「デコ活」とは、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素 (CO₂)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む”デコ”と活動・生活を組み合わせた新しい言葉です。
環境省の「デコ活」紹介サイト:
https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/
当社では、デコ活の一層の主流化に貢献すべく、当社オリジナルのDSナッジモデル:コミュニテイー版を用いて、様々な手法を織り込んだスマートフォン・アプリを独自に開発し、全国や秋田県横手市のモニターに利用いただくなどして、生活全般のCO2排出量(カーボンフットプリント(CFP))の削減行為を自発的に選択していただけるような社会実証(コミュニティ・CFPナッジ)を実施しています。
2024年6月30日(金)には、秋田県横手市役所を往訪し、コミュニティ・CFPナッジなどの進捗状況を報告するとともに、今後の取り組みについてお話しをさせていただきました。また、環境省ナッジ実証実験にご協力いただいている、市民団体や商店の方々に、現場の実態や課題について伺い、今後のナッジ実証事業について一緒にPDCAを廻していく方向性を確認しました。
事業の背景
環境省によれば家庭でのCO2排出量の約2割はガソリン等のマイカーによるもので、その排出量をゼロにすることなしには、日本の2050年ネットゼロ目標は達成できないため、地域脱炭素ロードマップの加速化期間が終了するR8までに一定の目途を付けなければいけません。今年6月に環境省が発出した環境基本計画でも重点項目にあげられています。(以下参照)
環境省によれば国民一人当たりのCO2排出量は一日約5kgで、電力・ガソリンに加えて、水道やごみからも排出しています。また、これに加えて、消費財・サービスの購入・食・レジャーでもそれを上回る量を排出しています。(GHGプロトコルScope3ガイダンスに基づくLCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用いたCFP(カーボンフットプリント)の算定による)。これらを2050年までにネットゼロに持ち込む必要があります。
政府は、環境省が事務局となって2021年に発出した
地域脱炭素ロードマップ(2021.6閣議決定)
において、2025年までの5年間の集中期間に政策を総動員して、ナッジ等の行動インサイトを活用したライフスタイルイノベーション等で脱炭素ドミノを引き起こすことを目標としています。
このロードマップでは、特にライフスタイル全般に関わる脱炭素に向けたポイント・サービスの有効性を示唆しています。
地域脱炭素ロードマップ(2021.6閣議決定)抜粋
② 地域の CO2削減ポイントの普及拡大【環境省】
地方自治体や地域企業等による環境配慮行動に対して地域で利用できるポイントを付与する仕組みは、地域住民に環境配慮行動を促しつつ、地域経済の活性化に寄与する有効な手法であることから、全国にこうした取組を広げるために、以下の施策に取り組む。
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より行動変容を促す効果が高いポイント付与手法や履歴記録の仕組みの実証
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見せかけの環境配慮へのポイント付与を回避し、信頼性を担保するための削減量計算ルールや仕組みの整備
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地域間・企業間でのポイント互換性を確保するための標準化・ネットワーク化等を行うための場やガイドラインの設定
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移動データも含めたバックグラウンド API の整備等の検討
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ふるさと納税等の既存の仕組みとのリンク
③ ナッジを活用した自発的な行動後押しの促進【環境省】
日常生活のあらゆるシーンのエネルギー使用や環境配慮行動の実施状況等を IoT により収集して AI で解析し、一人一人に合った快適でエコなライフスタイルを提案することで、気づきを与えて自分事化してもらうともに、行動履歴に応じて①・②のポイントと連携してインセンティブを付与するなど、自発的な脱炭素行動を後押しする仕組みを実証し、こうした仕組みの普及を促す。
また、今年5月に発表された環境基本計画では、ライフスタイルにおけるCO2排出の多くを占める商品・サービスの購入におけるカーボンフットプリント(CFL)の重要性を謳っています。
環境基本計画:製品ごとの温室効果ガス排出量の「見える化」
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「CFP」は、
温室効果ガス排出量の「見える化」により、消費者が、脱炭素・低炭素の実現に貢献する製品やサービスを選択する上で必要な情報を提供する有効な手法
であり、製品種ごとの CFP 表示に向けた業界共通ルールづくりを後押しするとともに、一定の統一的な基準に基づく認証の枠組みを整備する。 -
また、
ナッジ手法も活用した効果的な CFP 表示のあり方を実証するとともに、「デコ活」による消費者の行動変容を通じて、CFP の普及と、脱炭素の実現に貢献する製品・サービスの選択を推進する
。 -
また、
CO2 削減効果など環境負荷の低減効果を見える化
し、
付加価値に転換する
ことが不可欠であるが、その際、マスバランス方式を活用したグリーン製品の提供も有効な取組と考えられる。ただし、この概念は、CFP と比べ社会的認知度が低く市場での統一的なルールが存在しない等の課題もあることから、今後、普及に向けた検討を行っていく。
ところが、こうした政府の取り組みにも関わらず、生活全般での日常生活の具体的なアクションレベルでのCO2排出の取り組みは、十全にはなされていないと当社は認識しています。とりわけ営利を目的とする民間企業の事業活動とインセンティブが一致しない場合もあり、いかにして企業と市民がWinWinとなるモデルを構築できるかが、本事業の課題であると考えていて、横手市をはじめとする自治体や、企業・団体、市民の皆さまの協力を仰いで、実証を進めていきたいと考えています。
(参考1)コミュニテイー(CFL)ナッジの概要
コミュニテイー(CFL)ナッジは、令和5年度に予備実証を行い、今年度に本格実証を進める予定です。予備実証の結果は、
今年3月22日に環境省より報道発表
されており、その内容を一部転載します。
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環境省では、ナッジ(英語nudge:そっと後押しする)やブースト(英語boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見を活用してライフスタイルの自発的な変革を創出する新たな政策手法を検証するとともに、産学政官民連携・関係府省等連携のオールジャパンの体制による日本版ナッジ・ユニットBEST(Behavioral Sciences Team)の事務局を務めています。
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この度、令和4年度から実施している「ナッジ×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業」で採択された事業者のうち、株式会社サイバー創研及び株式会社電力シェアリングが令和5年度に実施した、カーボンフットプリントの見える化やコミットメント、ポイント等の効果が環境配慮行動の実施数に与える効果に関する予備的な実証実験の結果についてお知らせします。
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予備的な実証実験の結果、環境配慮行動の実施数について、カーボンフットプリントを見える化するのみでは効果が見られなかったのに対し(※)、実施数の目標を宣言させることや金銭的価値のあるポイントを付与することにより実施数が統計的有意に高まることが実証されました。今後、結果を踏まえて介入内容を見直し、複数年度にわたる効果の持続性の検証等の本格的な実証実験を実施する予定です。 ※「見える化」はしばしば用いられる手法ですが、社会実装においては効果のある見える化であるかどうかに留意が必要です。
■予備実証実施期間
令和5年10月
■実証実験参加世帯及び介入内容
調査会社のモニタ2,000人を無作為に以下の5つのグループのいずれか(400人ずつ)に割当てました。
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比較対象としてナッジを提供せず、スマートフォンのアプリで日々の環境配慮行動(脱炭素アクション)を記録し、履歴を表示するグループ(対照群)
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対照群の内容に加え、自身の環境配慮行動に伴うカーボンフットプリントの削減量を見える化するグループ(介入群1)
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介入群1の内容に加え、1日当たりの環境配慮行動の実施数の目標を宣言させ、目標を達成したら金銭価値のないポイントを付与するグループ(介入群2)
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介入群2のポイントを金銭的価値のあるものとするグループ(介入群3)
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介入群3の内容に加え、目標を超えて実施した環境配慮行動に対しても金銭的価値のあるポイントを提供するグループ(介入群4)
■用いたスマートフォンのアプリの概要
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日々の環境配慮行動を記録し、閲覧できる。記録に当たっては、環境配慮行動を実施したことの客観的根拠として、写真をアップロードさせる。AIがアップロードされた写真を画像判定し、どのような環境配慮行動を実践したか、その候補(1つまたは複数)を表示する。(図1)
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実施した環境配慮行動により削減されたCO2排出量を表示する。【カーボンフットプリントの見える化】(図1)
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環境配慮行動の実施数の目標を宣言することができ、目標の達成度合いに応じてポイントを付与する。【コミットメント、少額の金銭的または非金銭的インセンティブ】(図2)
図.スマートフォンのアプリの画面のイメージ
図1:AIの画像判定とCO2排出量の削減量の表示(カーボンフットプリントの見える化)
図2:環境配慮行動の実施数の目標の宣言(コミットメント)
■結果
対照群と介入群1の間の比較においては、カーボンフットプリントの見える化により、環境配慮行動の実施数がわずかに増加する傾向が見られましたが、統計的有意差は検出されませんでした。
一方で、環境配慮行動の実施数についての目標を設定し、その達成状況を表示することで環境配慮行動の実施数が統計的有意に増加することが実証されました。また、環境配慮行動の実施数の目標達成度合いに応じて金銭的価値のあるポイントを付与することにより、さらに効果が統計的有意に高まるとともに、目標を超えて実施した環境配慮行動に対しても金銭的価値のあるポイントを付与することでさらに効果が統計的有意に高まることが実証されました。
■今後について
令和6年度以降においては、令和5年度の予備的な実証実験の結果を踏まえて、実証実験の参加世帯数や介入内容の見直し(とりわけ、どのように見える化することで環境配慮行動が促進されるかについて)を行い、改めて実証実験を実施する予定です。
(参考2)当社の問題意識と解決の方向性(あくまでも当社の見解であり政府公式見解ではないことに留意されたい)
問題意識
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欧米と異なり、分か国では、小売企業や交通・エネルギー供給事業者が、消費者の商品の購入・使用・廃棄におけるCO2排出量をLCA手法に則って正確に把握しておらず、また、消費者に脱炭素商品・サービスの選択肢(オフセットの活用も含め)を与えることができていない(チョイスアーキテクチャーの欠如)と当社は思料。
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それゆえに消費者は商品購買時に脱炭素オプションの選択ができず、事業者もまた排出量についての適切な情報にアクセスできない。場合によっては、グリーンウオッシュ(偽りの脱炭素訴求:スラッジ)によって幻惑されることもあり得る。(反例:ドイツでは「とび恥」として鉄道への選択転換が進行。グリーンウオッシュを禁止するEU指令の議会可決)
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生産者(特に一次産業や中小生産者)は一般に消費者に直接アクセスが困難であるから、脱炭素商品(ゼロベジ等)を生産したくても店頭(EC)に陳列されなければ、そのラインアップは困難(脱炭素化による追加コストをWTP向上というプレミアムで回収できない)という実態が確認されている。(反例:欧州では商品販売時に排出量を表示)
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消費者は各領域での排出量(Scope1-3)が分からなければ、生活全体での自身の排出量を定量的に把握できないとの実態が確認されている。ゆえに、闇雲に精神論だけで脱炭素に取り組まなければならず、「自身がいくら排出して、それが標準(他者)と比べて多いのか少ないのか、自身の環境保全行動によってどれくらい削減できたのを目標管理できず、欧米と異なり、個人のPDCAを廻せない実態がある。(反例:欧州ではLCAスマフォアプリが普及)
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家庭の排出量の大宗を占めるのは商品購入・電気料金メニューであるから、企業がその情報を開示しなければ、行政は、管轄地域全体でのCO2排出量を捕捉できず、企業が脱炭素オプションを提供しなければ削減に向けたEBPMを実行できない。(反例:英国・カナダではコミュニティ全体での脱炭素化のスキーム導入のケース)
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さらに根源的な課題として、企業はできるだけ販売量を増加させ、売上・利潤を最大化するのが行動原理であることから、①できるだけ無駄遣いをさせない、➁できるだけ市場外で取引をする(消費者同士のシェア・おすそ分けなど)を本格的に進めるにはインセンティブの隔たりがある(例えば、下取りと称して新品需要を喚起するなど)。
解決の方向性
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従って、政府・企業・市民のインセンティブ構造を一致させ、WinWinな関係を構築しなければ、社会実装は困難である。そこで、コミュニティ・ナッジアプリの商用化を検討する。
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その1つの手段として、脱炭素商品・サービスの提供事業者との連携が考えられる。
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例えば、日記アプリの「脱炭素商品を購買した(する)」記録ボタンの周囲に、利用者の住所・属性・購買履歴からおすすめの商品(EC・実店舗・EVタクシーやバス・脱炭素ビューティサービス・ツアー等)を紹介し、生産・流通・アフィリエイトモデルである。
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これにより、「脱炭素商品を販売したい主体」と「脱炭素商品を購入したい主体」がプラットフォーマーを介さずにP2P(D2C)でつながることが可能になる。
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一方で、ECや実店舗、あるいは交通事業者やエネルギー供給事業者のアプリ等に、当該事業領域のみならず、生活全般のCFP可視化ツールをアドオンするSaaS事業モデルも検討する(例えば、航空会社のマイレージを付与する課金サービス等)。