花王株式会社（社長・長谷部佳宏）スキンケア研究所、加工・プロセス研究所は、紫外線吸収剤を含まない（紫外線吸収剤フリー）日やけ止めにおいて、高い紫外線防御効果と、白浮きせずみずみずしい感触を両立させる新たな処方技術開発に成功しました。この技術は、紫外線散乱剤（酸化チタンなど）を内包した独自のカプセルを水相に安定して分散させる新発想により実現しました。
背景
近年の花王の調査では、日やけ止めの品質で重視したいこととして「肌にやさしい」「肌に刺激が少ない」ことをあげる方が3割以上を占めています*1。肌への負担が気になる方に向けて紫外線吸収剤フリーの日やけ止めという選択肢がありますが、その構成比は日やけ止め全体の1割弱に留まります*2。紫外線吸収剤フリーの日やけ止めを使用する方からは、肌の色に自然になじみ、みずみずしい感触で、紫外線防御効果も高いことが求められており、花王はこのニーズを叶えたいと考えました。
紫外線吸収剤フリーの日やけ止めは、紫外線散乱剤のみで紫外線防御効果を実現する必要があります。紫外線散乱剤は、反射によって紫外線が肌に到達することを防ぐ粉体で、日やけ止めに用いられるものは一般的に水に分散せず、油になじむ性質を持ちます。そのため、高い紫外線防御効果を叶えるには、紫外線散乱剤を一定量配合できるオイルベース（図1左：油の中に水滴が存在）がよく使われます。油剤を増量すればするほど紫外線散乱剤を配合できますが、感触が重くなり、白浮きにつながりやすくなります。
みずみずしい使用感を得るには、ウォーターベース（図1中）が適していますが、紫外線散乱剤は油滴の中にしか入れられないため、これまで紫外線吸収剤フリーの日やけ止めで高い紫外線防御効果を叶えることは困難でした。また花王では、ウォーターベースを肌に塗布したのちに水が揮発すると、その部分がすき間となり、紫外線が透過しやすくなることで日やけにつながることを確認していました。
そこで花王は、紫外線防御効果が高く、白浮きせずみずみずしい感触で、毎日使いたくなるような、ウォーターベースの紫外線吸収剤フリー処方の開発をめざしました。
*1 2024年9月 花王調べ 15～79歳女性 n=995
*2 インテージSCI 日焼け止め UVタイプ別の金額構成比 2024年1月～10月
ウォーターベースに配合可能な紫外線散乱剤内包カプセルの開発
花王は、ウォーターベースの水相中に、紫外線散乱剤を入れる方法を検討し、水と油の両方に親和性を持つカプセルで紫外線散乱剤を包み込むことを考案しました。目的とする紫外線防御効果を達成するために、カプセル自体の素材や大きさ、中に入れる酸化チタンなどの紫外線散乱剤の濃度や大きさについて検討・設計し、最適な「紫外線散乱剤内包カプセル」を開発（図2）。それを配合した新処方が完成しました（図1右）。
新処方を肌に塗布すると、紫外線散乱剤が肌にすき間なく積み重なって膜を形成することで、効率よく紫外線から肌を守ります（動画）。
動画︓塗布後の紫外線防御膜イメージ
新処方の紫外線防御効果と白浮き評価
開発したカプセルを配合した新処方製剤と、カプセルを含まない紫外線吸収剤フリーのウォーターベース日やけ止め製剤を、皮膚表面を模した凹凸のあるプレートに塗布し、それぞれに紫外線を当て、紫外分光顕微鏡で吸光度*3を測定しました。その結果、新処方製剤はカプセルを含まない製剤と比較して、吸光度が高いことが確認できました（図3）。カプセルと油剤に含まれる紫外線散乱剤がすき間なく敷き詰められ、均一な塗膜を形成していると考えられます。
*3 ある物体に光が通った際、光の強度がどの程度弱まるかを示す値
モデル皮膚に、従来の紫外線吸収剤フリーの日やけ止め（オイルベース）製剤と新処方製剤を塗布し、塗布前後の色を比較しました。その結果、紫外線散乱剤内包カプセルを配合した新処方の製剤は、従来の処方と比較して、色の変化が少なく、白浮きが目立ちにくいことが確認できました（図4）。
まとめ
花王独自の「紫外線散乱剤内包カプセル」を配合した新処方の開発により、高い紫外線防御効果と、白浮きせずみずみずしい感触を両立させた紫外線吸収剤フリーの新しい日やけ止め処方の設計が可能となりました。花王は、今後この知見を活かし、グローバルで使用可能な原料を用いて、世界中の生活者が日々使いたくなる日やけ止めの開発に取り組んでいきます。