【研究方法】
日本人女性516人(年齢は20歳から92歳、平均44.3歳)を対象に、テープストリッピング法※1で採取した角層の解析と肌状態、肌質の研究調査を以下の方法で行いました。
・採取した角層は顕微鏡で拡大して角層画像とし、この角層画像を用いて、これまでに開発したAI技術で角層細胞の特徴である80種類の「かたち」と、皮膚機能に関連する10種類の「タンパク質」の量を推定。
・被験者の肌状態は、機器を使用して角層水分量、水分蒸散量、肌弾力や全顔画像解析などを測定。
・被験者の肌質は、化粧品の使用による肌荒れの過去経験や炎症、かゆみの頻度、紫外線を浴びた際の状況など、肌の反応性についてアンケート調査を実施。
【研究結果】
<結果1. 肌状態の特徴の推定>
角層画像からAI技術解析によって得られた角層細胞の「かたち」と「タンパク質」の推定値と機器で測定された肌状態の特徴を示す実測値の関係について、多変量解析※2を行いました。
その結果、解析によって得られる推定値は、肌状態を示す多くの実測値(水分量、水分蒸散量、シワの数、柔軟性、弾力性、潜在的なシミの数、肌内部の炎症などの9項目)と統計的な相関関係が認められました(図1)。
図1 肌状態に関する実測値(縦軸)と角層画像からAIと多変量解析による推定値(横軸)の相関グラフ
AI解析による各推定値は、それぞれ各実測値と統計的に高い相関性を示した。
(出典:Skin Res Technol. 2024 Feb;30(2):e13565. doi: 10.1111/srt.13565.)
<結果2. 化粧品や紫外線への反応性>
角層画像からAI技術解析によって得られた角層細胞の「かたち」と「タンパク質」の推定値と、化粧品による肌荒れ経験や頻度、紫外線に対する反応性に関する肌質アンケートの調査結果について統計的処理による判別分析※3を行いました。
その結果、判別分析により推定された回答は、アンケート各質問に対する回答と一致率が高いことが確認されました(図2)。
図2 肌質アンケート実回答と角層画像からAIと判別分析による判定との一致率
AI技術解析による推定値と判別分析により判定された回答は、それぞれ各アンケートによる実回答と高い一致率を示した。赤枠は、実回答と判定の回答が「はい」または「いいえ」の一致率が高いものを示す。
(出典:Skin Res Technol. 2024 Feb;30(2):e13565. doi: 10.1111/srt.13565.)
以上の結果から、テープストリッピングで採取された一枚の角層画像を、AI技術と統計解析を組み合わせることで、肌の機器による測定を行うことなく、より精度が高い肌状態の数値を推定できることが分かりました。
また、推定された各数値は現在の肌の状態だけでなく、潜在的なシミの状態などの肌内部の情報をも知ることができるため、顕在化されていない将来の肌状態やリスクを予測することも可能となりました。
【今後の展開】
角層は非侵襲的に採取できる皮膚検体であり、日常における肌チェックに応用することが可能です。本研究成果は、一枚の角層画像から皮膚内部のさまざまな特徴や状態をより精度高く知ることができることを示しています。さらに、この技術を用いて肌質の特徴を予測することができることから、化粧品や紫外線などが要因となる肌荒れや炎症などによる「肌不調」に対するリスクについて予測することができる可能性も見いだされました。
現在は、「AIパーソナル角層解析」へ活用していますが、今後は、肌と生活習慣などさまざまな要素との関係性についてより深く追求し、肌の「美と健康」に貢献できるよう目指してまいります。
【用語説明】
(*)「AIパーソナル角層解析」は、2022年から全直営店舗で提供している独自のサービスです。東芝デジタルソリューションズ株式会社と共同で開発したAI技術で、皮膚表面の角層細胞を拡大撮影し、AIで分析することにより、現在と潜在的な肌状態や将来の肌リスクを解析します。
(※)Skin Res Technol. 2024 Feb;30(2):e13565. doi: 10.1111/srt.13565.
「Investigation of stratum corneum cell morphology and content using novel machine-learning image analysis.」
※1 テープストリッピング法
皮膚最表面の角層細胞を粘着性のテープで剥がし、採取する方法。
※2 多変量解析
複数の変数に関するデータをもとに、これらの変数間の相互関連を分析する統計的手法。
※3 判別分析
いくつかのグループに分類されたデータをもとに、分類基準を解析することで未知のデータを分類する統計 的手法。
関連URL : https://www.fancl.jp/news/index.html