ロシアによるウクライナ侵略と捕虜虐待――。かつて日本もソ連による侵略と捕虜抑留の辛酸を嘗めた。
その歴史を日本人は決して忘れてはいけないが、犬と人との感動の物語があったことも知ってほしい。
21世紀に大国が侵略戦争を起こしたことに驚いた著者が、「シベリアからやって来たクロ」の話を知ったのをきっかけに、新たなエピソードを発掘して織り込んだ童話『ラーゲリ犬クロの奇跡』。国境を越えた人と動物の絆が、厚い氷の海を砕く。
クロの数奇な運命が今よみがえる。
♪ 母は来ました 今日も来た この岸壁に今日も来た。二葉百合子が歌う『岸壁の母』、筆者の世代(50代)は子供の頃にテレビ画面から耳にそらんじたが、シベリア抑留の厳しさや背景などを知ったのはずっと後、大人になってからである。
昭和の終盤から平成生まれの人たちには、なじみはないかと思う。
本書はまさに戦後(1945年~)の引き揚げ時代の話である。祖父母が読んで孫たちに橋渡ししてほしい内容といえるかもしれない。
著者は抑留経験者や子孫、関係者たちを探し、記念館などを取材して新たな情報を発掘し、日本に来てからの話も多い構成になっている。
シベリア生まれの子犬クロは、ロシア人には吠え、日本人には懐いた。犬は人に付くといわれるが、自分を守ってくれる人間は誰なのか分かるのだろう。そんな犬と日本人の関係から、この物語は生まれたのである。
シベリアからの引き揚げは1947年から1956年にかけて行われ、47万人もの抑留者が舞鶴港から祖国・日本の土を踏んで、愛する家族と再会を果たした。むろん、死に別れ再会できなかった家族も多かっただろう。
タイトルに「奇跡」の文字が付いているが、まさに奇跡なのは、船に動物を乗せてはいけないという規則があったのに、クロが「船上の犬」となった事実だ。凍った港、船長の計らい、日本国側の手配もあってのことだが、クロの一途な思いがそれを実現させたことは疑いがない。それが引き揚げ船「興安丸」の最後の航海で起こったのである。
いつか舞鶴の地を訪れ、当時の歓喜の涙と熱気に思いを馳せてみてはいかがだろうか。舞鶴引揚記念館が「ユネスコ世界記憶遺産」に登録された抑留者たちの収蔵品とともに出迎えてくれる。
国境を越えて日本にやって来たシベリアの犬クロの面影も感じられることだろう。広島、長崎、沖縄などとともに、世代が代わっても引き継いでいかなければならない戦争の記憶。
今年の冬休みに読む図書としてふさわしいのではないだろうか。
・目次
プロローグ 「平和学習」舞鶴引揚記念館
第1章 敗戦、そしてラーゲリへ
第2章 強制労働と仲間の死
第3章 クロとの出会い
第4章 野球選手に消防士に大活躍
第5章 絶体絶命のピンチ!
第6章 クロとの別れ?
第7章 引き揚げ船「興安丸」の奇跡
第8章 日本でお見合い
第9章 シロの誕生
エピローグ 高校生が引き継ぐ史実~紙芝居~
おわりに
・著者プロフィール
祓川学(はらいかわ・まなぶ)
児童文学作家、ノンフィクションライター、皇室記者。日本児童文芸家協会会員。東京生まれ。立正大学卒業後、総合週刊誌、月刊誌等で主に皇室記事を担当。ほか事件、ヒューマン・ドキュメンタリー、著名人へのインタビュー記事にも取り組み、海外・国内で取材活動を続けている。主な児童向けの著書に『恐竜ガールと情熱博士と』[福井市こどもの本大賞 ノンフィクション部門]受賞。学習まんが人物館『平成の天皇』[原作シナリオ](共に小学館)。『義足のロングシュート』『フラガールと犬のチョコ』 [岩手県読書感想文課題図書] 『兵隊さんに愛されたヒョウのハチ』[NHK高知放送 ラジオ朗読]『洞窟少年と犬のシロ』(すべて弊社刊)がある。
・書籍情報
書名:ラーゲリ犬クロの奇跡
著者:祓川学
仕様:A5判上製・160ページ
ISBN:978-4-8024-0155-5
発売:2023.07.04
本体:1,500円(税別)
発行:ハート出版
東京ニュース通信社は、女性アイ…