■受賞によせて(訳者 榎本空さん コメント)
『母を失うこと』は、ある個人の喪失をめぐる物語。米国で黒人として生きる著者は、
祖先の墓を求めてガーナへとわたるが、そこでも彼女はよそ者だった。帰るとは、
記憶とは、母を失うとは何か。濃密なテキストをぜひ味わってみてください。
故郷を追われたすべてのよそ者たちへ。
■日本翻訳大賞とは
12月1日~翌年の12月末までの13ヶ月間に発表された翻訳作品中、最も賞讃したいものに贈る賞。小説、詩、人文学書、児童文学、そして書籍以外のものまで広くカバーする。一般読者の支援を受けて運営し、選考にも読者の参加を仰ぐ。
第10回の選考委員は岸本佐知子・斎藤真理子・柴田元幸・西崎憲・松永美穂。
■本書の内容
「歴史が個人の物語になるとき、ソウルを揺さぶる一冊になる」
――ブレイディみかこ
ブラックスタディーズの作家・研究者、サイディヤ・ハートマンが、かつて奴隷が旅をした大西洋奴隷航路を遡り、ガーナへと旅をする思索の物語。奴隷になるとはいかなることか? そして、奴隷制の後を生きるとはいかなることか? ガーナでの人々との出会い、途絶えた家族の系譜、奴隷貿易の悲惨な記録などから、歴史を剝ぎ取られ母を失った人々の声を時を超えてよみがえらせる、現代ブラック・スタディーズの古典的作品にして、紀行文学の傑作。
■プロローグより
“わたしは、消滅した人々の残余を発見するという目的とともに、ガーナに降り立った。(…)奴隷制という試練がいかにして始まったのか、理解したかった。いかにしてひとりの少年が綿布二メートル半やラム酒一本と、そしてひとりの女性がかご一杯の宝貝と等価になったのかを、了解したかった。類縁と他者を隔てる境界を越えたかった。名のない人々の物語を語りたかった──奴隷制の餌食となった人々や、捕囚を免れるために辺鄙な、荒漠とした土地へと追い込まれた人々の物語を。”
■訳者プロフィール
榎本空(えのもと・そら)
1988年、滋賀県生まれ。沖縄県伊江島で育つ。同志社大学神学部修士課程修了。台湾・長栄大学留学中、C・S・ソンに師事。米・ユニオン神学校S. T. M 修了。現在、ノースカロライナ大学チャペルヒル校人類学専攻博士課程に在籍し、伊江島の土地闘争とその記憶について研究している。著書に『それで君の声はどこにあるんだ?』(岩波書店)が、翻訳書にジェイムズ・H・コーン『誰にも言わないと言ったけれど――黒人神学と私』(新教出版社)がある。
■著者プロフィール
サイディヤ・ハートマン(Saidiya Hartman)
作家、研究者、思想家。コロンビア大学教授。専門はアフリカン・アメリカン研究、フェミニスト・クィア理論、パフォーマンス・スタディーズなど。2019年、マッカーサー・ジーニアス賞受賞。奴隷制の暴力、またそれに対する黒人の抵抗についての語りを一変させたScenes of Subjection: Terror, Slavery, and Self-Making in Nineteenth-Century America(1997)でデビュー。最新作はWayward Lives, Beautiful Experiments: Intimate Histories of Riotous Black Girls, Troublesome Women, and Queer Radicals (2019)。
■書誌情報
書名 『母を失うこと――大西洋奴隷航路をたどる旅』
著者名 サイディヤ・ハートマン
訳者名 榎本空
定価 3,080円(本体2,800円)
判型 四六判上製
頁数 376頁
ISBN 978-4-7949-7376-4
発売日 2023年9月発売
発行 株式会社晶文社
書籍サイト https://www.shobunsha.co.jp/?p=7760
■目次
第一章:アフロトピア
第二章:市場と殉教者
第三章:家族のロマンス
第四章:子よ、行け、帰れ
第五章:中間航路の部族
第六章:いくつもの地下牢
第七章:死者の書
第八章:母を失うこと
第九章:暗闇の日々
第十章:満たされぬ道
第十一章:血の宝貝
第十二章:逃亡者の夢
訳者あとがきにかえて──『母を失うこと』についてのノート
関連URL : https://www.shobunsha.co.jp/?p=7760