解説
うちの子、頭はいいんだけどテストや成績はイマイチ。そう、「頭がいい」と「勉強ができる」は違う!と、前作『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』ではポジティブに解き明かされた。「知識のインプット(認知能力)」だけに収まらない「非認知能力」が教育改革と共に変わる大学入試や教育現場、来たるAIとの共存・共働する新しい時代に必要と言われている。また、勉強だけできても、先が見えず何が起きるかわからない時代を生きることは難しいと実感する今、求められるのは、「正解」ではなく「納得解」を見出す力だ、これも非認知能力である。
この「非認知能力」、子どもだけが伸ばせるものと誤解されがちだが、実は大人になってからも伸ばすことができる。本書は、教育・保育・子育てにかかわる方々をはじめ、ビジネスの世界で人材育成に携わっている方々にも、その力の伸ばし方を理解し参考にできる一冊である。
★非認知能力とは?
仕事の成果や人生の充実度が決まる力のこと。
最近では、落合陽一氏が自身の動画で『非認知能力』について語り、メンタリストDaiGoもYouTubeで『非認知能力』を取り上げ、ますます話題になっている。
もっと具体的に掘り下げると……。
○コミュニケーション能力(他者とやり取りできる力)
○思いやり・共感性(他者の立場に立ち、その思いを想像できる力)
○忍耐力(我慢する力)
○自信・自尊感情(自分をプラスにとらえる力)
○意欲(前向きに頑張ろうとする力)……などなど。
世界で初めて提唱したのは、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン氏。
はじめに
2018年11月に拙著『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』が刊行され、大変ありがたいことに相次ぐ増刷や海外での翻訳などが実現しました。また、私自身も教育・保育・子育てにかかわる方々からご依頼を受け、お話をさせていただく機会も一段と増えました。近年の「非認知能力ブーム」の高まりに驚きを感じるとともに、これまでのテストで測れる「学力=認知能力」に傾倒してきた時代が、まさに変わろうとしているのだと実感しています。
しかし、これがこのままブームで終わってしまうのではないか、という一抹の不安も同時に抱いています。いまから20年ほど前にも「EQ=こころの知能指数」という概念が我が国に輸入されて一躍ブームになったものの、すでに「(初代)たま〇っち」と同様に過去のものにされようとしています。そして、EQに代わるかのように登場した非認知能力も、そんな目に遭ってしまう日が来るのかもしれません。
もし、そうなる日がくるのなら「EQ」や「非認知能力」と呼ばれてきたようなものが、敢えて固有の名前で呼ばなくとも誰もが大切なものと認識していることを切に願うばかりです。そんな日が訪れるためにも、拙著の続編を執筆する運びとなりました。
拙著『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』では、できる限り小難しい言い回しを避けました。そして、教育・保育関係の方から子育て中の保護者の方々まで、広くわかりやすい非認知能力の解説本となるように心がけたつもりです(そうなっていないと思われる方がいらっしゃったら、すみません……)。そのため、研究書的なものを期待されていた方には物足りない内容になっていたかもしれません。
さて、本書もできるだけ多くの方にわかりやすい本になることを心がけましたが、今回は解説書ではありません。むしろ、「で、非認知能力、どうすればいいの!? 」についての見解・持論を述べていくことにしたいと思います(前回の解説的な内容は前著に委ねて、できるだけ割愛しました)。その上で、「非認知能力」なるものを今後どのようにとらえていけばよいのか? 実際にどうやって伸ばしていけばよいのか? など について可能な限り「実践本」として展開していきます。
本書の内容が、教育・保育・子育てにかかわる方々をはじめ、ビジネスの世界で人材育成にかかわられている方々にとっても何らかの参考になればうれしいです!
ぜひ、読み進めてみてください!!
2020年6月 中山芳一
著者情報
中山芳一(なかやま よしかず)
岡山大学全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。
1976年1月、岡山県生まれ。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中学生、高校生たちまで、各世代の子どもたちが非認知能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。さらに、社会人を対象としたリカレント教育、全国各地の産学官民の諸機関と協働した教育プログラム開発にも多数関与。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありきの研究」をモットーにしている。
著書に『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』東京書籍(2018年)、『新しい時代の学童保育実践』かもがわ出版(2017年)、『コミュニケーション実践入門』かもがわ出版(2015年)など多数。
コンテンツ
【目次構成】
第Ⅰ章 あらためて「非認知能力」について
いま、多くの関心を集めている非認知能力
そもそも「認知」ってなに?
メディア化された言葉としての非認知能力
「能力」としてとらえてよいのだろうか?
「非認知能力」という言葉でよい
非認知能力にはレベルの違いがある!
伸ばしたい非認知能力を3つの枠組みで提案!
3つに整理した非認知能力の関係性
「見えにくい力」の言語化が大切
非認知能力が伸びるのは幼児期だけ?
第Ⅱ章 非認知能力は「自分で」伸ばす力
非認知能力は自分の内面にかかわる力
「意識づけ」がカギ
意識づけのために「ほめる・しかる」
辻褄が合っていることが信頼関係を築く
プロセスの中で意識づけを
意識づけのためのレンズを持つ
非認知能力レンズに磨きをかける
非認知能力レンズで見取ったことをフィードバックしよう!
非認知能力レンズが相手の内側にもつくられる
第Ⅲ章 非認知能力を伸ばす「仕掛け」
「仕掛人」になる!
ギミックで「望ましい姿」を引き出す!
保育・幼児教育における「環境構成」という名のギミック
「相互主体的な学び」という考え方
「どんな非認知能力を伸ばしたいか」を明確に!
ギミックとなる「環境や教材」は特別なものでなくてよい
ギミックで「参加、参画、協働」のプロセスを!
PBLの第一段階は「パーソナルプロジェクト」から
非認知能力を自分で伸ばす「セルフトレーニング」
ギミックが「体験」を、レンズが「経験」を豊かにしてくれる
第Ⅳ章 非認知能力を「アセスメント」する
非認知能力の「評価」とは?
非認知能力を「アセスメント」する方法
「アセスメント」するために行動指標を具体化する
「アセスメント」項目をつくってみよう
アイデアドーナツでチャンクダウン!
多くの人たちから意見を集めたチャンクアップの利点
実際にこんな「アセスメント」項目ができる!
アセスメントの活用①―言葉による「アセスメント」
アセスメントの活用②―自分で自分を「アセスメント」
「アセスメント」の向こう側
第Ⅴ章 先が読めない時代を生き抜く「非認知能力を伸ばす」コツ
第Ⅰ章のおさらい
第Ⅱ章のおさらい
第Ⅲ章のおさらい
第Ⅳ章のおさらい
「認知能力」と「非認知能力」の関係って?
「非認知能力」が「認知能力」を伸ばす
「認知能力」獲得・向上の中に「非認知能力」を見出す
「非認知能力」と「認知能力」の相関関係
「意欲」こそが目標と課題を設定する
計画的偶然とセレンディピティ
ケア的関係の中で「安全基地」を!
エビデンスとポリシー
「正解」ではなく「納得解」を見出す
「いつものくらし」を「学び」に変える
<概要>
『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』
■中山芳一/著
■定価1,870円(本体1,700円+税10%)
■四六判・224頁
https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/81402/
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