2023年 シチズン・オブ・ザ・イヤー® 受賞者
▽フラワーメイクアカデミー 「ブラインジェンヌ」チーム 福岡県福岡市
目が不自由でも自分で出来る化粧法ブラインジェンヌメイクを考案し、視覚障がい者に向けた講座を広め、自信
や笑顔に繋げている
▽ 三登 浩成(みと こうせい)さん 78歳 広島県安芸郡府中町
原爆ドームの前で、17年にわたり国内外から訪れる人々に原爆の実相を伝え、平和の種まきを続ける
▽ 山田 美緒(やまだ みお)さん 41歳 ルワンダ共和国 キガリ市
ルワンダで、困窮するシングルマザーたちの働く場所づくりや職業訓練など、地域のお母さんが笑顔で暮らせ
る社会を目指し活動している
〔以上、順不同〕
-
フラワーメイクアカデミー 「ブラインジェンヌ」チーム
■行 為
フラワーメイクアカデミー 「ブラインジェンヌ」チームは、目が不自由な人でも自分でメークができる化粧法「ブラインジェンヌメイク」を対面やオンラインで広めている。
「ブラインジェンヌメイク」は視覚障がいのある北條(ほうじょう)みすづさんが、フラワーメイクアカデミーの代表、化粧療法士・江口美和子(えぐち みわこ)さんの監修を受けて考案したものである。「パリジェンヌのように自分を磨く」という思いと、視覚障がいを意味する「ブラインド」を掛け合わせ命名した。視覚障がい者が、当事者目線で、別の視覚障がい者に教え、視覚情報を提供するサポート役がいる点もほかにない大きな特長だ。
小児がんで左目を摘出し、右目はものや色がぼんやりわかる状態の北條さんが本格的にメークを始めたのは、就職活動に入った18歳のとき。ファンデーションを塗り過ぎるなど失敗も続いたが、おしゃれが好きなこともあり、目が見える友人に見てもらい練習を重ねた。自分でメークができるようになると、視覚障がいの友人から「メークを教えて」と言われるようになる。ここまで自己流でやってきた北條さんは、教えるのなら正しく知識を身に着けたいと思うようになり、2019年に全盲の友人の紹介で江口さんが主宰するフラワーメイクアカデミーの講座に参加した。コロナ禍に見舞われ受講は中断するが、メークを教えることにやりがいを見出した北條さんは再び江口さんに連絡し思いを伝えた。このとき江口さんも「徹底的に関わるしかない」と一緒に視覚障がい者のためのメーク法を作っていく決意をした。
2021年10月から北條さんは江口さんの講座を再度受講し、メークを教えるのに必要な知識を身に着けた。同時に、北條さんと江口さんの「フラワーメイク・ブラインジェンヌ」メーク術として試行錯誤を繰り返しながらスタート。コロナが落ち着き始めた2023年1月から12月まで北九州市と福岡市で、視覚障がいの女性を対象に月1回1時間半のペースで対面による講座を行った。
講座は主に、洗顔や顔のマッサージ法などを実践するスキンケア編、化粧の基礎となる知識や仕方を教えるメーク編で構成。指や手を使い自愛の気持ちで自分の「肌に触れる」ことが重要だという。
講座の説明では、顔に複数ある「つぼ」の名称を使う。視覚障がい者は、はり・きゅうの知識を持つ人が多く、顔の部位で説明するよりも的確に伝わると同時に「つぼ」による美容と健康への効果も狙う。また、高価な化粧品や道具を使わず、手近な場所で購入できるものを使う。敷居を低くし、まずはメークを楽しんでもらうことが大切だと考えている。
実際に受講した人は、「自分に自信が持てた」「家族にもすごく褒められた」と語る。メークができたことで、自信や幸福感を感じるきっかけとなり、「前に進む力」「自己表現」につながっていく。
その他の活動では、地元の「国立福岡視力障害センター」に通う訓練生にも講座を行ったほか、動画投稿サイトYouTubeを活用して「ブラインジェンヌメイク」を紹介している。
視覚障がい者でも健常者と変わりなくメークができる人を増やしたい。北條さんと同じように教えられる視覚障がい者を全国に広げたいという思いを抱き、「フラワーメイクアカデミー」として法人化を進め、ブラインジェンヌチームとして始動している。北條さんは、「自分でメークした視覚障がい者が出演し、目が見えない人でも理解し楽しめるファッションショーをいつか開催したい」と夢を広げる。
■表彰理由
視覚障がい者が、当事者の目線で教える視覚障がい者向けメークは他にはないもので、またそれを実践的なメーク法として作り上げた関係者の努力を大いに評価したい。「見えなくても、メークをするだけでモチベーションが上がり、自分らしくいられる」という北條さんの言葉が印象的である。メークが自信につながり一歩踏み出す勇気をもたらすという、視覚障がい者にとってのメークの意味を掘り下げ、社会に広めている意義は大きい。
■受賞コメント
活動を始めて1年。まさかの朗報にドッキリではないかと疑ってしまうほど驚くとともに、嬉しさで胸がいっぱいになりました。この受賞を励みにチーム一丸となり、視覚に障害のある方々でもメークやファッションを楽しんで自信に繋げられる活動を継続し、自分らしさの魅力と咲顔(えがお)あふれる輪を広げていきます。
■連絡先
フラワーメイクアカデミー
住所:福岡市中央区輝国2-16-35 101 E-mail:flowermakefleurir@gmail.com
-
三登 浩成(みと こうせい)さん
■行 為
1945年(昭和20年)8月6日、広島市に投下された原爆の悲惨さを今に伝える原爆ドームの下には、今日も三登浩成さん(78歳)の姿がある。雨の日以外はほぼ毎日、自宅から自転車で約40分かけて原爆ドームに通い、朝10時から17時頃までドームの前に立つ。得意な英語を生かし、国内外から訪れる人々にボランティアで原爆の事実を伝えている。これまでに延べ30万人以上を案内し、うち約9万5,000人が計180カ国から訪れた外国人だ。
三登さんは、母親のお腹の中で被爆した「胎内被爆者」である。父も母も被爆の体験を語ることはなく、20歳の時に母から「被爆者健康手帳」を渡されて、初めて自分が「胎内被爆者」だと認識した。
大学卒業後は県立高校で英語教師をしていたが、50歳の年に転機が訪れた。研修で平和記念公園内の碑巡りに参加し、車いすで被爆体験の語り部を続けていた沼田鈴子さん(2011年に87歳で死去)と出会った。彼女の話を聞き、自分も家族も被爆者でありながら、あまりにも知らないことが多いことにショックを受けた。「自分のような若い被爆者が後を継がなければならない」と思い、58歳で教員を早期退職し、独学で原爆について学んだ。資料館のガイドも務めたが、交代制で週1回しかできない。毎日ガイドをしようと、2006年の夏に、60歳の年からドームの前でガイドを始め、17年以上続けてきた。
ガイドの目的は「平和の種まき」だ。これは沼田さんの手記にある言葉で、核廃絶のために、なるべく多くの世界の人たちに原爆の実相を伝えるということ。そのために、事実を正確に、分かりやすく、心に響くように伝えることを大切にしている。
三登さんはガイドをする際、まず「被爆者健康手帳」を見せて自分と家族の話をする。写真やイラスト、図表を用いて原爆や核兵器についてまとめた自作のファイルブックを使い、「なぜ広島に原爆が落とされたのか」「どのように投下され、どこで爆発したのか」「爆発後に何が起きたのか」「放射線はいつ無くなったのか」「インフラの素早い復旧の秘密」など、「ヒロシマ」の基礎知識を伝える。時間のある人には、被爆地蔵、墓地、爆心地などへのガイドも行う。ファイルブックは、「母国語に翻訳したい」と申し出てくれた外国人の力を借りて、現在は8カ国語を用意。1~2時間かけてじっくりと読みふける人も多い。観光客や留学生、大人から子どもまで様々な人が訪れるが、この地までわざわざ足を運ぶ外国人は、関心の度合いが日本人とは全く違うという。一番多い質問は「残留放射線はいつまで残ったのか」。鋭い質問をぶつけてくることもあるので、「生半可な知識では答えられない」と話す。あらゆる質問に答えるため、数百冊の原爆関係の本を読んでいる三登さんは常に新たな情報の収集も怠らない。
そんな三登さんの元には、世界中からお礼のメールが届く。事実を知って、何を感じ、どんな行動をとるかは人それぞれだ。その「事実」を伝え続けることを、元気な限りこれからもこの場所で続けていきたい。
■表彰理由
延べ30万人以上に案内という実績だけでなく、自作のガイドブックを8カ国語で用意して多くの人たちに分かりやすく伝えようとする努力と、胎内被爆者としてひとつひとつ、平和の種をまくように言葉を紡いでいくその姿に人間的な力強さを感じ、感銘を受ける。ウクライナや中東など、世界で紛争が止まない今、平和を願い活動する三登さんをはじめとする原爆の語り部の人たちの意味はこれまで以上に大きいと感じる。
■受賞コメント
突然の受賞の知らせを聞いてびっくりしました。「市民生活に感動を与えた人々を讃える」という趣旨を知り、感動が湧いてきました。私のガイド活動の評価はガイドした人たちの反応や、感謝のメールで十分でしたが、こんな形で評価されるとは思ってもいませんでした。家族をはじめ、ガイド仲間や私の活動を応援してくれた人たちも自分のことのように喜んでくれました。これからも健康である限り、雨の日以外は毎日なるべく多くの人たちに「事実」を伝えます。
■連絡先
ボランティアグループFIG(Free and Informative Guide)代表 三登 浩成
E-mail:mi-to@enjoy.ne.jp ブログ:「ヒロシマの視線」http://blog.livedoor.jp/mitokosei-3105/
-
山田 美緒(やまだ みお)さん
■行 為
アフリカのルワンダ共和国は、1994年に民族紛争で約80万人以上が犠牲となる大虐殺が起きたが、近年「アフリカの奇跡」といわれる経済復興を遂げた。一方で、貧富の差は大きく、国民の約半数を貧困層が占め、シングルマザーの増加が社会問題となっている。多くは10代でシングルマザーになるため、十分な教育を受けておらず、職にも就けない。
こうした困窮するシングルマザーたちの生活向上を目指し、働く場所づくりや職業教育などを行っているのが、山田美緒さん(41歳)である。現地でソーシャルビジネスの会社「KISEKI」(以下表記「キセキ」)を運営し、各種の支援事業を展開している。そのコンセプトは「地域のお母さんが笑顔で暮らせる社会を創る」。現在35人いるスタッフはすべて現地採用のルワンダ人で、この内、女性は32人で多くがシングルマザーだ。
山田さんは夫の仕事の関係で、2016年に家族で移住した。間もなくキガリ市内で和食レストランを開業し、シングルマザーを雇用したことで、彼女たちの置かれた過酷な現実を知る。「彼女たちの貧困を断ち切りたい」という強い思いが支援活動を推し進める原動力である。
「キセキ」の事業は多岐にわたる。中でもユニークなのが、2018年から始めた「Dress for Two」。アフリカ産のキテンゲという縦5.5メートル、横約1メートルの布地をルワンダ人と日本人が共同購入し、半分に分け合う。購入費は、日本人が多く負担(1万2000円~2万4000円)するのに対し、ルワンダ人は200円程度。布は購入者の希望によって、巻スカートやラップドレスなどに仕立てられるが、縫製をルワンダで行うので、シングルマザーには縫製の仕事で収入が生まれる。そのため、2022年に職業訓練支援として縫製のトレーニングセンターも開設。2023年10月に最初の卒業生を送り出し、現在15名が学んでいる。
母子支援では、2018年に幼稚園の運営を始め、2022年には託児所や子ども食堂を開設。タブレット端末やオンラインによるICT教室も始めた。さらに「The First1000days」(※)プログラムでは、妊産婦ワークショップなども行っている。
一方で、次世代の人材育成にも力を入れている。それが、アフリカでの社会事業活動に関心がある日本の若者に、現地での様々なボランティア体験を提供する有料の「ボランティア・インターンプログラム」だ。「キセキ」の施設でのボランティア活動だけでなく、ホームステイや体験ツアー(スラムツアー、農村体験ツアーなど)もあり、日本から多くの学生や社会人が参加する。コロナ禍で一時中断したが、これまで延べ500名以上が参加した。2017年開始時はお金を払って日本人のインターンを募っていたが、2018年から有料化。基本費用は1週間500ドルで、参加者の中には数カ月以上の長期滞在者もおり、このプログラムが「キセキ」の事業を収入面から支えている。
「私たち日本人がアフリカの人たちの生き方から学ぶことはたくさんある。キセキで学ぶ場を用意して待っているので、挑戦してほしい」と語る山田さん。そのために2024年はオンラインで、2025年は実際に訪問をして、全国の小学生、中学生、高校生、大学生向けの講演や授業を届けたいと考えている。
※子どもの成長にとって重要な、妊娠中から生まれて2歳までの1000日間に集中的に栄養と教育のケアを
行うこと
■表彰理由
支援内容が、生活支援、雇用促進、子どもの教育などと幅広く多岐にわたり、しかもオリジナリティがある。また、支援する側、受ける側双方がウインウインの関係になれる取組みもあり、とてもよく考えられている。さらに、日本の若者に向けた次世代人材育成という面でも大きな貢献をしていることも評価したい。だが何よりも、活動の中で、何度も裏切られたり、騙されたりと様々な困難に遭っても、その度に立ち上がってきた山田さんご本人のバイタリティと前向きな生き方に感動する。
■受賞コメント
受賞のことを社員に伝えると、歌って踊って大喜びしました。ほぼ全員が最貧困家庭のお母さんたち。子どもを背負い仕事を探し歩き回っていた過去を思えば、この賞は奇跡です。関わってくれたすべての方々へ感謝の気持ちでいっぱいです。これからも手の届く世界で、今できる最大限の行動を続けたいと思います。
■連絡先
「KISEKI ltd」 ホームページ:https://kisekirwandatravel.com/
【 選考方法について 】
2023年1月から12月までに発行された日刊紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞の東京および大阪本社版、北海道新聞、河北新報、東京新聞、中日新聞、西日本新聞)の記事の中から、シチズン・オブ・ザ・イヤー事務局が候補として20人(グループ)をノミネート。2024年1月5日に開かれた選考委員会で候補者を対象に審議し、決定しました。
〔 選考委員会 〕
委 員 長:山根基世(元NHKアナウンス室長)
委 員:尾崎 実 (日本経済新聞社 社会部長)
酒井孝太郎 (産経新聞社 社会部長)
サヘル・ローズ (俳優、人権活動家)
竹原 興 (読売新聞社 社会部長)
龍澤正之 (朝日新聞社 社会部長)
長谷川 豊 (毎日新聞社 社会部長)
益子直美 (スポーツコメンテーター)
※敬称略・五十音順
【 シチズン・オブ・ザ・イヤー® について 】
日本人および日本に在住する外国人の中から、市民社会に感動を与えた、あるいは市民社会の発展や幸せ・魅力作りに貢献した市民(個人もしくは団体)を1年単位で選び、顕彰する制度。市民主役の時代といわれる中にあって、広い視野から市民を顕彰する賞がほとんど見られなかったことから、社名に“CITIZEN(市民)”を掲げるシチズン時計が1990年に創設したものです。
略称「シチズン賞」。
◆「シチズン・オブ・ザ・イヤー®」ウエブサイト:https://www.citizen.co.jp/coy/index.html
―― 以 上 ――
関連URL :