第一部には2021年の新国立劇場での初演時にも出演した「ホワイトハンドコーラスNIPPON」から29名の子どもたちと、当時高校生でバイオリンソロを披露した長野礼奈が参加。渋谷慶一郎によるピアノ演奏、アンドロイド・オルタ4によるヴォーカル、そして注目のバイオリニスト・成田達輝が率いるオーケストラと演奏を共にする。
ホワイトハンドコーラスNIPPONは障害の有無に関わらずどんな子どもたちでも参加できるインクルーシブな合唱団であり、手話の表現で歌う「サイン隊」と声で歌う「声隊」によって構成される。その音楽的な表現力は想像を超えて観客の心を掴むだけでなく、現代におけるAIを用いた拡張的な芸術表現とのコラボレーションの可能性を強く示唆する。また、長野礼奈は音楽大学に通うバイオリニストであり、生後間もなく病気のため視覚に障害を持つ。本公演ではその類い稀な聴覚を活かし、『Super Angels』の中心的な楽曲である「五人の天使」の演奏にソロ・バイオリニストとして参加する。
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参加アーティスト岸裕真による新作AIビジュアル
スクリーンに映し出される映像は、新進気鋭のアーティスト岸裕真を中心とする「Dentsu Lab Tokyo」の若手クリエイターが制作を担当。岸裕真自身が開発した二つの生成ネットワークによって100万種類以上の天使の画像をAIに学習させ、生成された天使のイメージを用いて映像を制作。同ラボが開発した子どもたちの「手歌」をセンシングするウェアラブルデバイスによって、ステージ上の子どもたちの動きと映像表現はリアルタイムで同期する。こうした新たな表現手法に挑戦すると同時に、『Super Angels』のモチーフである「天使」の脱構築を試みる。
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子どもたちの衣装にはブランド、HATRAとNOVESTAが参加
子どもたちの衣装は、岸裕真と金沢21世紀美術館で行われた「DXP2(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット2)展」でもコラボレーションしたブランド「HATRA」が担当。映像と同様、AIによって生成された「天使」のイメージが衣装にもデザインされ映像との共振性をさらに高めていく。また、今回の公演のためにスロバキア発のシューズブランド「NOVESTA」が子どもたち全員にスニーカーを無償提供、衣装協力を行っている。
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初公開となるAIによる作曲を用いたオーケストラ曲
さらに公演まで14日間を切る中、全く新しい試みとなるAI作曲を取り入れた新曲も披露されることが決定した。渋谷の20年来のコラボレーターである東京大学教授の池上高志氏とのコラボレーションによるAI、GPTによる作曲の最初のプロトタイプとしてオーケストラ楽曲「Who owns this music?(この音楽は誰のものか?)」が第一部の序曲として初演される。
これはAIによって生成された膨大な音楽を渋谷が編集、変型すると同時にスコアのフレージングはオーケストラの各演奏者に委ねられるという、作曲そのものや著作者の概念を揺さぶるような試みであり、アンドロイド・オペラがコンセプトに据える「中心のないオペラ」を象徴する序曲が誕生した。
渋谷慶一郎は、本作について以下のように語っている。
「AIは人間の知性の補助といった範疇を超えて拡張を可能にする。特に音楽や芸術分野ではその傾向と可能性は顕著であり、AIとの協働は大きなタームとしてかたちを変えながら存在し続けるだろう。またそしてAIは境界を無化していく。音楽と美術、大人と子ども、障害などといった対立軸を無効化し、新しい芸術表現とテクノロジー、科学の結びつきとしては本質的なアプローチであり、それを総合芸術の中で実践していくことに挑戦したい。」
「世界は刻々と終わりに向かっている。アンドロイド・オペラはその終わりと終わりの後のシミュレーションとバリエーションで出来ている。仮に世界が終わったとしても、その過程とその後が美しければいいじゃないか?それを想像してアンドロイドとAIという終わらない存在と祝福することが現在の人間に出来ることではないか?それを舞台作品として提示することが作曲家という概念も終わりに向かいつつある中で僕に出来ることではないか?そんな気持ちでこの作品を作った。」とコメントしている。
【映像コンセプト・岸裕真】
「天使」は超常的な領域と日常的な領域の橋渡しとして、私たち人間社会でシンボル化されています。元来の宗教的な象徴性は漂白され、いつしか単に「福音をもたらす兆し」として描写されることが多くなりました。しかしながらもともとは厄災をつげる役割を持っていたなどと、その性格は実は両義的です。
渋谷慶一郎という音楽家は、人間が築き上げてきた境界の脆さを露呈し、鑑賞者をその境界の先へ誘います。現代においても特異な音楽生成を行う彼や彼とアンドロイドが共創する公演は、天使が元来持っていた両義的な役割、福音と厄災の到来を告げるそれにかなり近しいものかもしれません。
今回私は現代社会で漂白された「天使」のイメージの脱構築を、2つのイメージ生成ネットワークを用いて行います。そしてそれらのAIネットワークによって紡がれる映像は、Dentsu Lab Tokyoが制作するセンシングデバイスを介してホワイトハンドコーラスNIPPONの手歌によりエンハンスされ、当日スクリーンへ上映されます。
東京に6年ぶりの凱旋となるアンドロイドオペラにおいて、今日的なAIテクノロジーとアンドロイドAlter4、ホワイトハンドコーラスNIPPONの子どもたち、そして渋谷慶一郎の演奏により編まれる空間装置が、鑑賞者を巻き込んでどんな場所へ連れてってくれるのか、参加者である私もとても楽しみです。
【コメント・特別協賛:PwCコンサルティング合同会社 執行役員 谷川真理様 】
「変わりゆく社会情勢の中で、グローバルかつ多岐にわたるクライアントのニーズを素早く的確に捉え、複雑化する重要な課題を解決していくためには、多様な人材の活躍が益々求められています。
PwC Japanグループでは、テクノロジーを活用しながら、一人一人が課題を解決するCommunity of Solverとして、性別や国籍、障がいの有無などに関係なく誰もが活躍できるインクルーシブなカルチャーの醸成に力を入れています。こうしたI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)の観点から、人とテクノロジーを融合させ、社会状況・課題に挑んでいる「アンドロイド・オペラ公演」に共感し特別協賛することとしました。本公演には、テクノロジー(AIやアンドロイド・ロボット)と人の協働というテーマもあり、芸術を通して社会課題と向き合う活動は、当社のパーパスや目指すべき方向性にも通ずるものがあると考えています。」
【公演概要】
公演名:Android Opera TOKYO
MIRROR/Super Angels excerpts.
日時:2024年6月18日(火)
開場18時、開演19時(チケット完売)
第一部 Super Angels excerpts.
コンセプト、作曲、ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
歌詞:島田雅彦
ヴォーカル:アンドロイド・オルタ4
コーラス:ホワイトハンドコーラスNIPPON
(声隊指揮:加藤洋朗、サイン隊指揮:コロンえりか)
ソロバイオリン:長野礼奈
オーケストラ:Android Opera TOKYO Orchestra
(コンサートマスター 成田達輝)
アンドロイド プログラミング:今井慎太郎
映像:岸裕真
衣装(ホワイトハンドコーラスNIPPON):HATRA、NOVESTA
第二部 Android Opera MIRROR
コンセプト、作曲、ピアノ、エレクトロニクス:渋谷慶一郎
ヴォーカル:アンドロイド・オルタ4
声明:高野山声明(山本泰弘、柏原大弘、谷朋信、亀谷匠英)
オーケストラ:Android Opera TOKYO Orchestra(コンサートマスター 成田達輝)
映像:Justine Emard
アンドロイド プログラミング:今井慎太郎
【クレジット】
主催:アタック・トーキョー株式会社
共催:大阪芸術大学
協力:テレビ朝⽇
アンドロイド特別協力:大阪芸術大学アートサイエンス学科
制作協力:一般社団法人コミュニケーションデザインセンター、Dentsu Lab Tokyo、株式会社フレックス
企画制作・運営:アタック・トーキョー株式会社
特別協賛:PwCコンサルティング合同会社
協賛:株式会社 ポーラ、株式会社ソウワ・ディライト
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
【プロフィール】
渋谷慶一郎
音楽家。1973年東京生まれ、東京藝術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベル ATAKを設立。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたり、東京・パリを拠点に活動を行う。 代表作に、初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』、人型アンドロイドがオーケストラと演奏するアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』『MIRROR』。2021年には新国立劇場の委嘱新制作にてオペラ作品『Super Angels』の作曲を務める。また数多くの映画音楽も手掛けており、2020年には映画「ミッドナイトスワン」の音楽を担当。本作で第75回毎日映画コンクール音楽賞、第30回日本映画批評家大賞、映画音楽賞を受賞。
ホワイトハンドコーラスNIPPON
障がいの有無に関わらずどんな子でも参加できるインクルーシブな合唱団。手話の表現で歌う「サイン隊」と声で歌う「声隊」がともに奏でる音楽は、見えない壁を乗り越える未来の世代の創造芸術です。公益財団法人東京都歴史文化財団東京芸術劇場との共催事業。2023年キッズデザイン賞、2024年2月ウィーンの財団が主宰するバリアフリーの国際賞「ゼロ・プロジェクト・アワード2024」を受賞。
岸裕真
人工知能(AI)を用いてデータドリブンなデジタル作品や彫刻を制作する日本のアーティスト。岸は主に、西洋とアジアの美術史の規範からモチーフやシンボルを借用し、美学の歴史に対する我々の認識を歪めるような制作を行う。AI技術を駆使した岸の作品は、見る者の自己意識の一瞬のズレを呼び起こし、「今とここ」の間にあるリミナルな空間を作り出す。
Dentsu Lab Tokyo(デンツウラボトウキョー)
研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織。
「PLAYFUL SOLUTION」「おもいもよらない」をフィロソフィーとしながら、デジタルテクノロジーとアイデアによって、人の心を動かす表現開発や、いま世の中が求める社会の課題解決を実践。本公演ではイメージ生成を岸裕真と横山魁が手がけ、手歌のセンシング技術開発を中山桃歌、三國孝が担当する。
HATRA(ハトラ)
東京を拠点とするファッションブランド。衣服を境界状況的な空間と捉えたリミナル・ウェアを提案する。3Dクロスシミュレーション、生成AIを始めとするデジタル技術に基づくデザイン手法を確立し、様々なリアリティが溶け合う身体観をリサーチする。主な出展に「JAPANORAMA」(ポンピドゥー・センター・メス、フランス、2017)「DXP2」(金沢21世紀美術館、2024)など。
NOVESTA(ノヴェスタ)
1939年にスロバキア(旧チェコ・スロバキア)のパルチザンスケで創業した歴史あるフットウェアブランド。創業時からの代表モデル、STAR MASTER、ランニングシューズ、サンダルなど多様なフットウェアをスロバキアの工場で生産。国内外ブランドとの様々なコラボレーションも行い、2015年よりクラインシュタインがディレクションを行う。
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