インバウンド訪日外国人も渋谷の銅像に会いに来るほど有名な犬。ハリウッドも2009年に『HACHI 約束の犬』で映画化。世界の人々を魅了してやまないハチ公の生涯を児童書で味わってほしい。
大正12年(1923年)の11月、ハチは4匹きょうだいで秋田県の小さな村(現・大館市)に生まれました。翌年1月には、夜汽車の貨物に載せられて上京、東京帝大教授・上野英三郎宅にもらわれていきました。
ハチの名前の由来は、犬が出好きな上野博士が飼い始めた8匹目だったからとか。当時の渋谷は東京の街はずれ。お手伝いさんや書生さんも抱える大きな上野家で、ハチは愛情たっぷりに育てられました。
やがてハチは、博士が大学や試験場の行き帰りに利用する渋谷駅までお見送りと、お出迎えをするようになりました。立派な体格の秋田犬はめずらしく、お出迎えをする賢い犬として、駅員さんや商いの人たちに親しまれていました。
そして博士の送り迎えを始めてから1年も経たないうちに、別れは突然にやってきました。博士は大学にいるときに心臓まひで亡くなってしまったのです。ハチには先生がいなくなったことが理解できません。
主を失った上野宅は売られることになり、一家は離散状態に。それでも奥さんの親戚や、上野宅に出入りしていた植木職人の菊さんなどに面倒を見てもらったりしていました。
ところが、その菊さんも帰らぬ人となり、ハチは身内がいなくなり、野良犬になってしまったのです。それからハチは、帰らぬご主人を出迎えるかのように、また渋谷駅に通うようになったのです。
ただ、飼い主がいない毛並みもみすぼらしい野良犬、以前のハチを知らない人たちからは邪険にされるようになりました。それでもハチは渋谷の街を離れず、駅前へと通い続けました。渋谷の街にいれば、きったまた先生に会えると思っていたのでしょう。
そんなハチが、日本中に知られるようになってから、亡くなるまでの話は、噺家のような著者の文章でお楽しみください。静謐な挿絵とともにきっと共感して涙することでしょう。あとがきもハチの剥製を作った方の貴重なものが紹介されています。
大正、昭和、平成、令和と世は移り変わりましたが、100年たっても愛され続けるハチ公。渋谷での「HACHIフェスin渋谷」は8月5日と6日で終了してますが、大館市では11月11日(土)12日(日)に「HACHIフェスin大館」が開催されます。
※本書は、平成21年8月に刊行した『ハンカチ文庫 ほんとうのハチ公物語』を改題・改訂のうえ、リサイズ・新装したものです。
・著者プロフィール
綾野 まさる(あやの・まさる)
本名・綾野勝治。1944年、富山県生まれ。67年、日本コロムビア入社。5年間のサラリーマン生活後、フリーライターとして、特にいのちの尊厳に焦点をあてたノンフィクション分野で執筆。94年、第2回盲導犬サーブ記念文学賞受賞。
主な作品に『いのちのあさがお』『いのちの作文』『帰ってきたジロー』『南極犬物語 新装版』(すべて弊社刊)『900回のありがとう』(ポプラ社)、『きんさんぎんさんの百歳まで生きんしゃい』(小学館)ほか多数。
・書籍情報
書名:ハチ公ものがたり
著者:綾野まさる
仕様:A5判上製・160ページ
ISBN:978-4-8024-0170-8
発売:2023.10.23
本体:1,500円(税別)
発行:ハート出版