台北駐日経済文化代表処台湾文化センターと東京外国語大学TUFS Cinemaとの連携企画「台湾文化センター 台湾映画上映会2024」映画『少年と少女』上映会トークイベントが、7月21日(日)に東京外国語大学アゴラ・グローバル プロメテウス・ホールにて開催された。
14歳の少年と少女が、寂れた海辺の町を捨てるために大人たちの醜い世界に足を踏み入れてしまう、痛ましい青春を描いた『少年と少女』(原題:少男少女)は、台湾のアカデミー賞といわれる金馬奨や釜山国際映画祭を席捲した注目作だ。上映後に、シュウ・リーダ監督と、台湾映画史研究の三澤真美恵さんが会場に登壇してトークイベントが開催された。
14歳の少年と少女。
デビュー作で映画祭を席捲した、台湾の新鋭が描く“希望のない場所”にこめた思い─
35℃を超える暑さの中、東京外国語大学アゴラ・グローバル プロメテウス・ホールはほぼ満席となり、壇上にシュウ・リーダ監督と三澤真美恵さんが登壇した。シュウ監督は「こんなに暑い中、『少年と少女』の日本初上映に足をお運びくださりありがとうございます。日本の皆さまと交流することができて、とてもうれしいです。」と挨拶をした。「シュウ監督はいま最も期待される台湾の監督のひとり。『少年と少女』は題材の重さと、鉛色の空と海と街の凄惨な美しさが、深く胸に突き刺さりました。トリュフォーの『大人はわかってくれない』を想起させた」と、三澤さんが感想を述べた。
シュウ監督はドキュメンタリー映画を製作している時に、取材対象者から「この町には希望がない。この状況こそを映画にしてほしい」と言われたのがきっかけで、本作の企画を立ち上げたという。台湾の地域間格差、単身家庭、DV、警官の汚職、貧困、薬物など深刻な問題が描かれた本作だが、「あえて主人公や舞台となる町に名前を付けないことで、普遍的な物語、どこにでもあてはまる、どの少年と少女にもあてはまるということを示唆」したという。
台湾で公開された際に「こういう台湾映画は観たことがない。ノスタルジーを喚起させる作品が多い中、『少年と少女』は美しい台湾の風景が描かれていない」という声もあったという。三澤さんは、「台湾ニューシネマ以降、最近もノスタルジーを感じさせる映画は台湾でもヒットする傾向があります。そういう中で、『少年と少女』はあえてノスタルジックな部分を描いていないのが印象的」であったとその衝撃を語った。
金馬奨、釜山映画祭など、世界の映画祭を席捲した本作で、最も注目されたのは主人公の14歳の少年と少女だ。少年役のトラヴィス・フーは金馬奨、少女役のクアン・チンは台北電影奨の新人俳優賞にノミネートされ、演技未経験だったがデビュー作で一気に注目される俳優となった。「主演のふたりについては、はじめから演技未経験の14歳という点にこだわりました。高校生になると大人に近くなってしまいますが、中学生特有の青春の機微を表現するには、14歳というのが必須条件だった。結果素晴らしい演技を見せてくれた」が、「実は彼らは仲良くなるかと思ったら、撮影中はよく喧嘩をしていました(笑)」と、14歳の少年と少女の素顔について語り、会場は微笑ましい空気に包まれた。
会場から「センシティブなシーンが多くある作品で、演技未経験の14歳が演じること」について問われると、「センシティブなシーンを撮る際は、大変気を遣いました。台湾ではこうしたシーンがある時は、インティマシー・コーディネーターが入るようになっています。本作でもインティマシー・コーディネーターが入り、全てのシーンについて俳優本人、そして未成年者なので家族にも同意を得るようにしました。何度もリハーサルをして確認を重ねて、撮影に挑みました」と、インティマシー・コーディネーターの重要性と、俳優とその家族と話し合いを重ね、納得した上で作品を作りあげていった過程についてシュウ監督が語った。
ラストシーンで少年と少女の結末ははっきりと描かれていない。「少年は海に向かっていくが、どこに行こうとしていたのか、死に向かっていたのか、ドラッグに溺れた少年の悲しい末路なのか、未来を切り開きたいという意思を示しているのか」そして「少女はどうなったのか」との質問に、「いろいろな国で上映されましたが、少年と少女の結末についての質問は一番多いのです」とシュウ監督。「少年のラストシーンについては、ひとつの旅立ちでもあり、ひとつの死でもあるかもしれません。少年は最後に少女に「(ふたりで稼いだ金が入った)箱をわすれるな」と言いました。その箱(金)を少女に渡す選択をしたということは、それを基に、少女には新しい生活を切り開いてほしいと願ったのかもしれません。しかし少女の最後はどうなったのかは、描かれていません。ラストシーンで少年と少女の決断については、暗示することで終わらせたかった。」と、ラストシーンは観客に委ねられたことが明かされた。
最後に三澤さんが、「日本における台湾の印象は「親日」という以外に、アジアで初めて同性婚を合法化し、ジェンダー平等、民主主義指数でアジア第1位。いわば、キラキラとしたまばゆい人権立国という印象だが、この映画は、それとは真逆の印象を与えています。台湾社会の凄惨な一面についても描くことができる、それについて論じることができる。これこそ、真の意味で「キラキラした台湾」を支えている「表現の自由」だと思います。その意味で、「台湾映画上映会2024」は、より深い民主主義と多元主義を提示する作品群になっていると思います。『少年と少女』また、大変重い内容ですが、それをきわめて映画的な美しさで提示することで、現代台湾の問題を可視化すると同時に、その問題の普遍性に気づかせてくれます。」と本作の魅力を述べ、「映画の魅力というのは、ひとりで観るだけではなく、こうして意見を話合う、監督の話を聞くことで、2倍、3倍に膨らんでいく。キラキラした映画だけではなく、社会批判を描くこともできる、台湾社会の包容力、「表現の自由」が台湾映画の魅力になっている。そして台湾の映画を通じて、台湾の“人”を感じてほしい。」と、台湾社会の包容力と台湾映画の魅力を語った。
シュウ監督も「台湾映画は、多元性、多様性があることが魅力になっていると思います。「台湾映画上映会2024」で上映される7作品だけでも、多岐にわたる作品がラインナップされており、それが証明されていると思います。そして台湾で映画を撮るということは「自由」であると思います。制限を受けることはなく創作ができる。「自由」というものは得難いものであり、それこそが台湾映画の魅力」と、台湾社会の持つ包容力が台湾映画を支えていることが示され、会場からは大きな拍手が起こった。