■ 本研究成果のポイント
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AI(人工知能)技術を用いた脳容積解析ソフトウェアを開発(最大107区域の抽出が可能)
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本AI解析技術の信頼性(精度、再現性)を証明
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MRIを用いた容積解析の汎用化による健康維持への今後の活用が期待される
■ 背景
脳の萎縮は、さまざまな脳疾患で生じることが知られており、その代表的なものにアルツハイマー型認知症があり、特定の部位の萎縮がみられることがわかっています。認知症の診断においてMRI撮影を行うケースが増えていますが、現在用いられている脳容積解析技術では、プログラミングに関する知識が必要であり、解析するために特別なソフトウェアを購入する必要もあります。これらの問題を解決した汎用的なソフトウェアの開発も進んでいますが、解析可能な脳区域が限定的なことや、解析時間の問題が残っており、日常診療や医学研究の観点から、脳形態の多様な変化をより簡便に解析できる技術が望まれています。本研究では、AIを用いることで簡便・短時間に脳容積解析を可能とすることを目指しました。
■ 内容
本研究では、脳のMRI画像から、脳を107区域に領域分けしたアトラス(*1)を作成しました。このアトラスは、Github(*2)上にアトラス名”JTD-Boggle-107”として公開しており、自由に研究開発に利用できます。このアトラスを基に、脳を107区域に細分化して各領域の容積を算出できるAI技術を開発しました。また、その信頼性について、11人の健常人を3種類のMRI装置で2回ずつ撮影し、精度(同一の脳を同じ撮影装置で測定したときの測定値のバラつき具合)と再現性(同一の脳を異なる撮影装置で測定したときの測定値のバラつき具合)を従来法(例えば、Statistical Parametric MappingやFreeSurfer)と比較して評価しました。その結果、従来法よりも、精度・再現性が優れていることが証明されました。さらに、本手法は従来法に比較し、測定結果を得るまでのコスト(時間的、人的)を大幅に削減しており、「MRIを用いた脳容積解析」が簡便に実施できるようになることが期待できます。
■ 今後の展開
認知機能低下に関連した疾患の治療効果判定や、脳年齢評価による予防医学への応用研究などを通じて、本技術の有用性を検証しながら、健康維持に貢献する情報提供環境の構築を推進していきます。
図1:本研究で開発した解析法における解析結果の画面
解析に使用した個人のMRI画像上に、各区域をカラー表示で重ねた画像を画面左側に表示している。また、各区域の解析結果(容積値)を画面右側に表示しており、左画面のカラー表示を症例に応じて見やすく編集することも可能としている。
■ 用語解説
*1 アトラス:人体脳アトラス。脳の3Dマップ。解剖学的および臨床機能的な領域に分けて名称を付与したもの。
*2 Github(ギットハブ):世界中の人々が、人工知能などに関するプログラムコードなどを保存・公開できるプラットフォーム(
https://github.com/
)です。
■ 研究者のコメント
人の脳は、脳の領域ごとに役目(機能)があるとされており、その領域の大きさ(容積)と機能レベルには強い関連があるとされています。つまり、脳の容積を詳細に解析することで、その人の能力をある程度推察できる可能性があるということです。この脳容積解析に必要な画像データ(主にMRI)は世の中に多く存在していますが、これまで解析に用いられた画像は限られています。我々が開発したAI技術により、多くの画像を解析することで、疾患の鑑別や予防医学における新たな知見を生み出すことが可能になると期待しています。
■ 原著論文
本研究はMagnetic Resonance in Medical Sciences誌のオンライン版に2024年7月2日付で公開されました。
タイトル: Deep Learning-based Hierarchical Brain Segmentation with Preliminary Analysis of the Repeatability and Reproducibility.
タイトル(日本語訳): 深層学習を用いた階層的な脳分画における精度と再現性
著者: Masami Goto, Koji Kamagata, Christina Andica, Kaito Takabayashi, Wataru Uchida, Tsubasa Goto, Takuya Yuzawa, Yoshiro Kitamura, Taku Hatano, Nobutaka Hattori, Shigeki Aoki, Hajime Sakamoto, Yasuaki Sakano, Shinsuke Kyogoku, Hiroyuki Daida1, and the Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative*
著者(日本語表記): 後藤政実1), 鎌形康司2), クリスティーナアンディカ2), 高林 海斗2), 内田航2), 後藤翼3), 湯澤拓矢3), 北村喜郎3), 波田野琢4), 服部信孝4), 青木茂樹 2), 坂本肇1), 坂野康昌1), 京極伸介1), 代田浩之1), the Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative*
著者所属: 1)順天堂大学保健医療学部診療放射線学科、2)順天堂大学放射線診断学講座、3) 順天堂大学脳神経内科、3) 富士フイルム株式会社メディカルシステム開発センター
DOI: 10.2463/mrms.mp.2023-0124
本研究は、①磁気共鳴画像(MRI)に対する脳区域解析プログラムを用いたセグメンテーション精度の向上、②磁気共鳴画像(MRI)に対する脳区域解析プログラムを用いたセグメンテーション再現性の検証に関する富士フイルム共同研究費の支援を受け実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。