●作家のコメント
「山が泣いている」そんな風に感じたのは、いつだったろうか。
和歌山県の龍神温泉へいったとき、荒れた山々を見た。地元の人に尋ねると、「今は木を切っても、運び出すだけで赤字になるんですよ」という答えが返ってきた。若いころから山登りが好きでたくさんの山に通ってきたけれど、それ以来各地の山々を見るたび、「山が泣いている」と感じるようになった。
そんなときに出会ったのが、青森県新郷村に住む石ヶ守勲(いしがもりいさお)さんだ。当時95歳。自らの山を持ち、毎日山へ入り、木々の手入れをしている林業家。山を愛し、山を大切にしている、本物のキコリだった。
出会った瞬間、「この人を撮りたい」と感じた私は、すぐ撮影を申し込み、2018年から新郷村に通うようになった。山中を歩く石ヶ守さんは95歳と思えないほど健脚で、後ろから必死でついてくる私を見ては、いつも微笑んだ。木のことはもちろん、土のこと、動物のこと、天気のこと、なんでも知っている山の博士のような人だった。
しかし2020年にコロナ禍へ突入、撮影を中断せざるを得ない状況に陥った。再び青森に通い始めたのは2022年。その翌年の2023年5月、石ヶ守さんは亡くなった。99歳だった。
この作品は私が出会った「KIKORI」の物語。私が撮影したのは、林業のほんの一部かもしれない。しかし全く林業を知らない人が、この写真を見て、木のこと、山のこと、林業のこと、青森のこと、何か心に響いてくれたらそれだけでいい。
キコリが蒔いた種が苗木に育ち、苗木が木に、木が山になり、山で育った木が家になり、家が人に安らぎを与え広がっていくように。
【プロフィール】
山口 規子 (やまぐち のりこ)
栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅行誌を中心に活動。透明感のある独特な画面構成に定評がある。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。近著に「トルタビ~旅して撮って恋をして♫~」や写真集「柳行李」「I was there.」など。その他、旅や暮らしに関する撮影書籍は多数。公益社団法人日本写真家協会 副会長
●THE GALLERY 企画展 山口 規子 「KIKORI 木は長い夢を見る」
会 場:ニコンプラザ東京THE GALLERY、ニコンプラザ大阪THE GALLERY
展示期間:東京 2024年9月17日(火)~9月30日(月)
大阪 2024年10月10日(木)~10月23日(水)
開館時間:10時30分~18時30分(日曜日休館/最終日は15時まで)
●「THE GALLERY」について
「THE GALLERY」は2017年に東京・大阪に開設した写真文化の普及・向上を目的とする写真展示場です。ニコンの機材を用いて著名な写真家が制作した質の高い作品を展示する企画展の他、ニッコールクラブ会員展、写真団体展などを開催します。