終戦直後、廃墟の日本を訪れたフランス『パリプレス』紙極東特派員は、一カ月半の視察の後、次のように語った。
「日本人はいまだに高貴な宝を持ち続けている。礼儀である。身にボロを纏うとも、困苦にめげず、礼儀を失わずにいる民族は、亡びる民族ではない」
基本的な礼儀・作法の欠如は世の乱れの元となる。敗戦で焼け野原と化した日本であったが、秩序は維持され、精神的な面においてなお強い力が残っていることを、仏人記者は日本人の礼儀に見出し、感激したのであった。
本書『女子礼法要項』は、そんな「高貴な宝」の如き輝きを放つ、日本の女子礼法教育の集大成である。将来良妻賢母となる女子を育んだ高等女学校(今の中学・高校)の礼法教科書であり、文部省制定の「礼法要項」(昭和16年)に準拠した内容になっいる。その土台は高等女学校長協会発行の『作法要項筆記帖』(昭和九年)であり、生徒の理解と実践が容易なように、整理統合や順序変更を行い、文を平易簡明にし、挿絵を多くするなどの工夫がなされている。女子用の教科書ではあるが、説明する礼法の多くは男子と共通である。
「家庭生活」「社会生活」上の礼法だけでなく、戦後の学校教育が忌避してきた「皇室・国家」に対する大切な礼法も学ぶことができる。以下のような項目ごとに礼法の要点が列挙され、知りたいことをすぐに確認できる構成になっている。また、小学生向けの礼法教科書にはなかった、男女交際の心掛けなども説かれている。
本書は、これによって礼法を学んだ女子生徒が、生来母となったとき、我が子にそれを躾けるところまでが視野に入っていた。文部省の礼法要項制定に携わった徳川義親侯爵(尾張徳川家当主)は礼法の先生であるが、家庭以外で礼法を教わったことはなく、幼少期に母親がやかましく躾けてくれたことを感謝していた。しかしそのような躾を受けていない子女も多く、よい躾のできる母親となるよう特に女子には十分礼法教育を行い、それによってよい循環を作りたい、と徳川義親は考えていたのである。
主な項目
「姿勢」「敬礼」「言葉遣い」「起居」「受渡し」「包結び」「皇室に対し奉る心得」「拝謁」「行幸啓の節の敬礼」「神社参拝」「祝祭日」「軍旗・軍艦旗・国旗・国歌・万歳」「居常」「屋内」「服装と服制」「食事」「訪問」「応接・接待」「通信」「紹介」「慶弔」「招待」「近隣」「公衆の場所」「公共物」「道路・公園」「交通・旅行」「集会・会議」「会食」「園遊会」「競技」「戦没軍人並にその遺族等に対する心得」「男女の交際」「外国人との交際」「官庁・銀行・会社等に於ける心得」
学校での礼法教育がGHQによって廃止され、八十年近い歳月が過ぎた。その結果、ほとんど失せてしまった日本の「高貴な宝」の輝きを、再び取り戻したいと願う方々に、ぜひお読みいただきたい一冊である。
【書籍情報】
書名:[復刻版]女子礼法要項
編纂:全国高等女学校長協会
解説:竹内 久美子
仕様:A5版並製・200ページ
ISBN:978-4802401739
発売:2024.03.05
本体:1400円(税別)
発行:ハート出版
商品URL:https://www.810.co.jp/hon/ISBN978-4-8024-0173-9.html
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