2024年8月に『ジェンダー・ディスカッションブック SDGsで学ぶ! 性別格差がない未来』(公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン・著)を刊行しました。
この本は、①日本の子どもたちにとって、学校生活や家庭にある身近なジェンダー問題、②社会にあるジェンダー問題、③海外のジェンダー問題、④ジェンダー平等が進んでいる事例から、ジェンダーが社会の構造的な問題にあることに目を向け、話し合うための1冊です。
「多様性を認め合おう」「差別はいけない」という個人の価値観に留まることなく、「当たり前」を見直したり、クラスメイトやほかの人の考え・意見を聞きながら対話を重ねて、ジェンダー不平等を生み出す価値観や社会構造を変えるためにできることをわかりやすく紹介します。
今回は、本書についているディスカッションシートを使って、プラン・ユースグループに所属する大学生6名に、ディスカッションしてもらいました。
*プラン・ユースグループ:高校生から社会人が所属するプラン・インターナショナル・ジャパン内にあるグループの1つ。ユースの声が反映される社会の実現を目指すために、課題を発信したり、組織の意思決定プロセスに参加する活動を行っている。
■テーマ選び
まず、25あるテーマの中からディスカッションしたいと思うテーマを選んでもらいました。
今回は参加者が大学生ということもあり、「No.15 大学の工学部の進学説明会。参加する生徒はほとんどが男子生徒です」をテーマにしました。
ディスカッションをはじめる前に、ファシリテーターから話し合うときのルールや気をつけることを参加者に伝えました。
■理系希望の女子は意外といる!?
まずシートのイラストを見て、思いつくことを自由に発言してもらいました(15分間)。
あいささん「大学の工学部の進学説明会だと、高校生の時にすでに理系科目を選択/希望している人が多いですよね。高校の理系クラスって、男子が多いイメージがあります。みなさんの高校はどうでしたか?」
れみさん「私は女子校出身なので、理系クラス=男子のイメージはないんですが、実際に文系に進む同級生がほとんどでした。理系はクラスの半分以下でしたね」
せらさん「私も女子高出身ですが、理系に進学する女の子が多く、逆に文系に進む子は少なかったです」
いどうさん「私も女子校出身です。ちょっとだけ理系の子が多かったですね」
あいささん「もしかすると、このイラストとはちがって、現実では理系希望の女子もけっこう多いのかもしれません。そうすると、設問の2番目『「女子は文系」「男子は理系」が向いている』は、ちょっと違うかもしれませんね」
れいさん「でも、『男子は理系や数学が得意』みたいなイメージはあると思います。こういった先入観があると、テストの点数が伸びやすいって話を聞いたことがあります。特に授業中に『男子はできる』って言われると、女子は無意識に苦手意識を持ってしまって、成績が伸びにくくなることもあるそうです」
あいささん「たしかに、『男子は理系や数学が得意』のイメージは、小さい頃からあるかもしれません。例えば、男の子はレゴやロボットなどで遊ぶことで、論理的思考やプログラミング的な考え方が身につきやすい。一方で、女の子は人形あそびなど共感性や感受性を育む遊びが多いと感じます。生まれたときからどちらが向いているということはないと思いますが、周囲の環境、まわりの大人の接し方やかかわり方で変わってくると思います」
■理系を避けるのは、女性のキャリアと関係してる?
ゆりこさん「理系を選択しない女の子の中には、将来、キャリアを積みたくない人もいますよね。早く結婚して、出産したいと思っている、それを理想と思っている人は、理系の道には進まなさそうな印象があります」
あいささん「そうですね。例えば、農学系に進んだら食品メーカーの研究職に就く、といった感じで、将来のキャリアが見えやすくなる部分があると思いますが、研究職=忙しいというイメージもあります。そうなると、仕事と家庭の両立が大変そうだな思うので、出産や子育てを含め、将来のことを柔軟に考えたい人は、選ばないと思います」
れいさん「かといって、『将来のキャリアが見えやすい』という理由で、理系を選ぼうと思う女子もあまりいないと思います。将来の可能性を広げるために進学する人もいると思いますが、大学院までを進むことを考えると、そこまでして理系を選ぶのは少し難しいなと感じます」
あいささん「わたしたちの親世代では『女の子が理系に行くのはどうか』と考える人が少なからずいますよね。実際、親世代では短大に進む女性が多かったようです。今でも、大学院に進む女性を快く思っていない親もいるのかなと思います」
れみさん「私の親がそうです。父は、文系で大学院に進学するのは、同級生から2年分の時間の遅れをとると考えているみたいです」
ゆりこさん「私の母は理系で大学院まで進んで、研究職についていました。でも、連日夜遅くまで実験が続いて、忙しかったみたいです。結局、30代で私を出産する前に辞めました。女性が研究職を続けるには、企業や大学からの理解やサポートが必要だと感じます。特に女性は、妊娠・出産で体に大きな変化があるので、サポートがないと難しいんですよね。男性は子どもが誕生しても女性のような体の変化はないので、その点では将来の選択にも男女の差が出ますよね」
■ファシリテーターを交えてディスカッション
15分間のディスカッションが終わりました。つぎにプラン・インターナショナルの長島さんがファシリテーター役として加わり、6人から出た意見に質問していきます。
長島さん「最初の話に戻りますが、みなさんのまわりや学校では、理系男子の割合はどれくらいますか? やはり男子が多いですか?」
あいささん「高校は、理系コースは男子が多い印象でしたね。私は国際系だったので、ほぼ女子でしたけど」
長島さん「理系=男子の傾向は今でも根強いですね。みなさんは、STEM教育(科学・技術・工学・数学)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。では、“17%”と“32%”は何の割合だと思いますか?」
あいささん「理系における女性の割合でしょうか?」
長島さん「これは、大学までの理系女子の平均比率です。32%はOECD加盟国の大学までの理系女子の平均比率で、17%は日本の平均比率です。OECD平均も低いですが、日本はさらに低いですね。歴史的にみても、STEM分野(科学・技術・工学・数学)、たとえば科学や発明に携わっているのはほとんど男性が多いですね。みなさんも話していたように、小さい時から男の子と女の子は遊ぶものが分かれています。男の子はSTEM系の遊びに触れる機会が多いと思いますが、みなさんはどうでしたか?」
せらさん「わたしはレゴでも、リカちゃん人形でも遊びました。小さい頃からジェンダーにとらわれず、いろいろな遊びをしてみるといいんじゃないかと思います」
長島さん「それと、就職に関することが気になっていましたね。理系を選択すると親に反対されることはありますか?」
あいささん「大学受験で理系に挑戦した友人がいましたが、親に『男の子ばかりのところでやっているの?』と言われていました」
長島さん「学校の先生の中にも『女子は文系』と思っている先生がいますよね。そうなると、子どもの周囲にいる大人の考え方が子どもたちにも影響してきますね。『ステレオタイプ脅威』という言葉を聞いたことがありますか? れいさんが最初に話していたように、「女の子だから理系は苦手」という固定観念を持たされると、本当に苦手意識を持ってしまい、それが成績や進路に影響する現象です。アメリカでは、成績に関係なく生徒をA・B・Cのクラスに分けて、優秀な生徒をCクラスに入れると学力が下がり、勉強が苦手な子をAクラスに入れると成績が上がるという実験結果が出ているんです。決めつけられるとジェンダーの分野においてパフォーマンスに影響が出ると思います」
長島さん「では、最後に。『男性脳・女性脳』は本当にあると思いますか?」
ゆりこさん「女性は子育てをするから、本能的にそういう違いがあるのかなと感じます」
長島さん「じつは、脳科学の研究では、男女間で脳の違いはほとんどないという結果が出ています。男性的な脳/女性的な脳があるから、男性は◯◯◯が得意/女性は◯◯◯が得意と決めつけると、先程のOECD平均のある分野においてどちらかだけが極端に低い数字になります。それでも、近年は理系に進んで活躍している女性は増えていますが、日本ではまだSTEM分野での女性の進出が少ないのが現状ですね。もっと活躍できる環境が整えば、社会も意識も変わってくると思います。今日は時間になりましたので、ここまででディスカッションをおわります」
■まとめ
今回のディスカッションでは、参加者の経験や日常で感じていることを率直に発言し、身近な親や友人の話も交えながら活発な議論が展開されました。今回は女性6名でのディスカッションでしたが、さまざまな年齢や性別の人と交流することで、さらに新しい発見ができると思います。
ジェンダーバイアスは、小さい頃から身近にいる大人(親や先生)の影響を受けています。この問題を解決するには、まずは大人がディスカッションを通して、学び、共有する機会をつくっていくことが必要だと思いました。学校、研修の場でぜひディスカッションブックを活用してみてください。
書誌情報
『ジェンダー・ディスカッションブック SDGsで学ぶ! 性別格差がない未来』
https://www.godo-shuppan.co.jp/book/b648958.html
公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン【著】
□定価=本体2,200円+税
□B5判並製/136ページ
□ISBNコード:978-4-7726-1565-5
★ダウンロードできる25のディスカッションシートつき