仕事や子育て、家のことに忙しい日常では、「流されずに生きる」ことなんてできないけれど、ときどき、「これでいいのかな」「なにか大切なこと、忘れているんじゃないだろうか」……そう思うのも、やはり自然なこと。
作家・幸田文も同じように、取材や執筆に追われていましたが、ふだんの暮らしの些細な出来事やひとの姿に目をとめ、毎日1編ずつ綴ったのが本書『雀の手帖』でした。
幸田さんは今年生誕120年を迎えます。
本書は刊行されて以降、長く読み継がれてきましたが、1904(明治37)年生まれの幸田さんの随筆が、なぜ今も多くのファンを摑んでいるのでしょうか。時代を越えて共通する魅力とは何なのか――。
〈おでんやすきやき〉の季節が、〈筍とそら豆〉になるまでの一月から五月にかけて、何気ない日々の出来事を書き留めた百日の手帖は、ことばに対する鋭敏な感覚と、生きることの確かさが織り込まれています。
女にとって親密なことば「きざむ」、隅田川の意外な光景「川の家具」、道路掃除の仕事をする女のひとの話「掃く」、季節に心の機微を読む「春の雨」、出張先で急に切なくなる「朝の別れ」ほか、「おこると働く」「木の声」「豆」「吹きながし」など、移りゆく〈暮らしの実感〉を自在に綴って古びない名随筆です。
■著者紹介
幸田文(コウダ・アヤ)
(1904-1990) 東京生れ。幸田露伴次女。1928(昭和3)年、清酒問屋に嫁ぐも、十年後に離婚、娘を連れて晩年の父のもとに帰る。露伴の没後、父を追憶する文章を続けて発表、たちまち注目されるところとなり、1954年の『黒い裾』により読売文学賞を受賞。1956年の『流れる』は新潮社文学賞、日本芸術院賞の両賞を得た。他の作品に『闘』(女流文学賞)、『崩れ』『包む』など。
■書籍データ
【タイトル】雀の手帖
【著者名】幸田文
【発売日】2024年8月28日
【造本】文庫
【定価】781円(税込)
【ISBN】978-410-111613-6