躍動感溢れる筆遣いと力強い色彩の絵画で知られる近藤亜樹(1987年―)の個展を開催します。近藤は、東日本大震災の余波に人々の心が揺らぐ2012年に画家としてデビュー。日常の事物や記憶に残る人々の面影、植物、幼子の言葉といったプライベートなモチーフから生と死や超越的な自然の力といったテーマまでを自身のなかに受け止め、それらを描くことで異なる者同士が「いま・ここ」につながり合う世界を展望してきました。ときに抗しがたい出来事に向き合い、他者の存在やつながりを感じ取るなかで生み出されてきたその作品は、小さくささやかな存在や名状しがたい兆しに光を当て、人間の感受性を呼び覚まします。本展では、生命の祝福、他者と共に在ること、2022年以降ますます切実さを帯びる災害や戦禍にある人々への想い、葛藤とレジリエンスなど、近藤亜樹の作品をとおして「生きること」と「描くこと」が切り開く世界に迫ります。
作家プロフィール
近藤亜樹(こんどうあき) 1987年北海道生まれ。
2012年サンフランシスコ・アジア美術館での企画展「PHANTOMS OF ASIA: Contemporary Awakens the Past」に10メートルを超える大作絵画《山の神様》を出展。以後、描くことで現実に向き合う自らの創作を探求し、2015年には約14,000枚の油彩と実写を組み合わせた鎮魂の映画《HIKARI》を発表するなど、絵画表現の可能性を拡げてきた。2020年から山形県を拠点に活動している。主な展覧会に「わたしはあなたに会いたかった」(個展、シュウゴアーツ、 2023 年)、国際芸術祭「あいち2022」(2022年)、「星、光る」(個展、山形美術館、2021年)、「高松市美術館コレクション+身体とムービング」(高松市美術館、2020年)、「絵画の現在」(府中市美術館、2018年) など。受賞歴に2022年VOCA 奨励賞、2023年絹谷幸二芸術賞などがある。
展覧会のポイント
近藤亜樹4年振り、過去最大規模の個展
近藤亜樹の2022年以降の作品と、今展に向けて制作された50点を越える新作を一挙に展示する作家にとって過去最大規模の個展です。本展では、生への肯定や他者と共に在ること、人間的な尺度を越えた自然の世界、植物とのささやかな交感、芸術の根源に対する問いなどをテーマに、絵画表現の可能性を切り開く近藤の現在を、建築家・青木淳氏による展示構成によって展覧します。
幅9メートル超の新作絵画《ザ・オーケストラ》
喜びや悲しみ、葛藤や回復の過程を昇華させ、見る者と一体になる絵画を体験する本展のみどころの一つとなる9メートル超の新作絵画《ザ・オーケストラ》は、喜びや悲しみ、困難の受容と再起への希望とが芸術として昇華され、個々の表現が一体となる瞬間を描いた躍動感溢れる大作です。人間のみならず動物や植物、昆虫や擬人化された音の粒が混然となって画面を埋め尽くす様には愉快さやユーモアがあり、また画面から溢れんばかりの色彩と筆致には、イメージを逃すまいとする表現への貪欲さを感じさせます。落雷に打たれてもなお新しい芽を宿す松の巨木から着想し、本展に向け作品を描き進めるなかで、近藤の念頭には指揮者・小澤征爾氏(当館前館長)の存在があったと言います。近藤が先人に問いかけた「音のかたち」「芸術の力」とは、どのようなものなのでしょうか。
会期中、本作を音楽家の演奏とともに味わう関連プログラムも開催予定です。
いろいろな姿や顔の「サボテン」に出会う
本展に向けて近藤が注力するのがサボテンをモチーフにした新作シリーズです。ユニークなかたちや特徴をもつ、近藤の大小の「サボテン」は、生命力のシェルターとも、あるいは自己・他者を慈しむ気持ち(コンパッション)の象徴とも見ることができそうです。本展では、展示設計の青木淳氏、そして「いい顔してる植物」をコンセプトに活動する「叢」とのコラボレーションで、さまざまな「サボテン」に出会うインスタレーションを展開します。
「描くこと」と「生きること」が切り開く世界
初期代表作《山の神様》(2012年)をはじめ大型絵画で発揮されてきたダイナミックな画面構成や、身近な事物から超自然的な世界までを行き来する自由な発想とそれを描き留める画力、見る者の内面を見つめ返すようなポートレイトなど、近藤の作品にはいずれも、絵に対峙する者の感受性を掻き立てる力があります。その表現は、極めて私的な出来事や彼女を取りまく世界とともに少しずつ変化し、災害や紛争、パンデミックなど危機的状況を「描くこと」で受け止めながら、生きることそのものへの祝福となって人々の心を震わせてきました。
「我が身をさいて、みた世界は」という本展のタイトルには、ときに困難に直面し、身を切る思いでもがきながらも、「いま・ここ」から世界の広がりを展望しようとするアーティストの姿勢が表されています。それはまた、生きていく上で引き受けざるを得ない逆境や葛藤に見舞われたとき、それらを乗り越えようするなかで至る実感にも通ずるのではないでしょうか。形式や美術史的コンテクストのみを拠り所とすることなく、一貫して「今を生きている」者として描き続ける近藤の作品から私たちはどのような世界を見通せるのか。本展では、活動初期から近藤が問い続ける「生きること」と「描くこと」のつながりについて、その近年の作品から改めて見つめ直します。
新作について掘り下げる展覧会関連プログラム
■ザ・オーケストラの部屋【要申込】
音楽家の演奏とともに近藤亜樹の作品を楽しむミニコンサート。第一弾ではヴァイオリニスト・会田莉凡さんをお招きします。
開催日:3月1日(土)ほか※出演者・公演日のラインナップや申込は当館ホームページをご覧ください。
申込開始:2月1日(土)10:00
■「叢」ワークショップ&トーク【要申込】
本展に向けた制作過程で近藤に多くの気づきをもたらした「サボテン」。「いい顔してる植物」をコンセプトに活動する「叢」の小田康平さんと近藤が「サボテン」について語ります。「叢」が集めた植物の販売とワークショップも開催。http://qusamura.com/
開催日:4月27日(日)
会場:ワークショップ室
〈ワークショップ〉
時間:13:00-14:30
ワークショップ講師:小田康平(「叢」代表)
定員:15名(抽選)
参加費:5,000円
申込期間:2月1日(土)10:00-4月4日(金)18:00
〈トーク〉
時間:15:00-16:00
出演:近藤亜樹、小田康平
定員・料金:50名(予約不要・先着順)・無料
展覧会概要
展覧会名:近藤亜樹:我が身をさいて、みた世界は
会 期:2025年2月15日(土)~ 5月6日(火・振休)
開場時間:10:00~18:00(入場は 17:30 まで)
会 場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
休 館 日: 月曜日、2月25日(火) ※2月24 日(月・振休)、5月5日(月・祝)は開館
入 場 料:一般 900円、団体(20名以上)700 円
高校生以下/ 70歳以上、障害者手帳などをお持ちの方と付き添いの方1名は無料
※学生証、年齢のわかる身分証明書が必要です
◎1年間有効フリーパス「年間パス」2,000円
◎学生とシニアのための特別割引デー「ファーストフライデー」:
毎月第一金曜日は学生と65~69歳の方が100円で展覧会をご鑑賞いただけます。※要証明書
主 催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
協 力:シュウゴアーツ、サントリーホールディングス株式会社
展示構成:青木淳
企 画:後藤桜子(水戸芸術館現代美術センター学芸員)
同時開催
高校生ウィーク2025
高校生のための展覧会無料招待企画として 1993年にはじまり、現在では多様な人や価値観に出会う機会を多世代に提供する「高校生ウィーク」。期間中ワークショップ室内に出現する「カフェ」※で、展覧会と連動したワークショップや部活動、読書、裁縫などさまざまなプログラムをどなたでも楽しめます。3月19日(水)には シニアの皆さまとアートをつなぐプログラム「ブリッジカフェ」も開催します。 ※飲物の提供については感染症の状況をみて決定します。
会 期:3月8日(土)~ 4 月6日(日)
会 場:現代美術ギャラリー ワークショップ室
料 金:展覧会入場料に含まれます