株式会社河出書房新社(東京都新宿区/代表取締役 小野寺優)は、町田康さん現代語訳『宇治拾遺物語』(河出文庫、税込880円)を、2025年1月10日出来で重版いたしましたのでお知らせいたします。
『宇治拾遺物語』は、中世説話集の白眉として名高い読み物です。町田康さんによる現代語訳版は、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」第8巻『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』に収録、2015年に刊行されました。同全集は創刊時から”古典作品を身近に楽しんでほしい”というコンセプトで創られたシリーズでしたが、その中でも町田版『宇治拾遺物語』は爆笑必至の作品としてたびたび話題を集めてきました。
2024年4月に、河出文庫「古典新訳コレクション」として単巻で発売。よりポータブルに楽しめるようになり、「電車で読むと危険」「なぜほとんどが下ネタなのか…?」など、より広い読者層から支持されています。
『ギケイキ』『口訳 古事記』など、古典作品を軽妙かつユーモア溢れる新訳で現代に蘇えらせる作家が、心の動きを見事に捉えた古典新訳の金字塔!1月19日放送の「NHK短歌」には町田康さんが出演、本作に収録している「奇怪な鬼に瘤を除去される」を、作家でミュージシャンの尾崎世界観さん、歌人の大森静佳さんと鑑賞して話題になりました。大森さんいわく”グルーヴ感溢れる現代語訳”、町田康訳『宇治拾遺物語』をぜひお楽しみください!
■町田康 訳「奇怪な鬼に瘤を除去される」(『宇治拾遺物語』日本文学全集版より)全文ためし読み公開中!
リーダー、って感じの鬼が正面の席に座っていた。そのリーダー鬼から見て右と左に一列ずつ、多数の、あり得ないルックスの鬼が座っていた。
見た目はそのように異様なのだけれども、おもしろいことに、盃を飛ばし、「ままままま」「おっとっとっ」「お流れ頂戴」なんてやっているのは人間の宴会と少しも変わらなかった。
暫くして酔っ払ったリーダーが、「そろそろ、踊りとか見たいかも」と言うと、末席から、不気味さのなかにどこか剽軽な要素を併せ持つ若い鬼が、中央に進み出て、四角い盆を扇のように振り回しながら、ホ、ホ、ホホラノホイ、とかなんとか、ポップでフリーな即興の歌詞を歌いながら、珍妙な踊りを踊った。
リーダーは杯を左手に持ち、ゲラゲラ笑っており、その様子も人間そっくりで、酔っ払って油断しきった社長のようであった。
それをきっかけに大踊り大会が始まってしまって、下座から順に鬼が立って、アホーな踊りを次々と踊った。軽快に舞う者もあれば、重厚に舞う者もあった。非常に巧みに踊る鬼もいたが、拙劣な踊りしか踊れない鈍くさい鬼もいた。全員が爆笑し、全員が泥酔していた。
その一部始終を木の洞から見ていたお爺さんは思った。
こいつら。馬鹿なのだろうか?
そのうち、芸も趣向も出尽くして、同じような踊りが続き、微妙に白い空気が流れ始めた頃、さすがに鬼の上に立つだけのことはある、いち早く、その気配を察したリーダーが言った。
「最高。今日、最高。でも、オレ的にはちょっと違う感じの踊りも見たいかな」
リーダーがそう言うのを聞いたとき、お爺さんのなかでなにかが弾けた。
お爺さんは心の底から思った。
踊りたい。
⇓⇓⇓⇓⇓
■町田康さん本人による一篇全文朗読動画 「序」「雀が恩義を感じる」
河出書房新社 公式チャンネルにて公開中!
■祝重版! オビに翻訳家・岸本佐知子氏による絶賛コメント掲載!
「高校生だった私に教えてあげたい。
古典で、古文で、
腹筋がよじ切れる未来が来ることを。」
■訳者 町田康
1962年大阪生まれ。「きれぎれ」で芥川賞、『告白』で谷崎潤一郎賞、『宿屋めぐり』で野間文芸賞など、受賞多数。他の著書に『くっすん大黒』『ホサナ』『ギケイキ』『口訳 古事記』『宇治拾遺物語』など。
■書誌情報
書名:宇治拾遺物語(河出文庫 古典新訳コレクション)
訳者:町田康
仕様:文庫判/288ページ
発売⽇:2024年4⽉8日
重版出来日:2025年1月10日
税込定価:880 円(本体800円)
ISBN:978-4-309-42099-8