機関である、山田養蜂場グループ 美容科学研究所(所在地:東京都品川区)は、三重大学 伊藤智広 准教授
の研究グループとの共同研究にて、脂肪組織由来間葉系幹細胞※1にローヤルゼリーを添加することで、細胞外小胞※2の
分泌量が増加し、この分泌された膜小胞により線維芽細胞におけるコラーゲン合成や遊走活性※3が向上することを明らかにしました。また、本研究成果は、科学雑誌 『Dermatologic Therapy』(2023 年 6 月発行)に掲載されました。
※1間葉系幹細胞…脂肪組織などに存在している幹細胞。細胞外小胞と呼ばれるコミュニケーション物質を多く作る。
※2細胞外小胞…細胞から分泌される袋状の物質。他の細胞とコミュニケーションを取るため手段として分泌されている。
細胞外小胞の中でも特に小さいものはエクソソームと呼ばれ、美容分野でも注目されている。
※3遊走…傷ができたときなどに細胞が組織を修復するために集まること。遊走活性は細胞が組織修復のために集まってくる能力の高さを示す。
【研究背景】
近年、皮下の脂肪組織に存在する間葉系幹細胞から分泌される、細胞間のコミュニケーション物質である細胞外小胞 (extracellular vesicles , EVs)が、肌のハリに関わる線維芽細胞において、コラーゲン合成や遊走活性を亢進すること が明らかとなっています。細胞外小胞が持つこの機能は、傷の治りを早めるほか、肌のたるみやシワにも関わることから、最新 の再生医療や美容医療での活用の可能性が見込まれています。 女王蜂の生命力の源であるローヤルゼリー(Royal Jelly,RJ)は、ミツバチが分泌する天然物で、特長成分の「10- ヒドロキシ-2-デセン酸」など 40 種類以上の栄養素が含まれています。ローヤルゼリーは、線維芽細胞の増殖やエラスチン 合成の促進作用があることが明らかになっており、化粧品原料としても活用されています。 そこで、ローヤルゼリーが肌の再生を促進する作用を持つか検証するために、細胞外小胞の産生量およびその機能に着 目し、脂肪由来の間葉系幹細胞をローヤルゼリーで培養することで、細胞外小胞の機能にどのような影響を与えるか確認 いたしました。
◆研究の概要をイラストで表すと以下の通りとなります。
線維芽細胞…肌にハリや弾力を与えるコラーゲンを生み出す細胞。間葉系幹細胞から細胞外小胞を受け取って活性化する。
【研究結果】
間葉系幹細胞にローヤルゼリーを添加することで、細胞外小胞の分泌量が増加しました。さらに、これにより得られた 細胞外小胞は、間葉系幹細胞から放出される通常の細胞外小胞よりも、線維芽細胞の増殖、遊走、コラーゲン合成 といった肌の再生に関わる活性を向上させることが確認されました。 このことからローヤルゼリーは、肌の再生を促進する可能性が示唆されました。
<結果①>
ローヤルゼリーは、間葉系幹細胞からの細胞外小胞の分泌を促進する 間葉系幹細胞にローヤルゼリーを添加して培養した結果、ローヤルゼリーを添加せずに培養した場合と 比較して、細胞外小胞の分泌量が増加した。
<結果②>
ローヤルゼリーによって分泌が促進された細胞外小胞は、コラーゲン合成と遊走を促進する 上記①の実験で得られた細胞外小胞を線維芽細胞に添加した結果、従来の細胞外小胞と比較して、 コラーゲン合成および遊走が促進された。
◆細胞外小胞(=EVs)低濃度条件(400 ng/mL)の線維芽細胞の遊走活性
〈その他の結果〉
ローヤルゼリー処理した間葉系幹細胞より分泌された細胞外小胞の機能や特徴を調べた結果、各種コラーゲン など細胞外マトリックスの組成に関連する遺伝子の発現が亢進されていることが示唆された。
【今後について】
今回の研究では、ローヤルゼリーが細胞外小胞の分泌量を増加させ、肌の再生を促進する可能性があることが示され ました。加えて、細胞外小胞の分泌量はローヤルゼリーの種類によって異なることがわかり、それぞれの細胞外小胞は同様 の活性を持つことがわかりました。今後は、細胞外小胞の分泌促進に関わるローヤルゼリーの成分を探索するとともに、肌の 若返りに着目した素材の開発につなげてまいります。 山田養蜂場および山田養蜂場グループ 美容科学研究所は、ローヤルゼリーをはじめ、プロポリスやミツバチ由来乳酸菌、 はちみつなどのミツバチ産品に関する有用性研究や素材開発を通し、社会に貢献してまいります。
<文献情報>
論文タイトル:Role of Royal Jelly Treated Adipose-Derived Stem Cell-Extracellular Vesicles on Fibroblast Proliferation, Migration, and Collagen Production 著者:伊藤 智広 1、出川 朋美 23、伊藤 裕子 4、赤尾 幸博 5、奥村 暢章 23 所属:1 三重大学大学院 生物資源学研究科、2 株式会社山田養蜂場、3 山田養蜂場グループ 美容科学研 究所、4 大阪医科薬科大学 一般・消化器外科、5 岐阜大学 連合創薬医療情報研究科
掲載誌:Dermatologic Therapy 掲載日:2023 年 6 月 26 日、DOI:doi.org/10.1155/2023/7950026