新国立劇場では、2025年に日韓国交正常化60周年を迎えることを記念し、同年10月に日韓合同公演『焼肉ドラゴン』を上演することが決定いたしました。
『焼肉ドラゴン』は、2008年に芸術の殿堂(ソウル・アー ト・センター)とのコラボレーション企画として、鄭 義信が新国立劇場に書き下ろし、制作されました。万博に沸く1970年前後の関西の地方都市に暮らす在日コリアン一家と、彼らが営む焼肉屋に集う人々を生き生きと描いた本作は、初日が開けるとあっという間に評判が口コミで広がり、東京・ソウル公演では、毎回スタンディング・オベーションとなる熱狂的な支持を受け、この年の演劇賞を多数受賞。また2018年には鄭 義信が自らメガホンをとり、映画化もされました。日韓の過去、現在、未来を、 音楽入り芝居でおかしく、そして哀しく切なく描いたこの物語が、2008年、2011年、2016年に続き、2025年四度目の上演を果たします。
今回の上演にあたり、焼肉屋を営む金家の一人息子「金 時生」役の公募オーディションを行います。
2025年10月公演 『焼肉ドラゴン』 公演概要
【公演日程】2025年10月~12月 東京公演~最大12月28日までの全国公演の可能性あり
【会場】新国立劇場 小劇場 ほか
【作・演出】鄭 義信 【芸術監督】小川絵梨子 【主催】新国立劇場
作品概要
『焼肉ドラゴン』は、日本で万博が開催された高度経済成長に踊る1970年前後、関西の焼肉屋を舞台に、ある在日コリアンの家族を通して、日韓の過去、現在、未来を、音楽入り芝居でおかしく、そして哀しく切なく描いた作品です。高度経済成長で輝く未来を信じ沸き立つ世間の裏側で、日々ただ懸命に生きた市井の人々を描いた、いわば日本の影の戦後史。日韓両国の俳優が参加する合同公演として、2008年、2011年、2016年に、東京・兵庫・北九州・ソウルで上演され、毎回スタンディング・オベーションとなる熱狂的な支持を受けました。今回は、日韓国交正常化60周年を迎える2025年を記念しての再演となります。
ものがたり
万国博覧会が催された1970(昭和45)年、関西地方都市。高度経済成長に浮かれる時代の片隅で、焼肉屋「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。
店主・金 龍吉は、太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にするふうでもなく淡々と生きている。
家族は、先妻との間にもうけた二人の娘、静花と梨花、後妻・英順とその連れ子・美花、そして、英順との間に授かった一人息子の時生…ちょっとちぐはぐな家族と、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑いあったり…。
そんな中、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せてくる。
オーディション概要
【募集内容】 男性役1名
●金 時生(きん・ときお)
15歳。在日コリアン二世。異母姉二人と異父姉一人がいる四人姉弟の末っ子であり、金家の長男として可愛がられている。いい教育を受けさせたいという父親の方針で私立の中学校に通っているが、いじめにあい、失語症となり、学校もさぼりがちな状態である。
【応募期間】2024年9月2日(月)12:00~11日(水)23:59まで ※オンライン受付のみ
作・演出 鄭 義信コメント
『焼肉ドラゴン』時生オーディションを受けようと思っている君へ
僕は正直言えば、オーディションが嫌いだ。君も、たった数分の面接や、短い台詞の読み合わせで、「おれのなにがわかるんだよぉ!」と、憤懣の声をあげたくなるだろう。たしかに、慌ただしい遭遇では、君の得意とすることはなんなのか、君の美点はどこにあるのか、わかるはずもない。
今回のオーディションも、君の要望に応えられるものでないだろう。でも、僕が求めているのは、輝くような才能でもなく、飛びぬけた演技力でもない。『焼肉ドラゴン』という物語の中、家族の浮沈みを静かに見守る、時生という魂がほしいのだ。上手い、下手ではない、この在日コリアンの家族と寄りそい、ともに笑い、ともに涙する魂がほしいのだ。
僕がオーディションが嫌いな最大の理由は、たった一人を選ぶために、君たちの大勢をふるい落とさなければならないことだ。残酷で、とてもつらい作業である。けれど、君かもしれない、他の誰かかもしれない時生と出会うために、僕は今回、真摯に立ちあおうと思っている。
まだ見ぬ時生君、僕に会いに来てください。僕に君の思いを伝えに来てください。
[プロフィール]
鄭 義信(ちょん・うぃしん)
1993年に『ザ・寺山』で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。その一方、映画に進出して、同年『月はどっちに出ている』の脚本で、毎日映画コンクール脚本賞、キネマ旬報脚本賞などを受賞。98年には、『愛を乞うひと』でキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第一回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など数々の賞を受賞した。さらに平成13年度芸術祭賞大賞受賞を受賞した『僕はあした十八になる』(01/NHK)などテレビ・ラジオのシナリオでも活躍する一方、エッセイ集『アンドレアスの帽子』なども出版。2018年には自ら初監督を担い、『焼肉ドラゴン』を映画化した。
現在も、文学座、こんにゃく座ほかに戯曲を提供する傍ら、21年に浅草九劇をホームグラウンドとした新劇団ヒトハダを旗揚げ。近年では23年に、ポン・ジュノ監督の世界的ヒット映画『パラサイト 半地下の家族』を舞台化。24年は『欲望という名の電車』(演出)、『男たちの挽歌』(脚本・演出)がある。新国立劇場では、『たとえば野に咲く花のように』『アジア温泉』の作、『焼肉ドラゴン』『パーマ屋スミレ』『赤道の下のマクベス』の作、演出を務め、初演の『焼肉ドラゴン』で、第16回読売演劇大賞優秀演出家賞、第12回鶴屋南北戯曲賞、第43回紀伊國屋演劇賞、第59回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
また、日本から韓国への招聘公演だけでなく、10年『赤道の下のマクベス』、14年『歌うシャイロック』(『ベニスの商人』を音楽劇に翻案)、15年『コーカサスの白墨の輪』(唱劇形式に翻案)など、韓国芸術団体への書下ろしも多数ある。
新国立劇場
新国立劇場は、オペラ、バレエ、ダンス、演劇という現代舞台芸術のためのわが国唯一の国立劇場として、1997 年秋に開場しました。オペラパレス、中劇場、小劇場の特色ある3つの劇場を有し、年間約250ステージの主催公演を実施しています。
オペラ部門は2018年9月に世界的指揮者の大野和士が芸術監督に就任し、世界の主要歌劇場と比肩する水準のオペラ公演を年間およそ10本上演すると共に、高校生のためのオペラ鑑賞教室の実施等を行っています。
次代を担うアーティスト育成も新国立劇場の事業の大きな柱の一つであり、オペラ、バレエ、演劇の3つ研修所を擁し、充実した研修を実施しています。
所在地:東京都渋谷区本町1-1-1
https://www.nntt.jac.go.jp/