本書は、昭和十七年に発行された文部省著『初等科国語』一~四を底本としている。戦中の三年生・四年生用の国語の教科書だが、日本人としてふまえておきたい大切なことが、やさしい言葉に濃縮されて詰まっている。
「日本人としてふまえておきたい大切なこと」の多くは、戦後教育では意図的に消し去られただけに、現代人は、本書を通じて明らかになるその内容に驚くであろう。内容を大まかにテーマ別に分けると、神話、偉人伝、神社、祝祭日、兵隊さん、尚武の精神、親孝行、自然、生き物との関わり、科学的思考といったところだろうか。通底しているのは、優しさだ。本書の根底には、一木一草にも神が宿るという日本的な自然観がある。それは、他者への思いやりに繋がり、その他者は自然ばかりか無機物にも及ぶ。
概観して思うのは、このような教科書で学んだからこそ、戦中の日本人に日本精神が培われたのだということだ。
本書を通読すれば、現代日本人が失ったものの大きさを痛感せざるを得ないであろう。優しさ、尚武の精神、美学。優しいからこそ、強くなければならなかったし、強いからこそ優しくなれた。平和を守るためには、それが脅かされそうになったときには、最終的には戦う覚悟が必要だ。その覚悟を持った人間を美しいと感じるのが、日本の美学であった。
そうした心を育む教科書だったからこそ、GHQは危険視し、墨塗りしたのであろう。日本を本来の姿に戻すためにも、塗られた墨は落とさねばならない。ご存じのように、墨を落とすのは容易ではないが、幸いにも、今日このような形で復刻した。旧字は新字に、旧仮名づかいも新仮名づかいに改められ、かつての姿そのままではない。既に、そのままでは読むことが困難なほど日本語が変化してしまったことに忸怩たる思いはあるが、本書に込められた先人たちの思いを、しかと受け止め、美しい日本と日本語を受け継いでいくことのお役に立てば、幸甚である。
本書解説「美しい日本の復刻」(葛城 奈海)より
【書籍情報】
書名:[復刻版]初等科国語[中学年版]
著者:文部省
解説:葛城 奈海
仕様:A5並製・312ページ
ISBN:978-4802401036
発売:2020.08.04
本体:2000円(税別)
発行:ハート出版
商品URL:https://www.amazon.co.jp/dp/4802401035/