著者が動物保護活動をはじめた切っ掛けは、たった一人で何十匹もの犬猫を自費で保護していた通称「愛さん」との出会い。場所は言えないが、都会の片隅にすべて手作りの施設(現在はその場所にはありません)。
この愛さん、またの名を「猫探知機」、仕事の行き帰りに道を歩いていると捨て猫をみつけたり、事故に遭ってヨロヨロになった猫が目の前に現れるという。
見捨てることが出来ない愛さんは、施設に連れて帰って動物病院で診てもらい、仕事をこなしながら介護の日々。やがて回復した捨て猫は、「うちの子」として命を全うする。
その現場にボランティアで通ってたくさんの命のお世話をした著者は、愛さんを捨て猫たちの「お父さん」と表記して、涙なしには読めない実話を紹介している。世話を「してあげる」のではなく、「させていただく」の世界観は僧侶ならではなのか。
保護した場所、季節にちなんで名づけられる捨て猫たち。五月に保護された「さつき」、タンポポの横に捨てられていた「たんぽぽ」、大晦日に保護されて「みそか」など、ネーミングセンスもよい。よろよろと道路の真ん中に現れた猫は「ドーロ」と名付けられた。
あなたの前に突然現れ、「優しい手」に拾われ、あなたの家の子となった名もない捨て猫にも、大切な名前をつけたことだろう。そして、兄弟姉妹として多感な時期を一緒に暮らし、思い出も笑い話もたくさんあったでしょう。当然、ペットの死に際しては長く悲しんだに違いなく、死に目に合えず「ごめんね」の感情に苛まれたり、ペットロスになった人も少なくないかも知れません。
大人になって家を出て、新たな家族をもうけてペットを飼っている人も、ペット禁止の集合住宅で暮らしている人も、ふと考えたことはなかっただろうか。あの子が「うちの子」になった意味って何かあったのだろうか、と。
ペットの飼い主はすべてアニマルコミュニケーターと言い切るのも、スピリチュアル好きには心地良い。聖地セドナまで行って出した「あの子の声」の是非は、行動したがゆえのもの。あなたも「うちの子の声」を聴いていたし、会話も成り立っていたはず。
心理カウンセラーでもある著者は、ペットロスの悲しみから再生する方法、ペットロスになった相手に寄り添う方法なども惜しみなく披露。心理学の技法を取り入れながら解説してくれて参考になるのだが、「ノリ・ツッコミ」の文章に思わず吹き出してしまい、心が軽くもなります。
本書は僧侶が説法する堅苦しい話がメインではなく、捨てられた動物たちの声なき声、保護や里親探しの苦労、動物保護にかかわる人間模様、祈りの効果など、ペットにまつわる色んな視点の話がいっぱい詰め込まれています。
なぜだかあなたの元に来て渡してくれた命のバトンは、あなたの人生に何をもたらしのただろうか。秋の夜長に思い返してみたら、天国の「虹の橋」のたもとにいるあの子への供養にもなり、心の中で「ありがとう」とつぶやくのではないでしょうか。
本書は平成二十四年十二月刊『ペットがあなたを選んだ理由』の本文書体を肉厚にし、カバーを新装したものです。
・著者プロフィール
塩田妙玄 しおた・みょうげん
高野山真言宗僧侶/心理カウンセラー/生理栄養アドバイザー/陰陽五行・算命師。前職はペットライター、東京愛犬専門学校講師、やくみつるアシスタント。その後、心理カウンセリング、生理栄養学、陰陽五行算命学を学び、心・身体・運気などの相談を受けるカウンセラーに転身。より深いご相談に対応できるよう出家。飛騨千光寺・大下大圓師僧のもと得度。高野山・飛騨で修行し、現在高野山真言宗僧侶兼カウンセラー。個人相談カウンセリング、心や身体などの各種講座、ペット供養などを受ける。
著書に『だから愛犬しゃもんと旅に出る』(どうぶつ出版)、『たからものを天に返すとき』『捨てられたペットたちのリバーサイド物語』『ねこ神さまとねこおやじ』『ペットたちは死んでからが本領発揮』(以上、ハート出版)、『40代からの自分らしく生きる体と心と個性の磨き方』(佼成出版社)。原作に『HONKOWAコミックス ペットの声が聞こえたら』シリーズ〈生まれ変わり編〉〈奇跡の楽園編〉〈あなたのやさしい手編〉〈虹の橋編〉〈愛の絆編〉〈保護犬・保護猫奮闘編〉〈命をつなぐ保護活動編〉〈福縁の保護猫・保護犬編〉(画・オノユウリ/朝日新聞出版)
・書籍情報
書名:新装版 ペットがあなたを選んだ理由
著者:塩田妙玄
仕様:四六判並製・272ページ
ISBN:978-4-8024-0166-1
発売:2023.09.26
本体:1,600円
発行:ハート出版