松原氏は、幼少期に『鉄腕アトム』のアニメを見たことがきっかけで、人間のような知性をもつ汎用AIの実現をめざし、AI研究者の道を歩んできました。これまでに、将棋ゲームの開発や人狼ゲーム、カーリングの研究など様々なテーマに取り組んでいます。特に、AIが執筆した小説が「星新一賞」の一次審査を通過した「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」や手塚治虫の新作漫画をAIに描かせるプロジェクト「TEZUKA2020」、「TEZUKA2023」など、AIが創造性を発揮することは可能かという問いについても研究を進めています。
松原氏は、AIの議論に求められるのは、分かつことではなく、しなやかに共存する道を探ることであり、そのためには「文化の力」や「人間の知能とは何かを問いかけること」が大切であると考えています。AIやITは人類の幸せのためにあるという観点から、AIを避けるのではなく、使いこなすことで人間だけでは生まれなかった創作やエンターテインメントの楽しみ方が広がる可能性があります。
日本のAI研究の黎明期を支え、長年にわたり数々のユニークな研究を手がけている松原氏をお迎えし、京都橘大学では、科学技術の発展に伴う社会構造の変化を見据え、前例にとらわれない新しい教育、研究、地域創造をめざしてまいります。
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松原仁(まつばら・ひとし)氏
所属・職位:京都橘大学工学部情報工学科・教授、大学院情報学研究科・教授、情報学教育研究センター長
専 門:人工知能 *現在は、人工知能、ゲーム情報学、観光情報学研究に取り組む。
主な著書:『鉄腕アトムは実現できるか?』(河出書房新社)、『将棋とコンピュータ』(共立出版)、『AIに心は宿るのか』(集英社インターナショナル)、『文系のためのめっちゃやさしい人工知能』(ニュートンプレス)、『文系のための東大の先生が教えるChat GPT』(ニュートンプレス)など。
<プロフィール>
工学博士。1959年、東京都生まれ。
1986年東京大学大学院情報工学専攻博士課程修了。
通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(*)研究員、
2000年より公立はこだて未来大学教授、
2020年より東京大学教授を経て、2024年より京都橘大学教授。
第15代人工知能学会会長(2014-2016)、情報処理学会副会長。
AIUEO(Artificial Intelligence Ultra Eccentric Organization:AI超変態集団)の中心メンバー。
(*)現産業技術総合研究所。
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主なプロジェクトの概要
(1)「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」
“AI作家”による小説で「星新一賞」入賞をめざす試み。星新一のショートショート全作品を解析し、文章生成期「GhostWriter」が2,000字ほどの小説を執筆、完成後に人の手直しは入れない。2015年に応募した作品のなかで、1作品が第1次審査を通過した。今後は、星新一のアイデア発想法などを生かした小説の完成をめざす。
【”AI作家”の作品】
・ 「コンピュータが小説を書く日」(第1次選考通過)
・ 「私の仕事は」
(2)TEZUKA2020
人とAIで手塚治虫の”新作漫画”を制作するプロジェクト。手塚治虫の主要長編65作品、短編131話を人力でデータ化し、AIに学習させてプロットとキャラクター原案を生成した。各分野のクリエーターたちのブラッシュアップによって、漫画『ぱいどん』が完成した。
(3)TEZUKA2023
生成AIのサポートを受けながらクリエーターが『ブラック・ジャック』の新作制作をめざすもの。映画監督の林海象が実際に大規模言語モデルAIとやりとりしながらプロット、シナリオを作成。画像生成AIがキャラクター生成を担当した。
(4)人狼ゲーム
ゲーム分野でのAI研究は、プレーヤーが2人の伝統的なボードゲーム等から、3人以上が対戦する複雑で不確定な要素を含むものへと発展した。この試みでは、「人狼」における思考、会話、ゲームを実現するシステムなど、多角的に研究が進められている。
(5)カーリング
「氷上のチェス」と言われるスポーツ。将棋などの研究結果を活用しつつ、選手の技量や氷の状態といった不確定要素について研究。シミュレーター「デジタルカーリング」などの開発を通して、戦術・戦略に貢献している。
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