新疆生産建設兵団（ＸＰＣＣ）は1954年に設立された「軍」「政」「党」「企業」一体の特殊な組織です。
共産党中央政府の指揮下で、ウイグルを巨大な監獄にし、職業訓練所と称して、ウイグル人を奴隷として酷使しています。
その上で、生産物を収奪、世界に流通させる準軍事組織です。
2020年２月、オーストラリアのシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所（ASPI）が発表した「Uyghurs for sale」というレポートによると、世界的な83社の有名企業がウイグル強制労働と関わりがあるとされ、うち11社が日本企業でした。この11社に、同じく強制労働との関与が疑われる日本企業３社を加えた14社に対し、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウと日本ウイグル協会が取引停止を求めたところ、無回答の１社を除いた13社が関与を否定したというのは当時多くの媒体で報道されたので、具体的な企業名を記憶されている方も多いと思います。
そのような流れを受け、2021年前半、欧米諸国で中国共産党によるこういったウイグル人に対する数々の弾圧を「ジェノサイド」として認定する動きがありました。残念ながら日本ではこのタイミングでは国会決議に至らなかったのですが、翌2022年２月にようやく対中非難決議が可決されました。
ところが、その同月にロシアによるウクライナ侵攻が起きると、世界の注目は東欧に向かい、日本国内でも「ウイグルジェノサイド」に関する報道を目にする機会は激減しました。最近では、ハマスによるイスラエル攻撃を皮切りに交戦状態が発生し、ますます世間の目がウイグル問題から離れているのを実感します。
しかし、ウイグルジェノサイドが終わったわけではありません。中国共産党は、世間の目が離れたのをいいことに、ウイグル人に対する弾圧をやめるどころか、さらに強化しているのです。
著者のムカイダイス氏は、ものごとを「善と悪」「敵と味方」という視点で見るのではなく、歴史的な背景を正しく知り、歴史的事実を俯瞰するという客観性を重視した姿勢で、この問題に向き合っています。そして、自身がウイグル語、中国語、ロシア語、英語、日本語の五か国語の話者であることを活かし、原書でしか読むことができない貴重な資料に直接当たることで、中国によるウイグル侵略、支配が不当であることを、主に中国側の資料によって証明しています。特に中国側にとって「新疆ウイグル自治区」成立の最大の貢献者であるブルハン・シェヒディについての論評は、まさに「情報の集大成」と呼べるものであり、これ以上の資料はないと断言できます。ブルハンが手引きしたウイグルの「和平解放」がいかに欺瞞に満ちたものであったか、「新疆ウイグル自治区」がいかに不当なやり方で成立したのかが非常によくわかります。この「和平解放」に伴ってウイグル全土を支配したのが、新疆生産建設兵団なのです。
新疆生産建設兵団の歴史は「欺瞞と策略で血塗られたウイグル支配の歴史」であり、新疆生産建設兵団の現在は「ウイグルジェノサイド」そのものです。
日本にあって無自覚にウイグルジェノサイドに加担する危険性を避けるためにも、ぜひ一人でも多くの方に本書をお読みいただき、現在ウイグル人が置かれている現状をご理解いただければと願います。
【著者】ムカイダイス（Muqeddes）
ウルムチ出身のウイグル人。千葉大学非常勤講師。
上海華東師範大学ロシア語学科卒業。神奈川大学歴史民俗資料学研究科博士課程修了。元放送大学面接授業講師、元東京外国語大学オープンアカデミーウイグル語講師。世界文学会会員。
Ismail Gasprinski賞（トルコ世界では非常に名誉ある文化賞）受賞。
著書に『在日ウイグル人が明かすウイグル・ジェノサイド』（ハート出版）、『ああ、ウイグルの大地』、『ウイグルの詩人 アフメット ジャン・オスマン選詩集』、『ウイグル新鋭詩人選詩集』三冊とも河合眞共訳（左右社）、『聖なる儀式 タヒル・ハムット・ イズギル詩集』河合眞共編訳、『ウイグルの民話 動物編』河合直美共編訳（二冊とも鉱脈社）などがある。
それ以外に『万葉集』（第4巻まで）、『百人一首』、『旧帝国陸軍知られざる地政学戦略―見果てぬ防共回廊』関岡英之著のウイグル語訳を手掛ける。
【書籍情報】
書名：ウイグルを支配する新疆生産建設兵団
著者：ムカイダイス
仕様：四六判並製・288ページ
ISBN：978-4-8024-0160-9
発売：2023.11.13
本体：1600円（税別）
発行：ハート出版