」シリーズ(日本化学会監修)は、かこさんが初めて作った化学絵本です。長年関わっていた化学の世界を絵本にできるとあって、とても嬉しそうに取り組んでいらした、とはご家族の談。2000年に改訂を経たのち、今回データやデザインを一新し、新たな知見を加え「かこ さとし 新・絵でみる化学のせかい」(全5巻)として生まれ変わりました。詳細なさくいんも追加。監修は世界的に高名な化学者で、かこさんとも親交が深かった藤嶋昭・東京理科大学栄誉教授。依頼を受けた際、40年以上前の本だから相当な修正が必要になるかもしれないと思ったそうですが、基本的な考え方の部分での修正はほぼありませんでした。「本物の知」は一生ものである、ということにほかなりません。
かこさん自身、科学絵本はそれを読んだ子どもたちが大人になったときに、子どもの頃読んでいた内容と違っていたのでは意味がないと、少なくとも20年以上のちまで通用することを心がけて作られていたそうです。たとえば「かこ さとし 新・絵でみる化学のせかい」の5巻のテーマはずばり持続可能な社会。SDGsという言葉がなかった40年以上前に、SDGsについて詳細に語っている本書。このことは、変化が多い現代にあっても、「本物の知」と先を見通す力は揺るぎなくその人を支えてくれることを物語っているのではないでしょうか。この化学絵本でぜひ、子どもたちに一生ものの「知」の贈り物を。クリスマスプレゼントにも最適です。
かこ さとし 新・絵でみる化学のせかい(全5巻) 監修・藤嶋昭
※総ルビ・監修者解説・さくいんつき
1巻 原子と分子の楽しい実験
2巻 なかよし いじわる 元素の学校と周期表
3巻 化学の大サーカス 技術の歴史
4巻 地球と生命 自然の化学
5巻 化学の未来 資源とエネルギー
各2000円(税抜) 発売中 講談社刊
かこさとし プロフィール
1926年福井県越前市生まれ。東京大学工学部応用化学科卒(1948年)。工学博士。技術士(化学)。専門性を活かした『かわ』、『海』、『地球』、『宇宙』などの科学絵本の他、「からすのパンやさん」、「だるまちゃん」シリーズなどの物語絵本など600点以上の著作がある。