北陸新幹線の敦賀延伸で注目される「福井県」。昔から越前がにや甘エビなどの鮮度が売りの海鮮物、大根おろしとの調和が絶品のおろしそば、分厚い肉感が食欲をそそる若狭牛などの食材があふれ、〝美味し幸の国〟として知られる。
中でも海山里の三拍子そろった坂井市は、食の宝庫であり美食の郷だ。その坂井市の市商工会選りすぐりの25店がスクラムを組み、提供している「越前坂井 うららの極味膳」がある。6月24日からは「極味膳」ホームページリニューアルに合わせたキャンペーンも始まった。
「海の幸、里山の幸、その厳選素材を贅沢に振る舞う」としたコンセプトを頑なに守り、自信を持って料理を提供する2軒の店主、スタッフに食材の魅力や膳や味へのこだわりなどの思いを聞いた。
最高ランクのヒレにこだわる
肉の目利きが焼く 極上ステーキ レストラン 朱雀
福井市と芦原温泉を結ぶ幹線、通称・芦原街道沿いに建つ「朱雀」。和風づくり平屋のレストランには、松や紅葉、サツキなど手入れされた緑樹が建物を囲うように配置され、昭和48年当時の開店の際、「京風庭園レストラン」と銘打った風情が今も漂う。
朱雀の極味膳「初代春之助膳」は、150g強の分厚いステーキ、それに地魚の刺身や炊き合わせ、小鉢などを添えた豪華な御膳。「この店は父親が始めてね…当時はモータリゼーションで、うちのような庭園レストランが、福井のあちこちにはやったのよ」と二代目の竹内博之社長(68)。父、春之助さんは調理人ではなかったが、ただの農家で終わりたくない、そんな思いが強かったのか思い切って飲食業に挑んだ。田園風景しかないこの近郷でのレストラン開業は当時大きな話題にもなった。博之さんも高校卒業後にすぐ店に入り、厨房で調理を手伝った。「親父は頑固な人でね。継げとは言わなかったけど、仕事ぶりは真面目やった」。そんな父の背中を店で長年見てきただけに、「極味膳には父の名を付けたかった」という。
「今でこそ、うちはステーキ専門店のように言われますが、ここ15、6年ほど。でも長年、若狭牛の上質ヒレ肉にこだわって出してきましたから、そりゃあ、美味いステーキを出している自負はありますよ」
日々の注文で一番は、ヒレカツ、エビフライと言った定食物。しかし近隣では今や「朱雀と言えばステーキ」が定着。福井県のブランド牛「若狭牛」を使ったステーキ(14,000~10,000円前後)の注文は毎日入る。評判は県外にも広がり、兵庫、大阪など関西からもリピーターが足を延ばし食べに来る。
ステーキ肉は、若狭牛の中でも美味のお墨付きである「三つ星若狭牛」。厨房の冷蔵庫には重さ6~10キロほどあるヒレの枝肉が常時7~10本ほど横たわっている。「肉質の等級でいうとA5ランク。うちはA5のヒレしか扱わん」と語るのはシェフの竹内二三さん(75)。開店から52年、厨房を預かるベテラン調理人で、春之助さんの末弟であり、博之社長の叔父に当たる。牛肉の見極め、焼き、味付けとステーキに関しては、博之社長も二三さんに全服の信頼を置く。
巨大なまな板の上でヒレ枝肉から丁寧に脂身をそぎ落とし、肉塊に対し直角に牛刀を下すと、分厚い一枚肉がきれいに出来上がる。肉の断面を見せ、「ほら、いいサシでしょう。これが美味い証しや」
ジュゥウウ~と、黒光りしたフライパンの上で脂が跳ねる。コンロ前で腰に手をやり、じっと音を聞き分ける二三さんは、まさに熟練のステーキ職人という立ち姿。
値段が10,000円を超すステーキ料理に比べ、極味膳は若狭牛ステーキに、さらに二、三品を添えて7,800円と割役だ。「なぜ、そんな安い?」と問うと、博之社長は「極味膳だからですよ。極味膳ってのは、各店が坂井市の海、山、里の飛びっきりいい食材を使った料理。だから、地元客にも観光客にも味わってもらいたい」。極味膳には坂井の食文化が粋が詰まっている、博之さんはそう言いたげだった。
越前おろしそば 食すなら「丸岡産」
石臼挽き粉を、繊細な手打ちで そば処 一筆啓上
「おろしそば」は福井の味を代表する麺。その中でも坂井市丸岡産のそばは、そば通やそば好きの間でも絶品と言わしめる。越前の母なる川、九頭竜川の豊富な水と坂井平野の肥沃な土地で育った在来品種。その在来の玄そばで打ったそばは、「味はもちろん、香りもよく、薄青緑がかった色が美しい」と誰もがうなる。
現存十二天守のひとつ、丸岡城を眼前に見上げる位置に建つ一筆啓上茶屋。その中にある店「そば処 一筆啓上」は、平日でも昼の時間帯は地元のそば好きや観光客が途切れることなく、40席ほどの椅子席はたちまち埋まる。店先では石臼が回転し、玄そばの実がじっくり挽かれていく石臼製粉をガラス越しに見ることもできる。
開店2時間半前の朝8時半。茶屋の2階では、店長の辰巳真由美さんら女性スタッフによるそば打ちが始まる。のし棒を巧みに操り、練ったそば粉を平らに延ばしていく。厚み2ミリ以下にまで延ばす動きは2人とも手際よく、打ちの所作が美しい。「毎日2人で120食ほどのそばを打ちます。古城まつりなどの催事がある時は、300~400食ほど打っているかな」と辰巳さん。福井のそば店は、男主人がそばを打つのがごく普通だが、この店の打ち手は女性ばかり。3人とも地元の丸岡そば振興協議会認定の有段者で、「女性ならではの繊細なそばの持ち味」がこの店の売りと言っていい。
こだわりは全メニューに丸岡産のそばを使っていること。町内の栽培農家から仕入れたそばの実を石臼を使って挽くことで、香り良い、ほんのり青緑がかったそば粉につながる。「私も、よそのそば屋さんに行くことはあるけど、丸岡産のそばと口当たり、弾力が違う。あぁ、やっぱり丸岡産が一番だと実感するの」。そば打ち歴11年の辰巳さんも丸岡産にほれ込む。
おろしそばにソースカツを組み合わせた「福井県人セット」(920円)が人気だが、極味膳の「大名ヘルシー蕎麦」(1,180円)も県外客を中心に注文がある。ざるそばとおろしそば、それに大根の葉に味噌をあえた菜めしが付く。「(極味膳は)不思議と、ひとつ注文が入ると続けて入るの」と辰巳さん。
30ほどもあるメニューすべてを考えたのは、店を運営するイワタグループ、岩田良治代表取表取締役(71)だ。「僕は婆ちゃんの育てられた婆ちゃん子でね。その婆ちゃんが作ってくれた大根葉のおあえ(菜めし)も古里の味だと思うんですよ。だから極味膳には丸岡産のそばと大根葉という昔ながらの丸岡の味を詰め込めた」と古里の味を強調する。
取材に訪れた日曜日、昼下がりにも関わらず、まだ店内は客でにぎわっていた。極味膳のおろしそばに舌鼓を打っていた女性客(63)は「値段もリーズナブルで、おいしかった。城のまちの素朴な御膳。小さい街でも手軽にいい食物に出会える。いい旅だわ」と満足気に語り、お天守への坂を上って行った。
【大名ヘルシー御膳(福井県坂井市丸岡町霞町3‐1‐3 一筆啓上茶屋1階)】
詳しくはホームページ
https://www.kiwamizen.jp/
【そもそも極味膳とは】
福井県坂井市の飲食店が連携し、海鮮、和牛、そばなど地元の豊かな食材を使った「膳料理」を統一ブランドとして、各店舗で提供する食の地域活性化プロジェクト。市商工会主催で2011(平成23)年11月から始まり、正式名は「越前坂井 うららの極味膳」。立ち上げ当時、極味膳推進委員長として旗振り役だった岩田龍見さん(70)=写真右=は「当初は約50店で始まった事業も、現在は25店舗と半減。ただ、飲食業界が大打撃を受けたコロナ禍を経ても、今も店側はスクラム組んでお客さまに提供し続けている。坂井市は海、里、山それに平野とそれぞれに豊かな自然で育まれた食材があり、ひとつのエリアでこんな多彩な食に恵まれた土地はそうない。新幹線が福井に来た今、食の恵みを旅行客にも味わってほしい」とエールを送る。
参考情報
坂井市には、他にも福井県が誇る観光地や食が多数あります。その一部を下記にてご紹介いたします。
<自然>
越前加賀海岸国定公園に含まれる越前松島などの美しい海岸線、九頭竜川や竹田川、市東部の森林地域、福井県一の米どころを支える広大な田園など、豊かで美しい「海・山・川」の自然に恵まれています。
東尋坊
断崖に日本海の荒波が打ち寄せる景色で知られる国の天然記念物・名勝東尋坊。約1キロメートルにわたり豪快な岩壁が広がっています。このような輝石安山岩の柱状節理が広範囲にあるのは、世界に3ヵ所ともいわれ、地質学的にも大変貴重な場所です。初夏のまばゆいばかりに広がる青い空と日本海、秋の頃の日本海に太陽が沈み行く夕景、雪が舞う頃の荒々しい波と吹きつける寒風。どれも東尋坊と日本海の大自然が見せてくれる、四季折々の素晴らしい風景です。
越前松島
東尋坊と同じ柱状節理の岩が織り成す景観の中、一風変わった岩が点在するほか、散策路を辿ると小島に渡ることができたり洞穴を覗くこともできます。越前松島水族館や宿泊施設が隣接し、家族連れや遠足でにぎわう観光地となっています。
<観光地>
日本屈指の景勝地である東尋坊、三国サンセットビーチを中心とする海岸、北前船交易で栄えた三国湊、現存12天守の丸岡城をはじめとする歴史資源があります。
三國湊
三國湊は、福井県一の大河「九頭竜川」の河口に位置します。千年以上昔の文献にも「三国」という地名の記述があるほど昔から栄え、歴史がある町です。北前船が残していった歴史・文化はもちろんのこと、格子戸が連なる町家、豪商の面影が残る歴史的建造物など、情緒ある町並みが残ります。
丸岡城
丸岡城は別名霞ヶ城とも呼ばれ、平野の独立丘陵を利用してつくられた平山城です。春の満開の桜の中に浮かぶ姿は幻想的で、ひときわ美しいものとなっています。戦国時代の天正4年(1576年)一向一揆の備えとして、織田信長の命を受けて柴田勝家の甥・勝豊が築きました。標高27mの独立丘陵を本丸として天守を築き、その周囲に二の丸と内堀、その外側に三の丸と外堀を巡らせていました。
丸岡城天守は、江戸時代以前に建てられ当時の姿で現在まで残っている現存12天守の1つです。昭和23年の福井地震により石垣もろとも完全に倒壊しましたが、天守の材料や石垣などの主要部材の多くを再利用して昭和30年に修復修理されました。
現存12天守の中で、完全に倒壊した状況から修復された天守は唯一丸岡城天守のみです。現在立ち続けている古式の風格のある姿は、消滅の危機という困難な道のりを経ても立ち上がり復興してきた証であり、その歴史は他にはない波乱の運命を歩んだものです。
雄島
その自然は未だかつて人の手が加えられていない神の島。
伝説のある島全体は自然豊かな散策路としても親しまれています。島の奥には大湊神社がたたずみ、毎年4月20日は地区住民による大湊神社の例祭が行われます。
<食>
福井県における冬の味覚の代表である「越前がに」をはじめとする水産物、そば、らっきょうなどの農産物、山菜、油揚げ、若狭牛など、食を活かした観光が魅力です。
越前がに
毎年皇室へ献上される事でも有名な三国町の「越前がに」は、身は殻の中によく詰まっていて、甘く繊維が締まっており、数に限りがあるため、特に珍重されています。
甘えび
甘えびは、越前がにと並んで人気の高い日本海の珍味。三国漁港にも透き通るような紅色をした、たくさんの新鮮な甘えびが並んでいます。
丸岡産おろしそば
坂井市は県内1・2を誇るそばの産地で、特に丸岡産のそば粉で作ったおろしそばは香り高く、風味が強い飽きない仕上がりとなっています。
<文化・伝統>
ファッションなどのブランドネームや品質表示などの織ネーム、国内第1位のシェアを占めるマジックテープなど伝統的な技術産業が盛んです。
越前織:ネームタグ
丸岡は織物の一大産地で、ワッペンやスポーツ用ネームとして用いられる「織ネーム」は需要が高まっており、また、コンピュータで図柄処理し織物として描画する「越前織」も観光の土産等向けに作っています。主要製品は洋服に施すネームタグで、国内シェア7割を誇ります。
一筆啓上 日本一短い手紙の館
丸岡町ゆかりの徳川家康の忠臣本多作左衛門重次が陣中から妻に宛てた短い手紙「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」(「お仙」とは後の越前丸岡城主 本多成重(幼名 仙千代))の碑が丸岡城にあります。この碑をヒントに日本で一番短い手紙文を再現し、手紙文化の復権を目指そうということで、平成5年から毎年テーマを定めて「一筆啓上賞」として作品を募集し、平成15年から「新一筆啓上賞」として、日本全国、海外から応募が寄せられています。