【本研究のポイント】
●Body mass index(BMI)が高め(25以上30未満)の、健常な成人男女40名を対象にしたヒト試験の結果、
GCL2505株とイヌリンを4週間摂取した群は、プラセボ群と比較して、腸内のビフィズス菌が増え、安静時エネルギー消費量が増加
しました。
●この結果は、GCL2505株とイヌリンの摂取によって腸内のビフィズス菌数が増え、
短鎖脂肪酸が産生されたことによるもの
だと考えられます。
●
安静時エネルギー消費量の向上は、2023年に研究発表している「GCL2505株とイヌリンの摂取による内臓脂肪・体脂肪の低減※2」のメカニズムの一部である
ことが示唆されました。
●今回の結果から、
GCL2505株とイヌリンを継続的に摂取することで、日常生活の中で消費するエネルギー量が向上し、内臓脂肪の蓄積からなる肥満や、それによって引き起こされる代謝性疾患を予防できる可能性
が示唆されました。
【内容】
■論文タイトル・著者名
Effect of intake of bifidobacteria and dietary fiber on resting energy expenditure: A randomized, placebo-controlled, double-blind, parallel-group comparison study.
Yuhei Baba, Naoki Azuma, Yasuo Saito, Kazuma Takahashi, Risa Matsui, and Tsuyoshi Takara
Nutrients
2024, 16(14), 2345;
https://doi.org/10.3390/nu16142345
■研究背景
肥満は、心血管疾患や糖尿病、一部のがんなどの発症と強く関連しているとされており※3、日本をはじめ多くの国における社会課題となっています。また、日本では20歳以上の男性の33.0%、女性の22.3%が肥満(BMI≧25 kg/m2)とされています※4。
肥満の根本的な原因は、摂取エネルギーと消費エネルギーの不均衡です。人が一日に消費するエネルギー量は、安静時エネルギー消費が約60%、身体活動による消費が約30%、食事誘発性熱産生による消費が約10%で構成されています※5。また、食事誘発性熱産生量は、摂取したエネルギーなどによって変化するため、食事誘発性熱産生で消費されるエネルギーを食事によってコントロールし、肥満を予防することは難しいと言われています。さらに、BMIが高めの方は、そうではない方よりも座って安静にしている時間が長く、立って活動する時間は150分ほど短いと報告されています※6。
これらのことから、肥満を予防する手段の一つとして、基礎代謝量(安静時エネルギー消費量)のコントロールが注目されています。
~基礎代謝量に対するGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性~
当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株は健康な成人から分離されたプロバイオティクス株で、これまでの研究により、イヌリンとともに摂取することで、GCL2505株単独の摂取よりも腸内のビフィズス菌を増やすこと※7、体脂肪を減少させること※2が明らかになっています。また、GCL2505株はヒトの腸内にいる一般的なビフィズス菌と比べて短鎖脂肪酸を多く産生することも明らかになっています※1。
そして今回、短鎖脂肪酸とエネルギー代謝の関連性について、さまざまな研究が進む中、当社はGCL2505株とイヌリンによる安静時エネルギー消費量への影響を確認する研究に着手しました。
■試験概要と結果
・BMIが高め(25以上30未満)の健常な成人男女40名を対象に、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行いました。
・その結果、1日あたり100億個のGCL2505株と5gのイヌリンを 4週間摂取した群(GCL2505株+イヌリン摂取群)は、プラセボ群と比較して、間接熱量計で測定した安静時エネルギー消費量が有意に増加しました。4週目における群間差は84.4 kcal/日でした。また、GCL2505株+イヌリン摂取群の糞便中の総ビフィズス菌数は、プラセボ群と比較して有意に高い値を示しました。
図1. 安静時エネルギー消費量の測定結果
0週目は平均値とその標準誤差、2週目、4週目は推定周辺平均の値とその標準誤差より作図
*:群間で有意な差が認められた(p < 0.05)
■考察
健康寿命の延伸には、メタボリックドミノの出発点である肥満を予防することが重要と考えられています。今回の結果によって、GCL2505株とイヌリンの継続的な摂取による安静時エネルギー消費量の向上が、以前に報告した内臓脂肪・体脂肪の減少※2のメカニズムの一つであることが示唆されました。つまり、日常的にGCL2505株とイヌリンを摂取することで、基礎代謝量が増え、内臓脂肪・体脂肪が減少し、結果として肥満を予防できる可能性があります。「タンサ脂肪酸プロジェクト」では、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探り、当社のパーパスである「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に努めてまいります。
【参考情報】
■短鎖脂肪酸とは
短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌などの腸内細菌が水溶性食物繊維やオリゴ糖などをエサにして作る腸内細菌代謝物質です。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがその代表です。近年の研究で、体脂肪の低減、基礎代謝の向上などの抗肥満作用をはじめ、免疫やストレス、認知機能への作用など、様々な機能を持つことが明らかになっています。
■基礎代謝量とは
基礎代謝量とは、体温の維持や心臓を動かすなど、生命の維持に最低限必要なエネルギーの総量です。空腹時に快適な環境下において安静にした覚醒状態で、仰向けの姿勢で測定されます。基礎代謝量は安静時エネルギー消費量と相関していることが知られています。
■江崎グリコの「タンサ脂肪酸プロジェクト」について
当社は、人々の健康寿命を延伸することをひとつの使命と考え、腸の健康と腸内細菌の研究に注力しています。近年、腸と密接に結びついた様々な疾病が人々の健康課題となる中、ビフィズス菌と短鎖脂肪酸の研究と啓発活動によって、健康寿命の延伸に寄与したいと考え、2022年6月に「タンサ脂肪酸プロジェクト」を立ち上げました。生活者の方々への短鎖脂肪酸に関する分かりやすい情報の発信と、当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株のヒトへの作用に関する臨床研究等を進めております。
タンサ(短鎖)脂肪酸プロジェクトサイト:
https://cp.glico.com/tansa/
※1 Aoki
et al. Sci. Rep.
2017, 7, 43522.
※2 Baba
et al. Nutrients
. 2023, 15, 5025.
※3 World Health Organization. Obesity and overweight. (1 March 2024)
※4 厚生労働省、「令和元年国民健康・栄養調査報告」(令和2年12月)
※5 Müller
et al. Eur. J. Clin. Nutr.
2017, 71, 358–364.
※6 Ravussin E.
Science.
2005, 307, 530-531.
※7 Anzawa
et al.
Food Sci Nutr.
2019, 7, 1828-1837.