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イベント概要
開催概要:伊勢湾は、その地理的条件から河口域に干潟や藻場が発達し、多様な生態系を育んできました。しかし、以前に比べて海の“栄養塩”と言われる海中の生き物にとって必須の“塩類”と言われる様々な栄養源が激減してしまい、伊勢湾の海の生き物、漁業の中でも特にカキ養殖に大きな打撃を与えています。
本イベントは、小学生が“子ども記者”となり「伊勢のカキが気軽に食べられなくなるってホント!?」という入り口から漁獲高が激減する養殖カキの現状を取材することで、最終的には「伊勢湾の海の栄養塩減少問題とその影響」について“自分ごと”として理解してもらうことを目的としています。伊勢湾が本来持っている海の豊かさを理解してもらい、生活の中の行動様式を見直すことで、より持続可能な資源としての海を大切に利用する方法について考えます。
今回の学習体験イベントは、座学→現場取材→座学→観察・体験というプロセスを通じ、自分の感想を話す=文章化したものをまとめ、商品パッケージで多くの人に伝えるという構成としました。大事な話は研究者や実際に養殖をしている人、講師の方からお話いただく中で繰り返し語られる形をとることにより、学習の定着を図りました。
日程:2024年8月5日(月)〜6日(火)
開催場所:志摩市、三重県水産研究所、ほか
参加人数:19名
協力団体:鳥羽市立海の博物館、三重県水産研究所、鳥羽磯部漁協 浦村支所.
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伊勢湾の現状とカキ養殖についてデータを見ながら学ぼう
三重県各地から集まった小学5~6年生の子ども記者が伊勢の名産やカキ養殖について、そして現在直面している問題について取材を行いました。最初の目的地である三重県水産研究所までの車中、自己紹介や記者心得などをオリエンテーションし、海の生き物を動き方で分類する方法と食物連鎖についてのおさらいから記者活動は始まりました。
水産研究所では、竹内研究員によるスライドを使っての講義を受けました。子ども記者たちは、カキの生態と伊勢湾の地理的特徴が豊かな海をもたらしていたことを学び、赤潮発生の歴史や近年の黒潮大蛇行、植物プランクトンの減少、海水中の栄養塩とプランクトン数の推移をデータとともに説明を受けました。最後に、カキ殻にはCO2を蓄積する効果があること、今の海の問題を未来に向けてどう取り組んでいくかを子どもたちに投げかける形で講義は終了しました。
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浦村漁港にて養殖筏を見学、カキ養殖の歴史と近年の漁獲量減少の実態を知ろう
記者一行は浦村漁港に移動し、漁船3隻に分かれてカキ養殖筏(いかだ)を見学しました。垂下式カキ養殖とカキ筏の構造、8月頃のカキの生育状況、筏に使われる木材である「ひのき」やその後の利用方法など、実際にカキ養殖に携わる人々からお話を聞きました。海に流れ込む栄養の変化が実際に起こっていることを現場で目撃する貴重な経験となりました。
海の博物館では、カキ養殖の展示物の前で館長の平賀氏からカキ養殖の歴史についてさらに学び、昔、天然カキを採るのに使われていた道具を見学しました。筏見学の際にカキの名前の由来が「カキ採る」に由来するという説を聞いた子どもたちは興味深くそれを見つめました。
宿に戻った子ども記者たちは鳥羽の海で採れた海産物が食卓に並ぶ夕食を楽しみ、学習のまとめ。朝は緊張気味だった子どもたちが班長や仲間とコミュニケーションを取りながら今日の取材で一番記憶に残ったことを発表しました。それを原稿用紙に書き留めておくという形で、印象を文章化する学習に取り組みました。
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プランクトン採取と海の生き物観察、海と生活とのつながりを座学で学ぼう
取材2日目は、四日市博物館の学芸員である森拓也さんとともに答志島 和具漁港での植物プランクトン採取からスタート。班ごとにネットを使いプランクトンを採り、顕微鏡で観察しました。上から見ると透明に見える海の水は観察ケースで汲んでも透明に見えますが、各班ごと10mくらい移動しながら海面上を引いたネットからケースに移した水は濁って見え、その水を顕微鏡で拡大すると小さな生き物がたくさんいることが判ります。前日に話を聞いた植物プランクトン、動物プランクトンが実際に海でどんなふうに生きていて、その水がどんな色をしているのかを実際に子どもたちは目撃しました。ドローンを用い、海上からたった今プランクトンを採った海の様子や和具港周辺の海をモニター越しに様々な視点から観察しました。
水の引いた砂浜ではカニやハマグリなどの小さな生き物、岩場では天然のカキ、そのカキに穴を開けて食べる巻貝、水辺の魚など様々な生き物が暮らしています。子どもたちは自分の見つけたものを講師に尋ね、プランクトンを餌とする生き物、それを食べる生き物がどんなところで生きているかを知りました。
また、水の引いた岩場で天然のカキを見て、1日中水の中で過ごす養殖のカキとの大きさの違いや養殖の方法にはカキを育てるための人の知恵があることを知りました。最後に海の博物館で海と人のつながり、人の暮らしの変化が今の海の環境に及ぼした影響についてお話を聞き、いよいよ学習のまとめが始まりました。
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2日間の学びのまとめ、牡蠣養殖業者とのコラボパッケージ制作も
昨日の牡蠣筏見学を手伝ってくれた浦村、丸善水産の「牡蠣せんべい」とのコラボパッケージにイラストや文字でメッセージの作成と昨日の印象を書いた作文を見直しました。記者ノートを確認しながら作文の仕上げをし、取材をサポートしてくれた浦村の方々の想いに答えるため子どもたちは熱心に取り組みました。
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今後の取り組みについて
この海洋学習体験イベントは、2024年11月24日(日)に日帰りで3日目の追加取材を行い完了となります。養殖筏で育ったカキのその後の姿を取材し、取材のまとめをいたします。子どもたちがそれぞれ家に持ち帰った学びの成果がどんな影響をもたらしたのかを改めて確認できる機会となります。
今回の取材成果とともに新聞記事と動画制作を行い、子ども記者の取材と学びの成果を発信します。
そして、本イベントの模様は三重テレビ放送「みえの海やに!」で2回に分けて9月上旬に放送が予定されています。また、今回の取材と11月24日の追加取材の模様を加えて20分の特別番組が放送されます。
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参加した子ども・保護者からの声
<子どもの声>
・牡蠣はプランクトンを食べ、田んぼの水にプランクトンがいるのだがその水が今流れて来なくなってきたために牡蠣が減ってきている。プランクトンが減り過ぎても増え過ぎてもいけないとわかりました。
・温暖化をなくすために自分たちができることを増やしたいです。ごみを捨てない。
・牡蠣がプランクトンを食べるのがすごいと思いました。初めて知ることばかりでした。
・いろいろ調べてみると、海洋プラスチック問題や環境汚染など、海に関する問題はたくさんあります。まず自分が出来ることは海にごみを捨てないことだったり、海のごみ拾いをしたりして生き物が住みやすい環境になるよう自分なりに努力していき、これからもいろいろ学んでいきたいと思います。
・三重県内のお友達ができてとても嬉しかったし、普段経験出来ない海での体験やいろいろな先生のお話も聞けてすごく楽しかったです。
・海が好きになりました!
<保護者の声>
・マイクロプラスチックや、牡蠣の殻が海にとってどんな役割をしているのか、牡蠣の成分など、得てきた知識を得意げにたくさん教えてくれました。その中から2枚貝の浄化実験をしたいという話になったのですが、プランクトンを入手しにくいことが分かり思案中です。
・知らない人たちと、遊びではなく学びの1泊2日を過ごさせていただいたのですが、「もしもう一度行けるとしたら、数日前に行った遊び満載の1泊2日のキャンプより、今回のような1泊2日にまた参加したい」と言っていた子どもの言葉で、きっと周りのいろんな人に配慮いただき、助けてもらいながら楽しく学び過ごしていたのかなと感じました。
・だからなにができるかと言われたら行動は変わらないですが、意識は変わります。毎年浦村へ牡蠣の食べ放題に行きますが、来シーズンはきっと味わいやありがたみが違うと思います。
・プラスチック製のものの購入について、それに変わるものはないか?必要か?と問い、一度立ち止まるようになりました。
・夏休み、親から離れていろんな学びができたと思います。Instagramでのストーリーで状況把握もできて安心できました。
・三重県は海と面した場所が多く、自然も豊かで魚などもたくさん獲れる素晴らしい場所です。次の世代にとっても海は大事で大切にしていかなくてはならないと思います。今回、子どもが学ばせて頂いたおかげで私も海についてもう一度いろいろ考えさせられました。これから海のごみ拾いをしたりして些細なことから私も環境を守るために行動していきたいと感じています。
<団体概要>
団体名称:海と日本プロジェクトin三重県
活動内容 :三重県民へ海の素晴らしさと直面する問題をお伝えし、未来に向けての行動のきっかけとしていただけるよう活動を行っています。
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。