株式会社宝島社が主催する、第23回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作『謎の香りはパン屋から』を2025年1月10日(金)に発売します。
本書は、漫画家志望の大学生・小春が、アルバイト先のパン屋で起こる日常の謎を解く連作短編ミステリーです。著者は26歳の現役女性漫画家。過酷な受験勉強を経て、大阪大学工学部に入学するも熱い夢をもつ同級生たちに感化され、子どもの頃から憧れていた漫画家を目指すために一念発起。23歳の頃大学を中退し、本格的に漫画家の道へ進み、現在は漫画家と小説家の二刀流の道を歩み始めた異色の経歴の持ち主です。
著者のインタビューも可能ですので、ぜひ取材をご検討いただけますと幸いです。『このミステリーがすごい!』大賞は、これからも新しい作家・作品を発掘・育成し、業界の活性化に寄与してまいります。
【あらすじ】
大学一年生の市倉小春は漫画家を目指しつつ、大阪府豊中市にあるパン屋〈ノスティモ〉でバイトをしていた。あるとき同じパン屋で働いている親友の由貴子に、一緒に行くはずだったライブビューイングをドタキャンされてしまう。誘ってきたのは彼女のほうなのにどうして? 疑問に思った小春は、彼女の行動を振り返り、意外な真相に辿りつく…。パン屋の香り漂う〈日常の謎〉連作ミステリー!
【編集部より】
「焦げたクロワッサン」「夢見るフランスパン」「恋するシナモンロール」「さよならチョココロネ」「思い出のカレーパン」……章タイトルも魅力的な今年の大賞受賞作は、パン屋を舞台にした〈日常の謎〉ミステリー。
明るさと優しさに包まれた、読み心地のよい作品です。パンへの情熱をいつも暑苦しく語る店⾧や、お調子者だけど人情に厚い先輩など、賑やかなパン屋〈ノスティモ〉(ギリシャ語で「おいしい」という意味!)の面々に囲まれて、アルバイト店員・市倉小春は、漫画家を目指すゆえの鋭い観察眼で謎を解いていく――。唯一の難点は、読んでいてとにかくお腹が空いてしまうこと。おいしいパンを頰張りながら、一気読みするのがおススメです。〈ノスティモ〉を舞台にパン好きの人々が織りなす物語をぜひお楽しみください。
著者プロフィール:土屋うさぎ(つちやうさぎ)
1998年8月、大阪府箕面市生まれ、東京都府中市育ち。大阪大学工学部応用理工学科中退。現在は、漫画アシスタント兼漫画家。2023年『あぁ、我らのガールズバー』で集英社・第98回赤塚賞準入選。同年『見つけて君の好きな人』で小学館・「創作百合」漫画賞佳作。2024年『文系のきみ、理系のあなた』で一迅社・第30回百合姫コミック大賞翡翠賞。「ジャンプSQ.RISE2024 SPRING」に『ORB』掲載。
漫画家×小説家新世代のクリエイター土屋うさぎ 「二刀流」が生む、独自の創作スタイルとは
取材・文:埴岡ゆり
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自分の速度で読める漫画や小説が好き
幼少期から、本はずっと身近にありました。両親は漫画は買ってくれないけど「本なら好きなだけ買っていいよ」という方針だったんです。大学時代は近所にあった図書館で新刊を毎回チェックして、ホラーでもミステリーでも恋愛ものでも、ジャンル問わず読んでいました。読書が性に合っていたのは、自分のペースでやれることが好きだから。例えば、ドラマは自分の速度で進められないから、あまり観ないんです。マイペースな私には小説や漫画が合っていたんでしょうね。
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工学部入学がきっかけで、漫画家デビュー、さらに小説執筆の道へ
小学校の卒業文集に「将来の夢は漫画家」と書いていたくらい、絵を描くのは好きでした。漫画家に憧れはあったのですが、どうしたらなれるのか、具体的な方法がわからず行動に移せなかったんです。両親にも反対されていました。大学の学部は、人数が多いから入りやすそうという理由で工学部を選んだのですが、入学してみたら、周りの子は「ロボットを作りたい!」とか、熱量高く夢を持っていたんです。また、コロナ禍でオンライン授業になってから単位を落としてしまい、私、何やってるんだろうと痛感して。周囲がやりたいことを突き詰めている環境だったから、夢に向き合えたんだと思います。それから、漫画家のアシスタントをしようと決意して休学しました。
また、漫画の師匠である“おぎぬまX先生”が『このミス』大賞の「隠し玉」に選ばれて、「漫画と小説、両方書いていいんだ!」と衝撃を受けました。それまで小説は趣味として読むだけでしたが、作家は専業であるべきという先入観が取り払われて、「二刀流でもいいんだ、それなら私も『このミス』大賞に挑戦したい!」という思いが湧いてきたんです。
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セリフを軸に冒頭からストーリーを作っていく
本作は初めて書き上げた小説で、ストーリーは頭から書き進めました。私の場合、漫画も小説も「言葉」から出発するんです。漫画ならセリフだけ考えて、吹き出しの配置を決めてから絵を入れていく。小説もプロットを作るというよりは、自分では「歌詞カード」と呼んでいる、書きたいセリフや表現を抜き出したポエムのようなものから流れを膨らませていきました。
連作短編にしたのは読みやすさを意識したから。一章ごとで完結している方が、普段小説を読まない人でも入りやすいと思って。どの章も、パンの参考文献を調べて「これはドラマになるんじゃないかな」というのをミステリーに絡ませていきました。物語を作りやすかったのは「第二章夢見るフランスパン」で、フランスパンの切り込みが傷に似てるとひらめいたんです。フランスパンは「無用な血を流させないために作られた」という歴史も調べて、これなら使えるかもと思いましたね。
改稿で加えたのは、冒頭で主人公が紙袋の中身を当てるシーン。作中でも名前を借りている、友人・由貴子ちゃんに読んでもらったら「ミステリーって、最初に推理力を見せるシーンがあるんじゃないの」と的確なアドバイスをもらって付け足しました。一番大きく変えたのは、最終章で全体を貫く謎が明かされる構成にしたこと。歴代の『このミス』大賞・受賞作を研究するなかで、物語の最後にもう一つ、「仲良しの人たちだけど、実は何かを隠し持っていた」という謎が描かれるのが、王道なポイントだと思ったんです。コロナ禍ならではの謎も現代を映したトピックですし、今だからこそ書けた展開かなと思っています。
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漫画と小説は互いに「息抜き」
小説はすべてフリック入力で書きました。私、タイピングが苦手なんです。漫画の担当編集さんと電話している時、すさまじい勢いでキーボードを打つ音が聞こえて「世の中の人ってこんなに早いの⁉ 勝てない!」と思って(笑)。iPadなのでどこでも書けるのはメリットですよね。ソファとか布団の上で「ごろ寝執筆」して書き上げました。
『謎の香りはパン屋から』を書いていた時期、漫画の制作も並行していたのですが、互いが息抜きになっていました。漫画は作画に入っちゃうと、ラジオを聞きながらひたすら無心でペンを動かすばかりですが、小説は資料を開きながらストーリーを練っていくので、使う頭や筋肉がちょっと違う。いい切り替えになるんです。達成感もそれぞれ異なりますね。ネームから作画を経て、編集者さんに「こんなに良くなると思わなかった」と褒められるとやっぱり嬉しい。小説なら、行数やページが確実に増えていくのがわかりやすい。漫画で100ページも描いたことはないですけど、小説ならできてしまう。目に見える達成感があって、モチベーションが上がりました。
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今後の構想
まだまだミステリーに仕立てたいパンはたくさんあるので、『謎の香りはパン屋から』の続編は書きたいです。せっかくの二刀流なので、あえて小説で漫画の話も書いてみたいですね。SNSでバズっている新世代の漫画家と雑誌に掲載されている王道漫画家の対決とか、現代を映したものにしてみても面白いかなって。あと、パン屋って朝のイメージがあるじゃないですか。正反対な「夜の雰囲気」を感じさせる小説もいいなと思っています。今までにない引き出しを開けられるように頑張ります!