全体のサマリ
(個社名は順不同)
日経225のうち、AIと人間が共に最高点をつけたのは東急不動産HD・旭化成・日立製作所・日本航空・東京電力HD・NTTデータグループの6社
人的資本開示のスコアで満点がついた企業はAI:18.4%(41社)・人間:7.6%(17社)、平均点以上満点未満の企業はAI:30.5%(68社)・20.6%(46社)、平均点未満となった企業はAI:51.1%(114社)、人間:71.7%(160社)
AIと人間のスコアに最も差異が現れたのは日東電工・三井不動産の2社、次いで小田急電鉄・ヤマトHDの2社
元々無機質な有報に新しいテイストの人的資本開示が加わったことで読み応えが増し、高得点企業群では経営の意思や姿勢、想いまで伝わってくるものが見られ、人的資本経営や開示姿勢に差が表れ始めたことがわかる
本編
人的資本経営の情報開示元年から2年目、いよいよ本格的な開示が始まりました。本レポートでは、2023年度の決算期にあたる有価証券報告書が出揃ったこのタイミング(2024年7月)で、上場企業4000社の人的資本情報の開示スコアをChatGPT(AI)およびコンサルタント(人間)の両者が全件チェックを行い、結果を考察します。
本レポートは、全5回シリーズであり、第1回目のレポートでは先行して日経225銘柄に選定されている各社についてのレビューを行いました。
尚、スコアリングはAI・人間共に以下5つの基準・4段階で実施し、100点換算しました。
1. 人的資本KPIの網羅性
・最低点:法定開示事項のみ
・最高点:ISO30414における人的資本経営の11観点に関連するKPIを網羅
2. KPIの年度カバー
・最低点:当該年度のみの開示
・最高点:過去~未来を網羅し開示
3. 取り組みの具体性
・最低点:具体施策の記載なし
・最高点:具体施策・対象者・実施方法・効果検証方法などを記載
4. 戦略との連動性
・最低点:戦略との関係性言及なし
・最高点:人的資本KPIと経営KPIのつながりを明示
5. 独自性
・最低点:独自指標なし
・最高点:独自指標を設定し、関連する施策と効果を定量的に記載
スコアリング結果
まず、AIと人間が共に最高点(100点)をつけたのは東急不動産HD・旭化成・日立製作所・日本航空・東京電力HD・NTTデータグループの6社(順不同)でした。
この6社は開示内容が非常に充実しており、会社の考え方や姿勢などを感じ取ることができます。
次に日経225の平均点ですが、AIは82.42点、人間は75.56点となりました。内訳ですが、満点がついた「積極的に開示していこうという意思、意欲が見られる企業」はAI:18.4%(41社)・人間:7.6%(17社)、平均点以上満点未満となった「必要最小限の開示情報にプラスアルファする形で、人的資本に関する開示があり、開示に比較的前向きな企業」はAI:30.5%(68社)・人間:20.6%(46社)、平均点未満となった「開示は必要最小限に留まっている、または開示内容について試行錯誤中であり、思いを込めるまでには至っていない企業」はAI:51.1%(114社)、人間:71.7%(160社)となっており、人間による判断を伴う方が高スコアをつけにくい形になりました。
次にAIと人間で点数に大きな差異が認められた会社を見てみると、日東電工・三井不動産はAIの方が人間よりもスコアが高くなりました。一方で、小田急電鉄とヤマトHDについては、人間の方がAIよりもスコアが高くなっています。
このようなスコアの差は何によって生まれたのかについて、AIの結果と人間のスコアの相関を見てみると、具体性や戦略との連動性に関わるスコアは相関が低くなっており、経営と人的資本開示のつながりなどをAIが紐解いてスコアリングするといった精度での分析には、根拠となる情報(開示情報)が不足していることがわかりました。逆に、人間が分析する際には、その行間を読み取っているということがわかります。(詳細な解説は次回以降に譲ります)
総括
ここまで今回の調査概要と速報をお送り致しましたが、日経225銘柄に選出されている企業で、人材マネジメントの取り組みがない企業はほとんどないはずです。にもかかわらず上記のような人的資本開示に関する差が認められた「理由」について、コンサルタントが各社の実際の状況や一部の会社の経営者や人事に対するヒアリング結果を踏まえつつ検討したところ、概ね以下の5点に集約されました。
▼各社で差がついた理由考察、5つの理由
1. 企業としての人的資本情報開示そのものに対する姿勢や意欲、優先度
2. 自社の人的資本経営についてのストーリー構築力・語る力
3. 人的資本マネジメントに対する考え方や内容、施策を表現するケイパビリティ
4. 人的資本情報を、事実や数字で補足する組織としての能力
5. 人的資本情報開示に向けて人を確保し、工数を投じる意思
現時点では、人的資本開示の仕方そのものに対して、良くも悪くもオリジナリティが認められており、読み手である投資家からすれば、各社比較は非常に難しい状況と言えます(良い言い方をすれば読みごたえがあるという言い方もできます)。
そのため開示内容の充実度を把握できれば、投資家にとって、経営の姿勢、意思、考え方を理解するための重要な情報源となるはずであり、次回以降は日経225以外の上場企業のスコア、業界におけるスコアの特色や差異、Chat GPTのプロンプト設定の要諦など様々な観点からの分析結果を順次お送りして参ります。
著者情報
岡本 努(株式会社人的資本イノベーション研究所 代表取締役、J.P.コンサルティング株式会社 エグゼクティブアドバイザー)
デロイトトーマツコンサルティング合同会社における25年間のコンサルタントとしての経験を経て、2024年4月、人的資本イノベーション研究所を設立し、代表を務める。一貫して組織・人事にフォーカスした経営コンサルティングに従事し、最近では、人的資本経営、人的資本イノベーション、Well-beingなどに注力している。
小野 裕輝(J.P.コンサルティング株式会社 代表取締役)
外資系コンサルティングファームにおけるディレクター職を経て、現在はJ.P.コンサルティング株式会社の代表取締役を務める。クライアントのことをクライアントよりも考え、CHRO代行などの戦略領域から業務・システム領域までの包括的サービス提供に強みをもつ。2014-2018年はシンガポールへ駐在し、アジア全域の日系企業を支援。
問い合わせ先
J.P.コンサルティング株式会社
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