株式会社電力シェアリング(本社:東京都品川区、代表取締役社長:酒井直樹)は、脱炭素社会実現を目指す新しい国民運動「デコ活」の一環として、消費者に対して自転車・徒歩での店舗来店やまとめての宅配によるCO2排出量(LCAでのCFPの低減)を促すナッジ社会実証実験(みんなで脱炭素買い物チャレンジ・キャンペーンの有効性検証)に協力いただける小売・流通事業者の募集を開始したことをお知らせします。
「
デコ活
」とは、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素 (CO₂)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む”デコ”と活動・生活を組み合わせた新しい言葉です。
環境省の「
デコ活
」紹介サイト:
https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/
政府が、2024年5月に閣議決定した「環境基本計画」では、製品ごとの温室効果ガス排出量(LCA(ライフサイクルアセスメント)によるCFP(カーボンフットプリント))の「見える化」による、消費者の脱炭素化の促進を謳っています。
より具体的には、「CFPは、温室効果ガス排出量の「見える化」により、消費者が、脱炭素・低炭素の実現に貢献する製品やサービスを選択する上で必要な情報を提供する有効な手法であり、製品種ごとの CFP 表示に向けた業界共通ルールづくりを後押しするとともに、一定の統一的な基準に基づく認証の枠組みを整備する」としています。
また、「ナッジ手法も活用した効果的な CFP 表示のあり方を実証するとともに、「デコ活」による消費者の行動変容を通じて、CFP の普及と、脱炭素の実現に貢献する製品・サービスの選択を推進する。」ともしています。
環境省では、こうした脱炭素への取り組みへの市民の自発的な参画を促すために、2017年4月よりナッジ(英語nudge:そっと後押しする)やブースト(英語boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見を活用してライフスタイルの自発的な変革を創出する新たな政策手法を検証するナッジ実証事業を進めています。
募集の趣旨
株式会社電力シェアリングは、共同で受託する株式会社サイバー創研とともに、そのナッジ実証事業の一環として、生産・流通・販売等のサプライチェーンの各段階におけるCO2排出量をLCA手法で定量評価するモデルを構築して、その分析を進めています。
そこでは、実は商品のCFPにおいては、消費者へのラストワンマイル、すなわち商品を実店舗に買いに行ったり、宅配で届けてもらう際の手段がLCAの中で大きな要素を占めることが明らかになりました。
そこで、消費者自身の買い物手法がラストワンマイルでのLCAに大きな影響を及ぼすことを自覚していただき、電力シェアリングの構築するナッジモデルを用いてその行動変容を促す「みんなで脱炭素買い物チャレンジ」を企画し、ラボ実証と併せて、その有効性を検証する社会実証実験を実施することとしたものです。
具体的には、社会実証では、今年の10月以降に「みんなで脱炭素買い物チャレンジ(キャンペーン)」をチラシや広告・ポスター、メルマガ等で実顧客に呼びかけ、まとめての配送や、自転車や徒歩での来店、シェア買い等を促し、その効果を検証する計画をたてています。
既に、ご協力いただける事業者様もおりますが、広範にその有効性を検証するために、全国の事業者様に幅広く参加を呼びかけさせていただくことにしたものです。
趣旨に賛同いただき、社会実証実験に参加をいただける自治体・事業者の方は、
当社ホームページのお問合せ項目
よりご連絡いただければ幸いです(ただし、実験参加には条件があり、全てのお問合せにご返信できない場合があることをご了承ください)。
当社では、今年度から来年度にかけて継続的に社会実証実験を実施し、その成果を広く発信し、「デコ活」の一つの形として「脱炭素買い物」を国民運動化していきたいと考えています。
過年度の実証結果
農産品のLCAフィールド調査と定量評価モデルの構築
当社では、過年度実証事業でフィールド調査を実施し、生産・流通・販売等のサプライチェーンの各段階におけるCO2排出量をLCA手法で定量評価するモデルを構築しました。その結果、一定条件下では地産地消が優位であることを示した一方で、その削減幅が消費者のラストワンマイル(買い物の仕方)で大きく異なる結果を得ました。
実証の概要は以下の通りです。
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農研機構・農水省等の農産物のLCAに関する先行事例を基に、圃場・流通の各段階でより実態に即したフィールド調査を有機栽培を行う2圃場で実施した。
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3種類の低炭素型・脱炭素型商品について、サプライチェーンの各段階におけるCO2排出量をLCA手法で定量評価するモデルを構築した。
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管理会計手法を用いて各段階での費用を算定し、低炭素型・脱炭素型商品の生産における比較優位性を担保する収支管理モデルを構築した。
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消費者のラストワンマイルでの行動で農産物のLCAに甚大な影響を与えることを自覚して、その行動変容を促す「みんなで脱炭素」モデルを構築し、スマフォ・アプリを企画した。
圃場での排出量
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無農薬・無肥料の自然農園「ピースファーム」(愛知県西尾市)でフィールド調査を行った。
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同農園でのじゃがいも、トマト、おくらの生産・出荷工程を明らかにし、各工程での投入資源量および費用を把握し、CO2排出量を算定した。
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このうち、ジャガイモの生産工程でのCO2排出量は、357g-CO2/kgであった。一方、慣行農法でのCO2排出量は30g-CO2/kgであり、1kgあたりのCO2排出量は大幅に大きくなった。
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土づくりに黒木土を使っており、正確なCO2の量を算定することは難しいが、土壌炭素貯留技術の一種と位置付けている。
流通時の排出量
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GAP認証のきりり農園(東京都羽村市)でフィールド調査を行い、①生産者から農協集荷場/市場経由で店舗で販売する形態、➁生産者自身が近隣小売店舗に持ち込む「地産地消」、③圃場直売所での「直接販売」、④宅配業者により配送される「通信販売・EC」の4種類の販売形態について流通段階での排出量を算定した。
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対象をじゃがいもとし、小売店舗を東京都羽村市富士見平のスーパー・マーケットとした場合の各販売形態でのkgあたりのCO2排出量を算定した。
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生産者から小売店舗までのフードマイレージは、一般的な流通経路では①=345g-CO2/kgであるが地産地消では②=11.2g-CO2/kgと、1/30程度。
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圃場での直接販売では、 20km先からガソリン車で買い出しとした場合④=867g-CO2/kmと高いが実際は、圃場までの手段に大きく依存する。例えば、徒歩で圃場に出向けば0g-CO2/kg。
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通販の場合、生産者から消費者までの平均距離は67km、中央値は38kmとなるが、集約後の営業用貨物車での配送距離の割合が大きく、効率性が担保され、⑤=17.4g-CO2/kgと低くなった。
考察
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①圃場に徒歩・自転車で出向き購買する場合は当然のことながら0g-CO2であるが、⑥自動車で出向けば最大(1,328)となる。その後排出量が少ない順に、➁農家が直接持ち込んだ小売店舗に徒歩で出向く(11)、③ECを宅配事業者が届ける(17)、④農家持ち込んだ店舗に自動車で出向く(175)、⑤農協流通品を販売する店舗に徒歩・自動車で出向く(345・509)となる。
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きりり農園での生産工程におけるCO2排出単位は105g-CO2/kgである。「環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法の開発」によれば、慣行農法のCO2排出単位(出荷(圃場-集荷場)を除く)は、30g-CO2/kgである。従って、圃場での比較劣位を、流通での比較優位が上回り、このケースに限れば、スーパーに自家用車で買い物に行く場合では地産地消のほうが低炭素であることになる。
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全国:生産30 +流通509 = 539g-CO2/kg >地産地消:生産105+流通175 = 280g-CO2/kg
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ただし、その比較優位は、圃場と小売店の距離、各段階での1輸送回あたりの当該商品の重量と他商品の重量や、輸手段の燃費等に大きく左右される。
買い物チャレンジの方向性
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消費者自身のラストワンマイルでの選択と行動が農産物のLCAに大きな影響を及ぼすことを自覚させ、その変容を促す「みんなで脱炭素」モデルを構築しその有効性を意識変容RCTで検証するとともに、流通・販売事業者の協力を得て社会実証でそのモデルのフィードバックを得る。
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令和7年度には、この結果を踏まえて、消費者が小売店までの距離、生産品種、重量などのパラメターを設定すれば、CO2排出量が算出される機能をコミュニティナッジ・アプリに追加する。
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これを用いて、消費者のまとめ買いや手段の変更によるCO2排出量の削減量を可視化し、食費節約と脱炭素行動を促す態度変容・行動変容RCTを行う。
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その際、自宅廃棄量や見切り品・B級品購買量も入力させ、資源循環改善やそのCO2排出削減効果も表示させることでの有効性も検証する。