株式会社プレイド(東京都中央区:代表取締役CEO 倉橋 健太)の事業開発組織 STUDIO ZERO (スタジオゼロ)の仁科 奏が、2024年12月10日、Xデザイン学校主催の公開講座「デザイン文化が世界を変える、地域と企業と文化」に登壇しました。
本講座は、オンラインとオフラインのハイブリッド型で行われ、オフラインの会場はGINZA SIXにあるプレイドオフィスの一角にある芝生スペースにて開催されました。Xデザイン学校の学生をはじめ、デザイン文化について興味のある方々が一堂に会し、交流を深めました。
講師プロフィール
安西 洋之 氏
モバイルクルーズ株式会社代表取締役、De-Tales Ltd.ディレクター
東京とミラノを拠点としたビジネス+文化のデザイナー。欧州とアジアの企業間提携の提案、商品企画や販売戦略等に多数参画してきた。同時にデザイン分野との関わりも深い。2000 年代からカーナビなどの電子機器インターフェースの欧州市場向けユーザビリティやローカリゼーションに関わり、デザインを通じた異文化理解の仕方「ローカリゼーションマップ」の啓蒙活動をはじめた。2017 年、ベルガンティ『突破するデザイン』の監修に関与して以降、意味のイノベーションのエヴァンジェリストとして活動するなかで、現在はソーシャルイノベーションとしてのラグジュアリーの新しい意味を探索中。2022 年、服飾史研究家の中野香織さんと共著で『新・ラグジュアリー 文化が生み出す経済 10 の講義』を出版。また、ソーシャルイノベーションを促すデザイン文化についてもリサーチ中である。
山﨑 和彦 氏
(株)X デザイン研究所共同創業者/CDO、武蔵野美術⼤学ソーシャルクリエイティブ研究所研究員、Smile Experience Design Studio代表
京都工芸繊維大学卒業後、クリナップ(株)を経て、日本IBM(株) UX デザインセンター長(技術理事)、千葉工業大学デザイン科学科/知能メディア工学科教授、武蔵野美術大学教授を経て現職。神戸芸術工科大学博士(芸術工学)号授与、東京大学大学院博士課程満期退学。グッドデザイン賞選定委員、日本デザイン学会理事、経産省デザイン思考活用推進委員会座長、HCD-Net副理事長など歴任。「うれしい体験のデザイン UX で笑顔を生み出す38のヒント」など著書多数。デザインの実践・研究・教育とコンサルティングに従事。
本條 晴一郎 氏
東京科学大学 環境・社会理工学院 准教授
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻および法政大学大学院経営学研究科経営学専攻修了。博士(学術)および博士(経営学)。学術振興会特別研究員、東京大学東洋文化研究所特任研究員、NTTドコモモバイル社会研究所副主任研究員、静岡大学学術院工学領域事業開発マネジメント系列准教授を経て現職。力学系理論、複雑系科学、脱植民地化の研究を経て、現在は市場創造としてのソーシャルイノベーションおよびブランディング等の経営学的対象を、サイバネティクスを中心とした学際的な観点から研究。著書に『消費者によるイノベーション』、『1 からのデジタル・マーケティング』(共著)、『災害に強い情報社会』(共著)など。
仁科 奏
プレイド STUDIO ZERO 代表
NTT ドコモ、セールスフォース・ジャパンで営業職やカスタマーサクセスを経験後、プレイドに参画。営業組織をリードしつつ、早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。PR Table にてCFO/CPO(チーフプロダクトオフィサー)として企業経営に従事したのち、2021年4月プレイドへ復帰。産業と社会の変革を加速させることを目的とした事業開発組織「STUDIO ZERO」を社内起業。
プログラム
18:30-19:00 会場交流タイム
19:00-20:00 「イタリアにおける多様なデザイン文化」安西 洋之氏
20:00-20:30 「デザイン文化と組織文化」山﨑 和彦氏
20:30-21:00 「ディスカッション:デザイン文化を考える」本條 晴一郎氏・仁科 奏
組織や地域のビジョンを支える「デザイン文化」
デザイン文化は、組織や地域のビジョンを支える戦略的な要素として重要な役割を果たします。そして、創造的な文化の推進、イノベーションや新規事業などの促進、ユーザーエクスペリエンスや社員の体験の向上、ソーシャルイノベーションやコミュニティなど、多方面にわたって企業や社会に大きな価値を提供するものとあって、注目されています。
ソーシャルイノベーションの第一人者であるエツィオ・マンズィーニは「デザイン文化とは、日常生活のなかで、人々が自分の進む道の選択肢を自分でつくりだし、それを自ら選択できる文化」と語っています。
今回、イタリアのデザイン文化に詳しい安西洋之氏(モバイルクルーズ代表)より「多様なデザイン文化」というテーマで、イタリアの地域文化やテリトーリオについての講演をいただきました。
安西氏の講演では、イタリアの「テリトーリオ」の概念を理解するところ(テリトーリオとは、英語のテリトリーのような、単なる行政区分を超え、都市と農村、自然、文化、社会的アイデンティティを包括する空間を指し、日本語での「地域」や「里」と似ているが、より強い文化的・社会的意味合いを持つこと)から始まり、イタリアのデザインには、特定のモダン様式が存在せず、デザイナー個々が独自のスタイルを創造する未来志向のデザイン文化であること、そして、イタリア文化に根付く「テリトーリオ」と「デザイン」の関係性や、それらがどのように形作られてきたかについて、さまざまな具体例を交えて説明されました。
ランゲ地域の事例
ランゲ(Langhe)はトリノ南部に位置するテリトーリオで、ワイン産地として知られています。ユネスコ世界文化遺産にも登録されており、ブドウ畑が文化的景観として評価されているほか、 この地域には多様な企業が集積しており、例えばフェレロ社のような特徴的な企業があります。
「全体性」を重視する事例
イタリアでは建築やデザインにおいて「全体性」を重視する傾向があります。一方で、日本は内部から外部へと形作られる傾向があります。 歴史的建築物(例:マントヴァ大聖堂)では、異なる時代ごとの様式がひとつの建造物として共存し、それぞれの時代ごとに「全体」として捉えられてきたのが、象徴的な事例です。
その他、ビッグベンチプロジェクトという、大きなベンチを景観の良い場所に設置し、人々が子供のような視点で景色を楽しむことを目的とした取り組みや、建築空間全体をデザインするアプローチで知られる建築家アウレンティについても触れられました。普段はミラノにお住まいの安西氏より、イタリア文化に根付く「地域」と「デザイン」の関係性について、リアルなお話を聞ける貴重な機会となりました。
社会や組織におけるデザインの役割
続いて、デザイン文化についての探究と実践をされている山﨑和彦氏(X デザイン研究所、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所)より「組織やコミュニティーのための、カルチャーとデザイン」についての講演をいただきました。
山﨑氏は、デザインと文化は密接に関連しており、特に社会や組織におけるデザインの役割の重要性を強調しました。例えば、エストニアの電子政府(e-Government)の成功事例を挙げ、文化的背景を考慮したデザインが市民に安心感を与え、自然な普及を促進すると指摘しました。
また、デザイン思考の課題として、多くの企業でデザイン思考が導入されても定着しない問題を指摘しました。デザイン思考を無理に適用するのではなく、「創造的な思考」をプロジェクト成功のために柔軟に活用するべきだと述べられました。その中で、IBMでの経験から学んだ文化と、アメリカの文化的背景を理解しながら製品開発やマーケティングを行った経験を紹介。
アメリカ文化では「カウボーイと馬の鞍」に例えられるように、パソコンが人間と技術をつなぐ重要な役割を果たしていることを強調しました。また、ユーザー中心設計(HCD)や人間工学的アプローチがIBMの企業文化変革に寄与したこと、IBMが「ニューブルー」と呼ばれる新しい企業文化へ移行した背景についても解説されました。
また、製品中心から顧客中心へのシフトや、評価基準を顧客満足度や株主価値に変更することで、社員の行動変容を促進した事例を紹介。
山﨑氏は、自身の経験から得た洞察をもとに、文化的背景や顧客視点を重視したデザインプロセスが、組織やコミュニティーにおけるカルチャー変革に、いかに貢献するかを解説しました。特に、企業文化改革やクリエイティブな空間作りが、新しい価値創造につながることを強調しています。
デザイン文化と組織のあり方
そして最後に、本條晴一郎氏(東京科学大学准教授)とSTUDIO ZERO代表の仁科が加わり、会場参加者と一緒に「デザイン文化を考える」ディスカッションを行いました。
デザイン文化と組織のあり方について、具体的には以下のようなディスカッションが行われました。
1.デザイン文化の重要性
デザイン文化は直接デザインできないが、重要なリソースとなる
デザイナーが重要な役割を果たす
2.地域とデザイン文化
ミラノのデザインシステムが研究対象となり、「デザイナーが尊敬される環境」の重要性の指摘
日本の地方都市(前橋市)でのデザインを活用した都市開発の事例紹介
3.組織におけるデザイン文化の実装
IBMでの組織変革の例が挙げられ、デザイン部門と広告宣伝部門が変革の先駆けとなった
報酬制度の変更(ストックオプションの導入など)が組織文化の変革に寄与した
4.デザイン文化の発展と変化
ミラノサローネの新しい試みが紹介され、30代の女性リーダーによる変革が注目された
デザイン文化の変革には時間がかかり、意図的に作り出すことは難しいという指摘があった
5.デザイナーの社会的地位
イタリアではアーキテクトが尊敬される職業として認識されている
デザイナーの社会的地位向上が、デザイン文化の発展につながる可能性が示唆
このディスカッションを通じて、デザイン文化が「組織や地域の発展」に重要な役割を果たすこと、そしてその育成には「長期的な視点」と「多様な要素」が必要である、という結論に至りました。
オンライン・オフラインの参加者とも、さまざまな意見が交わされ、デザイン文化について理解の深まる時間となりました。
STUDIO ZEROでは、今後もXデザイン学校ならびに山﨑和彦氏と連携し、デザイン文化を組織や地域の発展に活かせるような取り組みを、積極的に行なっていく予定です。新たな取り組みにも、ぜひご期待ください!
STUDIO ZERO
株式会社プレイドの社内起業組織「STUDIO ZERO(スタジオゼロ)」は、日本を代表する大企業や地域経済を支える中小企業、新進気鋭のスタートアップ・ベンチャー、そして行政・公的機関と並走し価値創出を行うことで、新たな事業を開発する組織です。