『レクイエス・エテルナ 永遠のやすらぎ』(蘭野みゆう・著)
ある日、主人公の「私」と妹のタミーはかねてから安楽死を希望していた両親から、さまざまな手続きを済ませて、あとは医師による処方箋を待つばかりとなったことを知らされる。姉妹は前々からその心境を聞かされていたので、「私」はある程度の理解をもっていたが、妹は「親に安楽死なんかされる側の気持ちにもなってごらんなさい」と泣いて怒り、断固認めようとしない。両親もそれぞれに葛藤していたが、父は膵臓癌がわかってから、いよいよ強く安楽死を望むようになった。生前葬のようなパーティーの場で、父の親友である喫茶店マスターの子門さんと母の友人の編集者田村さん、タミーの夫も加わって、安楽死に対するそれぞれの考えや思いが忌憚なく披露される。「私」は安楽死法制化によって、個人の自由意思に基づき本人が十分に納得した上で自らの人生に自ら幕を引く権利を持てるようになったことは肯定的に考えている。しかし、当初は厳格だった安楽死の条件が次第に緩くなっていき、さまざまな思惑により安楽死が促進される方向に向かうのではないかという不安を抱く。とにもかくにも、雪の舞う日曜日、野上家は「その日」を迎えた。終活世代の方々を含む、すべての世代に読んでほしい一編。
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この本にこめた想い・伝えたいこと
この作品では近未来の日本においてついに安楽死が合法化されたという設定で、野上家の家族とその友人たちが、安楽死をめぐってそれぞれの意見を忌憚なく語り合い、それぞれの立場で葛藤する様子を描いた。前述のように、安楽死はあくまで個人の意思が尊重される権利と考えられる一方で、生産性がないとみなされる人々の命を合法的に奪う行為となってしまうのではないかという危惧もあり、一筋縄ではいかない難題である。後者の危惧は安楽死先進国ではすでに現実に起こっているという。この作品を構想執筆した23年前は世の中で安楽死への関心はほとんどなかったが、一昨年「PLAN75」という映画が上映されたこともあって、日本でも安楽死についての関心が高まって来ていると思われる。テーマは安楽死に賛成か反対か、どちらが近未来のあるべき姿かということだけではない。多くの場合タブー視されてきた死を自らや家族に必ず訪れる現実として受け止め、著者自身も含め改めて人生の終わり方について考えるための問題提起として執筆した。
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ほか収録作品について
5編の作品のうち「レクイエス・エテルナ 永遠のやすらぎ」と「するめちゃん」は23年前に執筆した作品。前者については最近の情報を踏まえて部分的に加筆。他の3編は14年~9年前に執筆の作品。
「疲れた首にミミズを飼う」
どうやって首にミミズを飼うというのだろう?前半の突飛な伏線をすべて回収し、結末でぴたりと着地する。
あらすじ
仕事と育児を一人で担う鈴村織絵は、新しい就職先として「山岸疲労学研究所」に採用される。この会社は雇い主夫妻といい、業務内容や作業マニュアルといい、かなり奇妙で怪しい職場である。戸惑いながらも生活費のためにデータ入力の仕事をこなす。さまざまな文書をパソコンに入力するうち、織絵の疲労についての考え方が変わっていく。うつ病で仕事を辞め2年間別居している夫に対する非難と軽蔑の気持ちも変容していく。
読者ターゲット
30~40代の女性。とくにワンオペ育児中のお母さん。
「するめちゃん」
引きこもりの妹よ、おまえはするめだ!
あらすじ
すでにこの世の者ではない兄が、引きこもりの妹に懇ろにひたすら語りかけるモノローグ掌編。
どこにも拠りどころの見つからない若き日、自分のことなど理解してくれる人はいないと思い込む時がある。そんな日々にも秘かに次元を超えてでも、あなたのことを慈しみ見守っている誰かがいるかもしれない。
読者ターゲット
青少年、弱年層
「僕の恋人は薔薇の香りのおならをする」
恋はおならさえ味方につける
あらすじ
大学2年の工藤浩貴は高校の頃から現実が芝居に見えて白けてしまうという精神状態に悩んでいた。コンビニのバイトで出会った森田波瑠音という一風変わった女性と知り合い、ある日、彼女の家に招かれる。そこで波瑠音の母から「放屁学概論」の試験を受けさせられるはめになる。波瑠音はおならを連発するというユニークな個性をもち、ひとたび発作が起こるとわけのわからない言葉を口走る。浩貴は波瑠音の家に出入りするこみさんという凄みのある老人から言いたい放題言われながらも、今までかかわったことのない人たちとの交流の中で自分自身と折り合いをつけていく。
読者ターゲット
オール世代
「袖は片敷く」
独り暮らし老女の日常は非日常。
あらすじ
大槻逸子は夫を亡くしてから身寄りのない独り暮らし。高齢のため足腰も弱り、認知症も進んでいる。ゴミ出し以外はどこにも行かず蟄居の日々。たまに町内会会長の八木沢や生協のお兄さん、近所に住んでいる小学生のひろむが訪ねて来る。ある時、国際ボランティア協会のムラセという女性から電話が入り、怪しいボランティア活動を勧められるが、即断る。ところが、どういうわけかそのムラセが家まで押しかけてきて、小難しい講義を始める。ムラセが逸子のことを何もかも詳細に知っていることが逸子には不思議極まりない。ムラセの正体が判明した時、逸子の日常は一気にひっくり返り、新たな局面が開ける。
読者ターゲット
熟年層
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著者プロフィール
蘭野みゆう(らんのみゆう)
1955年、群馬県生まれ。2011年から秋田市在住。
埼玉大学大学院修士課程修了。
重度の不眠症による失職をきっかけに四十代半ばからブログや小説を書き始める。
著書
・「不眠の森をさまよって 体験的不眠症克服記」(筆名 村野ゆう 健友館 絶版)
・「オムニス 太古の海の賢者たち」(文芸社)
・「耳の恍惚 あるいは、感覚のメタモルフォ-ゼ」(日本文学館)
・「トンガの瞳 だんご虫と泣き虫の地球」(萌芽舎)
ブログ「びんぼっくりのアンテナ」
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書籍情報
書籍:レクイエス・エテルナ 永遠のやすらぎ
著者:蘭野みゆう
出版社:パレード
発売日:2024年7月17日
ISBN:978-4-434-34110-6
仕様:四六判/並製/288ページ
価格:1,400円+税
Paradebooks:
https://books.parade.co.jp/category/genre01/978-4-434-34110-6.html
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設立:1987年10月20日
資本金:4000万円
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