摘出皮膚※1の長期培養技術と立体的かつ動的な変化の観察(4Dイメージング)に成功

摘出皮膚※1の長期培養技術と立体的かつ動的な変化の観察(4Dイメージング)に成功
スキンケア
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【摘出皮膚の4Dイメージングに成功】


新たに開発したマイクロニードル※2を活用した培養方法を用い、摘出皮膚の状態を生体に近い状態で保ちながら、皮膚内部の立体的かつ経時における動的変化の観察を行いました。観察には、細胞内の核、細胞膜やミトコンドリアを染色し、共焦点レーザー顕微鏡※3を用いて行いました。

その結果、皮膚内部の表皮細胞や真皮細胞、真皮の血管を構成する細胞などの動きを観察することに成功しました。さらに細胞の中にあるミトコンドリアの様子も観察され、細胞が生存している状態で動的に捉えられていることが確認されました(参照:動画)。


生きた皮膚組織内の様子の動画






摘出皮膚※1の長期培養技術と立体的かつ動的な変化の観察(4Dイメージング)に成功


【マイクロニードルを用いた摘出皮膚の長期培養方法を開発】


ヒト皮膚を摘出時と同じ状態に保てるよう、摘出皮膚の長期培養方法を検討しました。通常の培養方法は、皮膚の深部から培地を吸い上げる方法(図1/左)で行います。しかし、この方法では摘出皮膚の内部に栄養などが届かず、壊死してしまうという課題がありました。そこで、摘出皮膚の内部に栄養などが届くように、摘出皮膚の上からマイクロニードルを刺して皮膚内部に栄養を届ける方法(図1/右)を考案しました。


摘出皮膚※1の長期培養技術と立体的かつ動的な変化の観察(4Dイメージング)に成功

通常の培養方法とマイクロニードルを用いた培養方法による摘出皮膚の培養状態の違いを知るために、それぞれ11日間培養し、細胞毒性と炎症状態*4を評価しました。その結果、通常の培養方法は、培地中の細胞毒性および炎症の指標が、摘出後に比べて大きく増加したのに対し、マイクロニードルの培養方法は、培地中の細胞毒性および炎症の指標が抑えられていました(図2)。

このことから、マイクロニードルを用いた培養方法は、皮膚内の炎症や壊死を抑え、摘出後の状態を保ちながら長期に培養可能であることが考えられました。


摘出皮膚※1の長期培養技術と立体的かつ動的な変化の観察(4Dイメージング)に成功


【研究背景・目的】


当社では、摘出した皮膚の内部を立体的に観察および解析する技術を開発し†1、弾性線維※5の加齢変化†2-3やチオレドキシンによる弾性線維†4への影響について調べてまいりました。これらの技術は、皮膚内部の立体的な構造を知るための画期的な技術ですが、観察の際に組織固定※6をする必要があるため、静止画のみの観察に限るという課題がありました。そのため、肌内部で起きているさまざまな現象について、経時による直接観察をすることはできませんでした。

本研究では、摘出した皮膚の新しい培養方法を考案し、摘出した皮膚を通常のヒト生体皮膚に近い状態に維持し、経時観察を可能にすることを目的としました。


【担当者のコメント】


摘出皮膚※1の長期培養技術と立体的かつ動的な変化の観察(4Dイメージング)に成功

株式会社ファンケル  総合研究所 基盤技術研究センター 生体機能分析グループ

主任研究員 東ヶ崎 健 (とうがさき たけし)

皮膚の内部で表皮の細胞が新陳代謝で生まれ変わる、加齢で弾力線維が変形してしまう、など私たちの皮膚内部では、さまざまなことが起きています。これらの現象について、遺伝子やタンパク質レベルでの解析が進められ理解が進んできていますが、最終的にはその現象を直接見ることは、難しい状況でした。

しかし、直接見られることが、より皮膚のエイジング研究の深掘りにつなげることができるのではないかという想いから、立体的、かつ動的に経時変化の観察ができる方法として4Dイメージングでの観察方法の研究を進めてきました。

本研究で得た技術が皮膚科学の発展に貢献し、多くの方のいろいろな肌悩みの解決に役立てるようにしていきたいと思っています。



<用語説明>


※1摘出皮膚

切除されたヒトの皮膚。本研究では、美容整形などで切除された余剰皮膚を使用。また、試験実施にあたっては、ヘルシンキ宣言を遵守し、倫理的配慮のもと入手した皮膚組織を用いて行っています。

※2マイクロニードル

直径がμmレベルの極細の針。本研究では皮膚へのダメージを最小限に抑えるために使用している。

※3共焦点レーザー顕微鏡

被写体を立体的に観察することができる光学顕微鏡。

※4細胞毒性と炎症状態

細胞毒性の指標として乳酸脱水素酵素、炎症の指標として、インターロイキン-8を用いている。

※5弾性線維

皮膚真皮に存在し、肌の弾力を保つのに働く線維。

※6組織固定

生体試料の構造を観察するために生命現象を停止させる処理。



<引用文献>


†1. Tohgasaki T et al. Skin Health and Disease. 2021:e58.

†2. Tohgasaki T et al. J Histochem Cytochem. 2022;70(11-12):751-7.

†3. Kondo S et al. J Cosmet Dermatol. 2022;21(10):4796-804.

†4. Tohgasaki T et al. Int J Cosmet Sci. 2024. Apr 29



<参考資料>


ニュースリリース:

https://www.fancl.jp/news/pdf/20170519_hadanodanryokuiji.pdf

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