株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、植林用苗木の安定供給を目的に、人工光と自然光の育成環境を組み合わせた「ハイブリッド型苗木生産システム」を開発し、2024年6月より鳥取県日野郡日南町にパイロットプラントを設置、主に周辺地域の林業事業者向けにカラマツの苗木生産を開始しました。
1. 開発の背景
当社は、木造木質化建築における川上から川下までのサプライチェーン全体を持続可能で最適なものとする自然共生の循環型モデルCircular Timber Construction®を掲げ、木造木質化建築をはじめとした木材の利用推進と、森林資源の持続的な循環利用に取り組んでいます。
循環利用において川上にあたる「植林・育林」において、植林用苗木の生産は、自然光による育成(露地栽培)が主流ですが、出荷までに最長2年程度を要し、季節や天候などが成長速度に影響を与えることから、安定供給が難しいことが課題でした。当社は苗木を安定的かつ効率的に育成するため、2023年に
人工光苗木育成技術を開発
し、2024年2月より
当技術で育成した苗木の植林を開始
しました。
今般、当技術と自然光の育成環境を組み合わせることで、コスト効率と生産性をさらに高めた「ハイブリッド型苗木生産システム」を開発し、日南町森林組合および株式会社ウッドカンパニーニチナンの協力のもと、鳥取県日野郡日南町の日南町樹木育苗センター内の当社パイロットプラントにおいてカラマツの苗木生産を開始しました。
2. ハイブリッド型の苗木生産システムの特長
(1)人工光と自然光による育成環境を組み合わせた生産方法を確立
ハイブリッド型苗木生産システムは、季節や出荷時期に応じて、育成に必要な光、温度・湿度、培地への潅水などの育成環境を制御できる人工光による育成期間と、自然光による育成期間を最適に組み合わせ運用します。
例えば、外的環境の影響を受けやすい種蒔きから2ヵ月間の幼苗期に限定して人工光育成を行い、その後、露地栽培による自然光育成に切り換える場合、種蒔きから植林までの全過程で人工光育成するより、コストを約6分の1に抑えて育成することが可能です。
また、自然光環境下では成長速度が停滞する冬季に人工光で育成することで、出荷までの期間を最長2年から最短6ヵ月に短縮できます。季節や植林計画に応じて柔軟に育成を継続できるため、従来の自然光による育成と比較して安定した苗木育成が可能です。
(2)パイロットプラントにおける運用効果
当社パイロットプラントでは、本生産システムで苗木2,400本を年6回育成することが可能で、年間供給本数は約1万本を予定しています。この苗木1万本を植林し、適切に育林した場合、50年後には約1,000m3の木材供給と、約1,120tのCO2吸収・蓄積効果が見込めます(※1)。本生産システムによる良質な苗木の安定供給は、国、鳥取県および日南町が取り組む皆伐再造林(※2)を進め、森林を若返らせることによるCO2吸収能力の向上で、カーボンニュートラルを促進します。
また、植林樹種に選定したカラマツは、国内で植林されているスギなどの樹種と比較して、木材強度が優れ(※3)、昨今需要が高まっている大規模木造建築の資材に適しています。さらに、カラマツは花粉中にアレルゲンとなる物質が少ないため、スギなどに比べ花粉症を引き起こしにくく、健康を増進し、ウェルビーイング実現にも貢献できます。
3. 今後の展望
大林組は、本パイロットプラントの運用で得た情報を蓄積・分析し、来期以降の植林用苗木の安定供給に活用するとともに、より効率的なプラント開発や運用に取り組みます。
森林資源の持続的な循環利用の推進に寄与することで、カーボンニュートラルの実現に貢献していきます。
※1 1万本の苗木が成長した場合のCO2吸収効果、木材供給量
1万本の植樹に要する面積は、10,000本÷2,500本/ha=4haと想定し、50年間で成長したカラマ
ツが木材として供給できる量を1haあたり約250m3、CO2吸収量を1haあたり約280tと想定し
た試算結果
参考資料:林野庁森林資源現況調査(令和4年)、森林による二酸化炭素吸収量の算定方法につ
いて(令和3年12月27日 3林政企第60 号)(林野庁長官通知)
※2 皆伐再造林
森林の一定のまとまりを一度に全て伐採し、伐採した跡地に植林を行うこと
※3 カラマツの強度
スギのヤング率80(縦弾性係数)に対し、カラマツのヤング率は105(縦弾性係数)
参考資料:「丸太へのヤング係数表示による国産材利用拡大に向けての一考察」
出典:林野庁Webサイト