当職は、原告となる人物(90歳を超える女性)の成年後見人弁護士である。
女性は、月額7万円程度の収入しかないものの、以前は、茨木市の特別養護老人ホームに入所しており、その頃は、収支も安定し、公的給付を必要とすることもなく、過ごしていた。
しかし、昨年の年明け以降、結石等を患って以後、発熱症状が常時見られるようになり、高槻市の病院に療養入院することとなった。
当時、女性は、月額7万円程度の低収入であることから、後期高齢者医療において、限度額適用・標準負担額減額認定該当(区分Ⅱ)を受けていたものの、療養入院では、入院費に加え、オムツ及び療養セットリースを頼まなければならないことから、7万円程度の収入に対し、支出が12万円程度見込まれ、女性の収支は4~5万円の赤字であった。
女性の預貯金から、このままの赤字では、1年入院することもままならない経済状況ではあった。とはいえ、預貯金が10万円を下回った段階で(生活保護の運用上、10万円以上の預貯金がある場合、申請が却下となり、受け付けられないケースが多い)、高槻市に生活保護受給申請を行い、そうすれば、医療費は医療扶助で、オムツ及び療養セットリースに関しても、病院が生活保護受給者基準の料金に抑えることから、女性が終末まで入院することは可能であった。
なお、病院は、生活保護受給者には、最低生活費に合わせて、オムツ及び療養セットリースなどの費用を減じることはままあり、反対に、生活保護受給者でなければ、利用者間の画一性の観点から、生活保護受給者基準の料金を適用しない、ということはやむを得ない措置といえる。
当職は、今年になって、女性の預貯金が10万円を下回ることになったため、高槻市に対し、生活保護申請を試みたところ、高槻市職員によると、後期高齢者医療において、限度額適用・標準負担額減額認定該当(低所得(境))となれば、医療費が削減され、女性の生活保護申請を認容せずとも、生活可能ということであった。当職による1回目の生活保護申請は、却下となったものの、限度額適用・標準負担額減額認定該当(低所得(境))の認定を受けたため、高槻市職員のいうように、女性の収支が安定するか、注視することとした。
しかし、たしかに、医療費は限度額適用・標準負担額減額認定該当(低所得(境))となったため、削減され、女性の支出はいくばくか改善されたものの、オムツ及び療養セットリースについては、病院による生活保護受給者基準を適用できないため、やはり、女性は月額1万円程度の赤字であった。
女性の預貯金は、1回目の生活保護申請の時点で、10万円を大きく下回っており、当職は、既に受領していた後見報酬を返還し、対応したものの、今年の6月には女性の預貯金は底をつく見込みとなった。
そこで、当職は、令和6年6月4日、高槻市に赴き、1回目の生活保護申請時の説明と異なり、限度額適用・標準負担額減額認定該当(低所得(境))となっても女性の赤字は改善されず、生活保護を受給するほかない、として生活保護申請を試みた。しかし、高槻市職員の説明によれば、オムツ及び療養セットリースが最低生活費を超えており、支出削減の余地があるため、生活保護は却下されるとのことであった。
当職は、生活保護受給者となれば、病院は生活保護受給者基準のオムツ及び療養セットリースとなるため、問題ないし、反対に生活保護が受給できなければ、オムツ及び療養セットリースは生活保護受給者基準にならず、現在の赤字が継続し、女性は生活ができない、と主張し、病院の相談員も同様の説明を行ったものの、高槻市職員の説明は変わらず、令和6年6月17日、2回目の生活保護申請は却下となった。却下の表向きの理由は、「他法の適用により最低生活が維持可能なため」と、後期高齢者医療において、限度額適用・標準負担額減額認定該当(低所得(境))の認定を受けることを指しているものと思われるが、同認定を受けても、女性は、最低生活が維持できなかったのであり、理由はあくまで、オムツ及び療養セットリースの金額が最低生活費を超えていることにある。
当職は、2回目の生活保護申請は却下後、高槻市職員に対し、生活保護が受給できないため、オムツ及び療養セットリースが生活保護受給者基準にならず、オムツ及び療養セットリースが生活保護受給者基準でないため、生活保護が受給できない、というのであれば、女性が生きる目処はない、と抗議したものの、高槻市職員は、「病院と交渉する問題」として、全く取り合わなかった。
当職は、やむを得ず、大阪府に対し、2回目の生活保護申請却下について、審査請求を申し立てたところ(生活保護法69条は、審査請求を前置しないと取消訴訟ができないとしている)、さらに驚くべき回答があった。というのも、大阪府職員によると、審査請求を受けて、高槻市に弁明の手続を求めても、高槻市は、弁明書の提出を懈怠することから、審査請求の結果がでるまで2年程度必要、とのことだったのである。
そもそも、生活保護法65条1項は、審査請求した日から50日以内に裁決をすべきとされている。この趣旨は、生活保護が国民の最低限度の生活、すなわち、生命身体に関わるものであることから、行政庁に迅速な不服判断を求めたところにある。しかし、その罰則は、生活保護法65条2条において、50日を経過すると、審査請求が棄却したものとみなすことができる、すなわち、厚生労働大臣に再審査請求、又は、裁判所に取消訴訟が可能となる、という効果が得られるに過ぎない。
高槻市、ひいては大阪府は、迅速な不服判断を求めた生活保護法を逆手に取り、審査請求した日から50日間、再審査請求や取消訴訟することまで阻害し、生活困窮状態である生活保護申請者(生活保護申請者は、申請時点で預貯金が10万円を下回っている)に対し、事実上、不服申立を無意味にする運用をしており、不当卑劣であるといえ、もはや50日間訴訟提起を控えることすら無意味である。
そもそも、生活保護法は、憲法25条において、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、との精神を受け、1条において、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的に置いている。すなわち、生活困窮者に対するセーフティーネットは最終的に行政が担うもの、としているのであり、それを放棄することは、生活保護法、ひいては憲法に反することとなる。
女性は、生活保護が受給できないため、オムツ及び療養セットリースが生活保護受給者基準にならず、オムツ及び療養セットリースが生活保護受給者基準でないため、生活保護が受給できない、という摩訶不思議な理由で、高槻市より生活保護申請を却下され、高槻市職員によると、病院と交渉すべき問題としている。しかし、このような高槻市の対応は、生活困窮者に対する最終的なセーフティーネットを民間に押しつけることであり、行政の責務を放棄しているに他ならない。
女性は、いかなる制度を用いても、生活保護を受給するのでなければ、最低限度の生活を受けられないのであり、高槻市がそれを拒否するのであれば、女性は、高槻市によって、最低限度の生活を受ける価値がない、と認定されたものともいえる。
近年、自己責任、という言葉がもてはやされ、老後は3000万円必要、などと、老後の生活が困窮することは、その者の自己責任、とする論調も見られる。しかし、本来、生活困窮者に対し、セーフティーネットを構築するのは、行政の責務であり、それを放棄することは許されない。
当職は、成人するまで高槻市で生活し、高槻市は、名実ともに故郷である。その故郷が生活困窮者に過酷な決定をし、人権を軽視する態度を見せるのであれば、故郷を正さねばならない、そのように考え、高槻市を相手に保護申請却下処分の取消訴訟を提起し、司法にその判断を委ねることとしたのである。