そこで、NAPA Studiosの立ち上げを主導し、NAPA Groupの上級副社長およびNAPA Japan代表取締役を務める水谷直樹氏と社外のインタビュアーとの対話を通じて、NAPA Studiosの概要、この新しい取り組みが業界の複雑な課題にどのように対応しているか、その革新性と将来性に迫ります。
ーー 水谷さん、本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、NAPA Studiosを立ち上げた背景について教えていただけますか?
水谷:はい、ありがとうございます。NAPA Studiosは、海事業界が直面する多くの課題、例えば環境規制の厳格化やサプライチェーンの混乱など、日々変化する問題に対処するために設立されました。
業界のニーズとして、「達成しなければならないチャレンジが複雑かつ高度になりすぎており、従来なら単独で解決できたことが、現在では難しい」という現状があります。このような状況下で、お客様から様々なご相談を受けることが増え、NAPAの既存の製品・サービスの範疇を超えるソリューションの開発案件なども増加しました。業界・お客様が抱える様々な課題をよりフレキシブルに解決するために、業界や企業、分野を横断してチームを編成して取り組む必要があるという議論からNAPA Studiosが生まれました。
ーー それは非常に興味深いお話です。では、NAPA Studiosは新しいサービスやプロジェクトということでしょうか?それともプラットフォームになっていくイメージでしょうか?
水谷:大きく2つに分けられます。1つは、これまで実施してきた、個別のお客様とのコラボレーションによるソフトウェア開発やデジタル分野のコンサルティング。もう1つは、より大きな課題に取り組むための協業の仕組み作りなどをお手伝いする触媒のような役割です。業界内で課題の規模が社会的問題にまで拡大すると、業界横断型の様々な仕組みづくりやファシリテートが必要であると感じるようになりました。これらをNAPAが35年以上にわたり培ってきた船舶の設計と運航支援のソフトウェア、データ解析技術、そしてノウハウとネットワークを駆使し、お客様と共に課題を解決し、新しい価値を創出していきます。
ーー 「Studios」という名前にはどのような意図が込められていますか?
水谷:「Studios」は職人の工房や音楽スタジオをイメージしています。多様な才能やスキルを持つ人々が集まり、新たな価値とイノベーションを生み出す場を表現しています。また、海事業界の「駆け込み寺」や「便利屋」としての役割も担いたいと思います。
ーー 既存の製品やサービスとは異なるビジネスラインという理解でよろしいでしょうか?
水谷:はい、NAPAの既存の設計・運航支援のシステム製品・サービスではカバーできない領域において、これまで個別に実施してきたお客様の課題解決の支援をNAPAの新事業としてさらに発展させる形となります。
ーー 具体的にNAPA Studiosはどのような価値を生み出していますか?進行中のプロジェクトにはどんなものがありますか?
水谷:個別のお客様に向けたプロジェクトでは、2023年に住友重機械マリンエンジニアリング様、Norspower様、NAPAの共同プロジェクトを実施しました。NAPA Voyage Optimization (航海最適化) と Norsepower Rotor Sail ™の組み合わせにより、平均で最大 28% のCO₂排出削減を達成できることが確認されました。これらの CO₂排出量削減のうち、NAPA Voyage Optimization 単独の貢献は12%でした。この共同プロジェクトでは、風力推進装置を搭載した船舶に対して、様々な状況下での本船の性能を模擬するデジタルツインモデルを作成し、特定の実海域におけるパナマックスタンカーの航海性能をシミュレーションすることで、燃料とCO₂排出量の削減効果を推定しました。本プロジェクトでは、NAPAの持つ設計・運航支援ソフトウェア技術やデータサイエンス、シミュレーション技術を活用し、省エネデバイスとしての風力推進装置の効果を技術的・経済的視点から考察することができました。
他にも、NAPAはClassNK様および商船三井様と協力して、重大な安全上の課題に対処し、迅速かつ効果的にパフォーマンスを向上させるための航海リスク監視システムを共同開発しました。 船舶の安全運航、運航支援ソフトウェアおよびデータサイエンス技術など、3 社の専門知識を結集することで、 お客様の船舶運航の安全性向上に寄与するソリューションを構築することができました。現在このソリューションは、商船三井様の700隻以上の船隊でご利用いただいております。
ーー 業界横断的なプロジェクトにおける具体例はありますか?
水谷:5月22日にプレスリリースをしたもので、造船会社と海運会社の間で安全なデータ共有フレームワークを構築し、船舶のライフサイクル全体を見通したデジタルツインの利用推進を目的とする業界横断型プロジェクトがあります。
このプロジェクトには、日本郵船グループである株式会社MTI様、株式会社商船三井様、丸紅株式会社様が海運会社として参加、また造船会社からは今治造船株式会社様、ジャパンマリンユナイテッド株式会社様、株式会社臼杵造船所様が参加し、船級協会として一般財団法人日本海事協会様、ソフトウェア・データサービス会社およびプロジェクトマネージャーとしてNAPAが参加しています。
今日では世界の大型商船や高付加価値船の新造船の約9割が、NAPAの設計支援システムご利用のお客様によって設計・建造されていると言われています。造船会社や設計会社で設計段階でつくられているNAPA 3D モデルをデジタルツインのベースとして適切なデータ管理の下で船のライフサイクル全体で活用することで、新たな価値を生み出すことができると考えました。これは、海運会社だけでなく、モデルの知的財産権を持つ造船・設計会社にもご利益があるという仮説に基づき、海事関係者間で多様な議論・検討を行いました。本プロジェクトを通じて、30以上のデジタルツインの潜在的なユースケースが明らかになり、ステークホルダー間で利益を共有する仕組みを創出できる可能性が確認されました。本プロジェクトはチャレンジングですが、海事業界の発展に寄与する革新的な取り組みとして、今後もスピード感をもって進めていきたいと考えています。
水谷:NAPAの35年以上にわたる、船舶の設計・運航支援システムで培われたソフトウェアやIT / データサイエンスなどの技術資産やノウハウ、お客様やパートナー企業様とのネットワークと協業、そしてNAPAの創造性やチャレンジを重視する企業文化とプロフェッショナルなメンバーによるものが大きいと思います。
また、先も申し上げたように今日では世界で建造される大型船舶の約9割がNAPA設計システムをご利用のお客様により設計されていると言われており、これも強みと言えるかもしれません。NAPAシステムが業界で幅広く使われていることは、今後の様々な課題解決やビジネス創造をするときに協業するための有効な”資産”になる可能性を秘めていると考えています
ーー プロジェクトを実施する際に、特に重要視していることはありますか?
水谷:明確な短期で成果を出しつつアジャイル(状況の変化に対して素早く対応するスタイル)にプロジェクトを進めることを重視しています。技術的・経済的なメリットが可視化されるよう課題を細分化し、3〜6ヶ月という短期間で具体的な成果を創出するように取り組んでいます。
急速な環境変化やテクノロジーの進化を考慮すると、「3年後に成果が出る」というアプローチでは、多くの企業にとって意思決定が難しく、プロジェクト遂行もチャレンジングになります。そのため、小さく確実な成果を積み上げ、柔軟性をもって進めるアプローチが最適です。またNAPA単独ではなく、お客様やパートナー企業様との協業から新しい価値を生み出すことも重視しています。
ーー 最後に、NAPA Studiosは誰にどのような価値を提供しますか?
水谷:NAPA Studiosは、海事業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX) やグリーントランスフォーメーション (GX)に関する 技術的・ビジネス的な課題に直面している方々や、将来の戦略立案やビジネス開発に関わっておられる方々、また船舶設計や運航分野、あるいはその両方において、環境・エネルギー効率、安全性・経済性の向上のためのソリューション開発や研究の支援が必要な方々に価値を提供します。
NAPAの技術にご興味をお持ちいただいたり、ご協力をお考えの場合は、ぜひNAPAにご連絡いただければ幸いです。
共に業界の革新に取り組む仲間として、皆様を心から歓迎いたします。